第三章 土曜日
明くる、土曜日。
俺の身体全体は黒い毛皮に覆われている。しかし、獣化した腕や脚をここ数日に渡り見ていたため、最早見慣れてしまった。
無事に人間らしいと思えるのは、左腕と右脚だけ。だいぶ、変わって来ている。
明日、明後日になれば、完全に獣人化してしまうと言う事も頭の片隅に置いてある。
俺は獣化を気にせず、邪獣王の魂と言うアイテムについて、調べていた。
レベルはカウントストップだ、レベルを上げる必要は無い。仲間にはしばらく席を外す旨を伝えてあった。
……とは言ったものの、これと言った成果なんて一つも無いのが現状だったり。
いくら検索を掛けてもほとんど引っ掛からないし、詳細なんかが分かるはずもなかった。
しかし、邪獣王の魂を拾った者のとあるブログに興味深い……いや、昨夜の俺達と同じ様な症状がつづられていた。
バグ、ノイズ、エフェクトの変化、グラフィックの異常……。
やはり、あのアイテムは――
バグを引き起こす起因なのか。
その後は特に良さげな情報を手に入れる事は出来なかったため、俺は再びあの掲示板を検索した。
獣化伝の獣化現象について
そのタイトルの掲示板を見つけ、クリックした。
この間掲示板を覗いた時は、書き込み件数が900件を軽く超えていたはずだ。
しかし、この掲示板の書き込み件数は、324件となっている。
書き込み件数が1000件を超えたために新しくしたらしい。その旨が一番最初の書き込みに記されていた。
……お、一番最初の書き込みには更に、初めてこの掲示板を見たプレイヤーへ向けて、まとめが綺麗に書いてあった。
獣化現象について、ゲーム開始から身体の各部位の変化。
しかし、最後には五日目以降人目を避ける様にとの警告もあり、事態の深刻さを文体によって表現してあった。
まとめに軽く目を通す。
七日目:右脚
新しい部位変化が載っていた。
七日目で全身が獣人になるのなら、八日目は一体何が――
逸る気持ちを無理矢理押さえ付け、俺は深く息を吸った。
明日になれば、分かるだろう。
三日後には、自分だって同じ運命を辿るに違いない、待っていれば現象の方から俺を迎えに来てくれるさ。
俺は書き込みを一つ一つ調べて、時刻が正午を回って食事をとってからやっと獣化伝へとログインした。
――――――――――
【PT】TIGER:ちゃお~
【PT】AIR:あ、虎来たー
【PT】緋熊:遅かったじゃん!
――――――――――
挨拶もそこそこに、俺はギルド員専用のメインページを開いた。
俺を除く他の仲間達が、今どこにいるのかを調べたかったからだ。
ギルド員一覧を見ると、全員街にいるらしい。
……一体何をしてる?今日はイベントも無かったはず。
しかし、俺のキャラは未だに昨夜と同じくダンジョンの最深部の安全なエリアにいる。
身動きは、取れない。
さて、どうしたものか?
俺が思うに、ここは一度力尽きて街に強制送還されるのが得策かと。
昨日手に入れたライドラを駆っても、道中のマップ数が多く、着くのは相当遅くなる。
デスペナルティーは、現在の経験値の3%が引かれるだけ……と考えると、後者の方が手っ取り早い。
俺は早速奥義「死に戻り」をするべく安全地帯から飛び出した。
その際、防御力をカバーする鎧を取り外し、周囲のザコ敵を殴ってかき集める。
防具は意外と防御力上昇が高く、取り外した状態だと見る見る内にHPが削られていった。
少し自分のキャラに罪悪感が残るが、時間差を考えると、どうにも。
力尽きる寸前に、再び鎧を付け直し、俺のキャラは遂に昇天してしまった。
画面中央を陣取る、
「復活地点に戻りますか?」
の文字とウインドウ。
その文字の下には、0:59:59とカウントダウンを告げる数字が。
どうやら、この数の時間内に応答が無ければ強制送還らしい。
俺は今すぐに帰りたかったため、迷わず「はい」と書かれたところをクリックした。
一瞬画面が暗くなり、俺のキャラは次の瞬間には街に着いていた。
きっちりと経験値3%が引かれ、HPが1%になっている所を見ると悲しくなったが。
よし、取り敢えず聞いてみよう。
――――――――――
【PT】TIGER:みんなどこいんの?
【PT】BEAR:露店
【PT】緋熊:露店いるよ~
【PT】Riou:露店の物色だ。お前も来いよ!
――――――――――
なるほど、露店か。
そう言えば、あれから回復アイテムも無くなって来てたな。
丁度良いか、俺も行こう。
俺は獣王街の北部にある露店エリアへ向けてライドラを走らせた。
獣王街は、中心部にレオンベルガー像、北部に露店街と戦士ギルド、南部に魔術師ギルド、東部に聖職者ギルド、そして西部に盗賊ギルドが点在する。
転職の際は、それぞれのギルドへ転職クエストを受けに走って、無事にクエストを完了、報告出来れば終了になる。
そう言えば、俺の時は皆に手伝ってもらってたな……何故だか今じゃもうだいぶ前の様に思えるのだが。