第三章 大海の虎
――――――――――
【PT】FAR:出たぁー!!へるぷみー!!
――――――――――
……よりによって魔法職のファーと出くわすだなんて。ファーも運が無いな。
しかしここは作戦通りに、マップ中心部へと向かわなければ。
来た道を素早く引き返し、俺は全員の集合場所へとキャラを走らせた。
……一足早く来たのかな。
未だ誰も到着しない空っぽの空間にて、一人ボスを待ち構える。
次々と合流する仲間の内、ボスを連れて来るべきファーだけが来る事は無く。
まさか力尽きた訳じゃないよな?
――――――――――
【PT】FAR:死ぬっ!
――――――――――
その一言と共に駆け込んで来た狼を見た瞬間、俺はリアルに安堵の溜め息を吐いた。しかし、その安堵の溜め息は瞬時に撤回せざるを得ない。分かっていたと言えば分かってはいたのだが。
深い深い海の様な群青色の毛色と、腹側を覆う白い毛皮に、灰色の幾筋もの縞模様。
かつての敵、悲嘆のグリフォンと同じく、その巨体は画面の半分を占める程大きい物だった。
……これが、大海の虎。
……皆怖じ気付いたのか、逃げ回るファー以外誰も動こうとしない中、白虎の獣人が飛び出して素早く魔法詠唱を開始した。
――――――――――
【PT】Riou:まずは叩いてHPを削るぞ!
――――――――――
〈アイスニードル!!〉
氷をアイスピックで粉砕するかのごとく、バキバキと音を発てて地面から氷の針が召喚される。
先輩のスキルだ。
呆気に取られている間、いつの間にか緋熊達も動き出していた。
そうだ、俺も壁役として皆を守らなきゃいけないんだ。
ハッと気が付き、俺は自身の攻撃、防御強化スキルを発動してから、殴り込みに掛かる。
魔法職に遅れを取るだなんて、皆を捨てているのと同じ……そう思った。
〈虎の咆哮!!〉
深蒼の虎は、壁役の緋熊に執着して集中的に攻撃を浴びせている。
対する緋熊は、補助魔法スキルなどの効果により大した被害も無い様だ。