第二章 右腕
「よぅ、虎獅。お前も右腕?」
教室に入って早々掛けられる、奏江の無遠慮な一言。
「あぁ、やっぱ隠したか?」
言いつつ奏江を見ると、まくり上げられたワイシャツの袖から覗く、指先までを覆う白い包帯。
「こんな毛むくじゃら、晒してる方がおかしいからな」
奏江は苦笑気味に後ろの二人を呼ぶと、二人もまた包帯を右腕に巻き付けていた。
だよな。「普通」じゃないんだ。
……俺達は、もう。
その後始まったホームルームでは、坂田はあまり言及しては来なかった。
気を使ってくれたのだろう。
その気遣いがありがたかった。
昼休みまで問題無く授業を終え、弁当を食べてから四組へ向かう。
「昭楽、朱羽!」
「虎獅君っ。行こう、昭楽」
俺を待っていたのか、俺に気が付くと二人は尻尾と耳を揺らしながら軽快に走って来たのだ。
……しかし、彼らの右腕にもまた、白い布が巻かれていた事に、俺は何故か心が痛んだ。
俺の顔を見るや否や、朱羽は俺の背後を覗き見る。
「もしかして昨日の三人も来てくれた?」
「あぁ。顔合せて置かないとかなってさ」
俺はそう答えたが、実の所はもっと皆お互いに親近感を持ってもらいたくて。
「緋熊の柿沼朱羽、よろしく!」
「カッツェをやっていた朝日昭楽です」
朱羽の気軽なテンションに飲み込まれる、遥霞、藍琉、奏江の三人。
しかし、同じゲームをやっている同志である事が幸いしたのだろう、仲良く会話をし始める彼らを見ると、自然と顔がほころんで来るのだ。
「ねぇねぇ、僕たちレベルも近いしさ、固定パーティー組まない?」
朱羽の思わぬ発言ではあったが、俺達は迷う事無く了承した。
固定PTとは、ある限られたメンバーでのみ構成されるPTである。
固定PTをするメリットとしては、決まったメンバーのみが顔を合せる為、役割が確定して来たり、信頼性の向上、各自で壁役・突攻・補助回復を分担し、ダンジョンでの冒険やボス戦が楽になったりする。
逆にデメリットを挙げると、
他のプレイヤーとPTを組む事が出来ない、ソロプレイが出来ないなどが該当する。
それに、固定PTを作ってしまうと、そのプレイヤー達はある一種の組織と化す。
小規模なギルド、クランと考えてもらっても構わない。
「じゃあ、それと一緒にギルドも開設しないか?誰かがPTを抜けた時に拾える様にさ」
俺の提案は可決されるだろうか。
「良いね!実は僕もギルド作った方が良いと思ってたから」
相変わらずのハイテンションではあるが、そんな朱羽に同意する他の奴もいたお陰でギルドを設立する事になった。
「ギルドマスターは虎獅だね、一番しっくりするよっ」
はしゃぐ藍琉の額を軽く小突き、俺は他の奴らを見渡す。
「僕も昭楽も大賛成。頑張れ、マスター」
「俺も朱羽達に同意だね、奏江は?」
全員の視線が一瞬にして奏江に集まる。
「俺にマスターが務まるとでも?
俺に異議はない、マスターはこいつだ」
奏江の堂々たる態度と発言により、俺がギルドマスターになる事は決定した。
実際俺は人をまとめるのなんて苦手なんだけどな……。