第二章 胸の高鳴り
しかし、時間とは時に残酷であり、思い通りになる事など決してないのだ。
――――――――――
【PT】緋熊:うわ、もうこんな時間?11時だなんて気が付かなかったな
【PT】AIR:あ、本当だ。もう僕眠い・・・
――――――――――
早々に睡魔に襲われた被害者も約一名。
……そろそろ引き上げ時か。
――――――――――
【PT】TIGER:そろそろ終わりにするか?
【PT】緋熊:そうだね。明日も学校あるし
――――――――――
まだ今日は水曜、土日までは後二日もある事だし、夜更かしはダメだな。
俺達はそれぞれフレンド登録をして、今日はもう床につく事にした。
ベッドに両足を投げ出す俺の頭の中では、あの邪獣王の魂と言うアイテムについての考えが、ぐるぐると渦を巻いていて……。そして同時に、明日起りうる身体の変化への期待が胸を高鳴らせていた。
☆ ☆ ☆ ☆
「あーあ、なんだよこれ。
こんなの隠せる訳ねぇし……」
明くる朝、寝起きの悪い俺の目に一番最初に飛び込んで来た物が、更に機嫌を悪くさせる。
「……今度は右腕かよ……」
そう。獣化だ。
肩から指先にかけて、全面を覆う黒い毛皮と白い縞模様。
爪も突起物の様に鋭く尖り、そこらのコンクリートはバター以上に易々と切り裂けてしまいそうだ。
まだ変化の無い左腕と比べると、太さも筋肉も圧倒的に逞しく。
…………って。
どうやってこの状態で学校へ行けと!?
朝の足りない時間をフル活用、母さんが来る前にどうにか妥当な案に辿り着いた。
――そうだ、包帯を巻けば良い。手は手袋でもしていこう。
俺は朝飯のトースト、弁当を母さんにバレない様に持ち出して、医療セットの入っている棚から新しい包帯を掴み出した。
制服にちゃちゃっと着替え、ワイシャツの長袖のボタンを右手だけ留めて、颯爽と家を飛び出す。
勿論手袋も装着し、俺は自転車へと飛び乗った。
遅刻遅刻とは言うが、いつも遅刻をしている訳じゃない。……つもりだ。
普通に登校する時はホームルーム開始30分前には着く様にしている。
学校に到着すると、俺はまず自転車置き場の近くにあった男子トイレへと向かった。
朝から家で包帯を巻く訳にはいかず、登校後に巻こうと思っていたのだ。
母さんに、それはなんだとつつかれるのは御免だからな。鞄の中から包帯を取り出す。
左手の不慣れな手付きでくるくると包帯を不格好ながらに巻いていくが、所々から黒い毛がはみ出してしまった。
しかし、時間も最早あまり無い為、ワイシャツで隠しながら教室へと向かう。
あの五人はどうやってこの現象を誤魔化しているのだろうか。
いや……それ以前に隠す必要があったのだろうか?
……急ごう。