第二章 七人のプレイヤー
赤坂鈴凰……、バスケの試合では鈴凰先輩からボールを奪う事は不可能とまで言われていて……。
部活を引退してからは温厚で誰にも優しいと良い評判だった。
まさか、あの先輩が?
俺も奏江との付き合いで何度かあった事がある。そんな先輩が、獣化伝を……。
俺は唐突に、ある事を思い付いた。
「なぁ、獣化伝のPTって何人まで?」
そんな俺の質問に、藍琉がきょとんとしながらも答えてくれた。
「八人だね。僕らの他に後四人……。あの三人、誘っちゃう?」
流石に藍琉には見抜かれてしまったか。
「そうだ。あの三人を誘って、このゲームの謎を突き止めよう」
「そりゃ良い考えだけどよ、獣化伝のゲーム運営会社に問い合わせても何の返事も無いんだぜ?
奴らがボロを出すまで待つってのか?」
腕を組んで椅子に深く腰掛ける奏江が、不機嫌そうに問う。
「それ以外の道は無いだろ?向こうが動かないなら、俺達が動くまでだ」
俺の発言に、不服ながらもと言った感じだったが、奏江も首を縦に振った。
希望が無い事なんて無い。今、俺達が自分で希望を掴み取るんだ。
☆ ☆ ☆ ☆
「……よし、帰ろう」
今や授業などを聞くより、毎日獣化伝の謎について調べたいくらいだ。
俺達は授業を全て終え、帰り支度をして自転車置き場まで歩いている。
藍琉の情報、坂田から聞いた限りでは俺達七人だけらしいから、これ以上学校を調べる必要は無い。
「明日はどこが獣化するんだろ……。
まぁ、ある意味楽しみだなぁ~」
遥霞の間の抜けた言葉も、今では深刻に受け止める事は無い。
何か進展があるまで、この症状は止まらずに俺達を日に日に蝕んで行くだろうから。
「獣人……か……」
常日頃、獣人と言う架空の存在になれたのならばと思いをはせる事、早五年。
……物心ついた時から獣が大好きだった。
狼と聞けば、虎と聞けば、ライオンと聞けば、俺は会話に首を突っ込む。
始まりは、幼い頃に両親からもらった誕生日プレゼント。
狼数頭が宵闇に浮かぶ満月に向けて、遠吠えをしている……そんな場面を描いた大きな油絵で。
不器用な父が俺の為にと買ってくれた物。
本物の様で、今にも動き出して吠え始めそうな絵を、幼い俺に誕生日プレゼントとしてくれたのだ。
勿論、どこぞの有名な芸術家が描いた物、まだ小さく幼い少年のために、大枚はたいて買ったらしい。家はそんなに金がある訳でも無かったのに。
父さんは不器用故に、息子の俺に対してそんな大ざっぱな愛情表現しか出来ない人だ。
もっと素直になってくれれば、可愛いもんだと思うのだが。
しかし、その頃まだ外の世界もあやふやにしか掴めていなかった俺にとって、その狼の油絵は特別な物になった。
凛としたあの面構え、目を細めて闇夜を仰ぐ鼻面、力の籠ったあの四肢……。
俺にとって、その全てが新しい物で。
獣に魅了されたのは、この時からだった。
今でも埃を被る事無く、その油絵は俺の部屋に堂々と飾られている。
何か心に変化があれば絵を見つめる事が、俺にとって当たり前になって行くのに気が付いたのはいつだったのだろう。
――俺の心には、常に獣がいた。
あの時から、ずっと。