第三章 嗅覚
午前中はゲームを満喫したのだが、
やはり明日が気になって仕方が無い。
……顔と身体が獣化……。
そうなった俺を見たら、母さんや友人達はどう反応するのだろうか。
いや、こんな詰まらない事なんか考えていても……な。
不意に、腹の虫が鳴った。
あ、そう言えば朝飯食って無い。
時刻は正午、俺は安全地帯に行き、皆に「昼飯!」と一言残して居間へと向かった。
母さんを呼び、昼飯としてスパゲティを作って貰う事に。
俺はミートソース派、母さんはカルボナーラ派である。
何故ミートソースのこの深い味わいを分からないのかが疑問でならない。
多めの量だったのにもかかわらずぺろりと平らげ、俺はまた自室へ引っ込んだ。
ただいま、と一言入力した後、PT狩りに参加する。
目標は取り敢えず、全員のレベルを現在の上限である50にする事だ。
夢中になってゲームをしていたら、突然母さんに呼ばれた。
「虎獅、お夕飯よ。あんた仕方無く学校休んでるのにゲームばっかりして!」
夕食へと呼ぶ声と共に、俺に対しての文句をぶつくさ言っている様だ。
「仕方無いだろー?こんな姿じゃ学校に行けねぇんだからさー」
返事もそこそこに、いつの間にか随分と経っていた時間を埋める夕食がある事を告げ、俺は再び席を外した。
……嗅覚は鋭くなってるから……匂いで分かるかな?
好奇心とは、常に俺の心をもてあそぶ。目をつぶると、俺は集中して大気の匂いを嗅いだ。
とろける様な甘い香りを中空に満たし、それでいて甘い香りを上回るスパイスの利いた、母さん特製、俺の大好物。
……カレーだ。
俺は正体の分かった夕飯に意気揚々と胸を踊らせ、自室から飛び出した。
絶対おかわりしてやるんだからな!
☆ ☆ ☆ ☆
「おかわりっ!!」
「はいはい、急いで食べないの。母さんの作ったカレーなんだから味わって食べなさい」
家の家族構成は
出稼ぎの父
専業主婦の母
専門校に行った兄貴が一匹
働きに出た兄貴が一匹
そして、末っ子の俺
基本的に家には俺と母さんしかいないため、実にのんびりとした生活が出来るのだ。
親父が居ない間だから、帰ってきたらPCに張り付いていられる。
しかし、親父は数年に一度しか帰ってこない為、少しの寂しさもあるが、ゲームに比べたら……。
何の寂しさもこみ上げてこないのが、本音である。
薄情な息子と思われるかもしれないが、全然構ってくれない親父と、飽きないゲーム……。
どっちを取るかと問われれば、俺は躊躇う事無くゲームを取る。