第三章 バグ
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少々見難いかとは思われますが、何卒ご了承下さい。
うわ、俺があんな馬鹿げたアイテムを持っていたばかりに……。
この攻撃によって全員が死ぬ事なんて、目に見えていた。
俺や緋熊でさえあんなダメージだったんだ。Ver.2ともなれば、確実に死亡フラグ。
最早避ける事も出来ないだろう。
俺は、今度は虎の形をしていなかった大波に飲み込まれそうな三頭身のキャラ達を、無表情に見ていた。
あぁ、デスペナルティ食らったらどうしよう――……。
そんな次の事を考えていた。
どうせ今、画面には
〈力尽きました〉
と表示されているに違いない。
……見たくなかった。
俺は身体を椅子に深く預ける。
脱力感を感じた。
しかし見なければ先には進めないため、俺は嫌々ながらもその画面に目を向けた。
……波に、飲み込まれる。
その様を眺める俺の耳には、スピーカーから漏れる調子の外れたBGMと、ノイズ交じりの効果音しか聞こえなかった。
――直撃した。
きっと、この場に居合わせた七人全員が、瞬間的にそう思っただろう。
ノイズが、俺の耳を貫く。
ザ……バッ……ザザザ……
辛うじて、それがこの波による効果音だと気づいた。
波が引くと、俺のキャラの頭上に、先程と同じ様にダメージ数が表示される。
〈@98^7\6#$〒☆5432%!?〉
一瞬ならぬ、数秒間俺が自分の目を疑ったのは、言うまでも無い。
……こんな馬鹿な数字と記号、有り得るか!!
誰しもがそう思ったであろう。
実に意味の無い数字と記号の羅列の様に、それが意味をなしているとは到底思えなかった。
大波の直撃を受けたキャラを改めてみると、ダメージなんて全く食らっていない。
ピンピンしている。
なら、今のは何だったのだろうか。
……バグ?
そうとしか考えられない。
一体全体、何がどうなっているのだろう。
……ってそうじゃない!
早く皆のためにコイツをどうにかしなきゃだろ、俺!
――――――――――
【PT】Riou:みんなノーダメだよな?さっさと倒そう、マジでヤバイ・・・
【PT】TIGER:倒したら元に戻るかな?
――――――――――
勝手な解釈を織り交ぜつつ、俺達は必死に手を動かした。
大海の虎の残りHPは、10%以下。もう俺達の勝利である事は確定したものだろう。
先程の様にバグダメージ数が表示されれば、痛くも痒くもない。
俺達はひたすら攻撃を続けた。
今や目的も何もかも忘れて、ただただ殴っていた。
もうドロップ品なんて、関係なく。俺は必死に願っていた、コイツが早く倒れればいいのにと。
不意に、敵の断末魔がノイズと共にスピーカーを通して俺の聴覚を刺激する。
トラ耳へと届けられた不協和音は、長らく俺の耳に余韻を残したのだった。
……やっと、終わったんだ。
この一時くらい、安堵の溜息を吐いてもいいだろう。
大海の虎が消滅した今、俺が脅かされることは無いのだから。
画面に目を移すと、複数のボスドロップ装備。
中には、ライドラと思われるものも落ちている。数を数えると、ライドラは六つ落ちていた。
全員分が一度にして揃ったのは、運が良かったのだろうか?それとも、バグの影響……?
しかし、それを気にしていたらアイテムが消えてしまうため、各自でライドラを回収した。
ドロップアイテムは俺が拾い、分配する。俺は自分の利益だけがあればそれで良い。
ふと気がついた時には、BGMに混じるノイズや、画面の砂嵐などは消えていた。
きっと、運営に問い合わせても原因などは答えてくれないだろう。
未だにノイズが耳に残り、俺はむしゃくしゃしてBGMを流し続けるスピーカーの電源を乱暴に切った。
静かな部屋の中、俺の息遣いだけが耳に残る。
――――――――――
【PT】FAR:いやいや、なんか怖かったね、お疲れ様!
【PT】BEAR:乙、これ絶対何かおかしいよな?
【PT】Katze:お疲れ様です。一体何だったんでしょう?
――――――――――
緊張の糸がふつりと切れて、俺は椅子の背に左腕を掛けながら、疲れた瞳をしきりにこする。
俺以外の仲間達が今起こった謎の出来事について語り合っている。
しかし、俺にはもうそんな気力は残っていなかった。
激しい疲労感を感じた。
ふと画面に目を戻す。俺の反応が無い事が気になったのだろう。
――――――――――
【PT】AIR:虎?だいじょぶ?
【PT】TIGER:あぁ、疲れただけだよ。あんなの初めてだし、気が張ってた
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それに同意する声が上がり、俺達の楽しい冒険劇は、今日のところはお開きに。
獣化伝をログアウトする時、俺の脳裏にはあのアイテムが原因だと言う事しか頭に無かった。