第二章 朱羽と昭楽
「あぁ。……まぁな。正直こんな事になるとは思ってもいなかったけどさ」
それは自嘲気味に、過去を振り返る様に。
「そんなの、僕らだって一緒さ」
机に頬杖をついて、朱羽と名乗った男子は昭楽のライオンの耳を撫でた。
「私達は幼馴染みなの。朱羽君に獣化伝に誘われてね。やってみたらライオンの尻尾と耳が生えたなんて、不思議」
「やっぱり、みんな獣化伝をプレイしたからなんだな……」
俺は頭を抱えた。
何故、何の為にこんな事をする必要があるのだろう。
人間に耳と尾を生やし、一体誰にどんな得があると言うのか。
顔をしかめる俺を見て、昭楽は華奢な肩を震わせながらくすりと笑った。
「な……なんだよ?」
全く、女子はこれだから何を考えているか分からない!
釣られて朱羽までもが一緒に笑い始めたのだから、余計訳が分からなかった。
「だって虎獅君、顔はしかめているのに耳が可愛く動いているから」
途端、俺は顔を赤らめた。……もう女子となんて喋るもんか。
だが、もう少し会話を続けようと思った矢先、タイミング悪く予鈴の軽快なチャイムが耳に響く。
……もう終わりか。後5分以内に教室に帰らなければ。
「機会があったらまた話そうな。えーと、朱羽、昭楽」
「うん、そうだ!虎獅君のキャラ、どのサーバーなの?名前は?」
あぁ、そう言えば俺も聞きたいと思っていたんだ。朱羽は空気が読める奴だな。
「俺のサーバーはWOLF、キャラはTIGERだ」
「了解。僕もWOLFなんだ。名前は恥ずかしいけど、緋熊【ひぐま】」
そう言って、照れた様に頭をかく朱羽。
互いに情報交換として、メールアドレスを交換。
俺はログインしたらメールを送り、内緒チャットを送ってもらう約束も取り付けた。
「昭楽の名前は、僕を見つけれはすぐに分かるからお楽しみに!」
悪戯っ子の様に舌をぺろりと出して俺を見送る朱羽と、微笑む昭楽。
彼らと上手く協力していけば、何かと助かる事があるかもしれない。
俺は考え込みつつも、自分の教室である2‐2へと戻って行った。
☆ ☆ ☆ ☆
前の座席を囲む、三人組。何故だか遥霞が俺の席に座っている。
「おいこらっ。どきな遥霞!」
「きゃーやめてぇー」
遥霞を俺の席から引きずり下ろすと、遥霞は甲高い悲鳴を上げた(棒読みで)。
「で?虎獅、何か収穫はあったか?」
言う奏江の目付きがいつもより鋭い。これは何かがあったのかもしれないな。
「まぁな。四組の柿沼と朝日。獣化伝をやっているらしい。熊とライオンだ」
「ライオンの人がいたんだぁ。何か親近感っ」
同種がいると聞きはしゃぐ藍琉に、俺は微笑み掛けた。
「んで、お前らは?俺に聞くくらいだ、少しはあったろ?」
三人の顔を、順々に見渡す。
「ごめん、俺は収穫なしっ!一年を調べたけど、誰もいなかったんだ」
「そうか……三年はどうだった?」
俺の問いに深く溜め息をつく様を見ると、これは……確実に……。
「三年は、鈴凰先輩……赤坂鈴凰が獣化伝をやっていた。虎だよ、白虎だ」