第三章 ノイズ
俺達の地道な努力の甲斐あって、遂に奴のHPが10%程を示した。
その時――
〈がぁぁぉぉるるる!!!おのれ……!今こそ、真の力を解放せん!!〉
その台詞の後、大海の虎に恐ろしいまでの急激な変化が起きた。
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【PT】TIGER:何だコイツ!?
【PT】Riou:こんな事、今まで無かったぞ
【PT】FAR:超嫌な予感・・・
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大海の虎の、格好良くも若干可愛かったグラフィックが、突然白目を剥いた。
続いて群青の毛皮が、赤黒い不気味な毛色に変化する。
牙と爪のグラフィックも異様に大きくなり、バグの様に画面がブレ始めた。
俺のデスクトップ両脇に設置されたスピーカーから聞こえるBGMや効果音にも、何やらノイズが混ざり始める。
……なんか色々ヤバイ臭いが。
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【PT】BEAR:おいおい、バグじゃないか?
【PT】緋熊:ノイズ・・・?
【PT】AIR:ちょっと・・・、ボス更に強くなってない?
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ガ……ッ!
ピー!
ザザ……ッ
ザーッ――……!
ノイズの合間に挟まれる、テレビの砂嵐の様な、耳障りな音たち。
音と同時に、画面が時折明滅したり、砂嵐が現れたりするのが、余計恐ろしい。
確かにボスは強くなっていた。
緋熊の被害ダメージが増えたのだ。
……その増加量は、約二倍。
残りHPが10%だからと、油断した。
防御力はさほど変わらなかったため、特攻は相変わらずだが。
回復役に回っている二人は、交互に緋熊のHPを回復していた。……引っ切り無しに。
すぐ尽きるMPが、その壮絶さを物語る。
変化は、余りにも唐突だった。
攻撃力は二倍に、防御力の変化は無くとも、攻撃速度が異常な程上昇している。
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【PT】Riou:早く始末するぞ、何が起こるか分からない
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俺も先輩と同じ気持ちだった。
早く、倒さなければ……。
そうは思えども、中々にしぶといこの虎。
今や緋熊VS大海の虎になりつつある。
比べているのは、耐久力だ。
しかし、緋熊サイドには回復役が二人もいる。それも結構有能な。
最早俺達の勝利は確信したものと、そう思っていたのは、自惚れだったのか。
〈力尽きる訳にはいかぬ、我には愛すべき子らと、この海原があるのだから……!!〉
〈タイガー・タイダルウェーブVer.2!!〉
台詞と共に、画面上を四方八方に飛び散る水飛沫、続いて、先程よりも大きな津波のグラフィック。
ちょ……!Ver.2ってなんだよ!
さっき死にかけたんだぞ……!?
まさかまた使って来るなんて、予想しているはずも無く――……。
津波の効果音にまで及ぶ細かなノイズ、次の瞬間、俺達のキャラは大波に飲み込まれたのだった。