第二章 野生の能力
一年の階に来るなんて、二年に進級してからは初めてだ。
一階は奏江、職員室とかは虎獅と藍琉に任せてあるから、俺は俺の仕事をしなきゃ。
「さてさて、一年の中にもゲーマーはいるのかな?」
居たら居たでそれは嬉しいんだよね。
狼の耳と尾を揺らす俺を、一年達は当惑気味に避けて通って行く。
大気の臭いを嗅ぐと、虎獅達の嗅ぎ慣れた臭いしか感知出来なかった。
……一年はハズレかな?
良く注意してもう一度嗅いで見ても、何ら変わる事は無く。
拍子抜けだなぁ。帰ろうか。
俺は来た道を引き返した。
(……ねぇあの先輩、遥霞先輩じゃない?
超カッコいい!)
擦れ違い様に、一年の女子が俺の事をヒソヒソと隣りの女子に言うのが聞こえた。
(本当だぁ。可愛いーあの耳と尻尾~)
……ふむふむ。
俺は結構モテているのか?
いやいやそれよりも、先程の事で分かったのは、感覚が研ぎ澄まされて来た事だ。
普通の人間ならば今の小声の会話は聞こえなかったはず。
この身体になって初めて感じた。
狼……いや、動物とは凄いものだと。
☆ ☆ ☆ ☆
「……失礼します……」
ガラリと職員室のドアを開ける。
ほんの一瞬だけ集まる沢山の視線に、思わず息が詰まった。
職員室で聞き込みとは言っても、どうすればいいんだろう。
取り敢えず坂田先生に聞いてみよう。
二年の担任副担任、その他第二学年に関係する教師達が集まる区域へ急ぐ。
「あ……あの、坂田先生」
「ん?どうしたネコ耳少年」
何やらPCをいじっていた様で、僕が話し掛けるとマウスから手を放した。
「えと、あの……聞きたい事が……」
本当はスラスラと話したいのに。
上手く言葉が出て来ないのがもどかしい。
「……その症状について、だろう?」
「あ、はい……」
坂田先生はこう言う時だけは妙に勘が良くて、助かる事が多々ある。
「今朝調べた所、全校生徒中、お前達を含めてライカンスローピィを発症しているのは、七人だ」
……ライカンスローピィ?
そう言えば、虎獅も同じ様な事を……。
「お前達のを見る限り、その症状は
ライカンスローピィ(獣化病)だ」
「獣化病……」
坂田先生は僕の尻尾の先を触り、本物だって言うんだから凄いな、と言った。
「しかしだな、ライカンスロープと決め付ける事にもまだ早い。
ライカンスロープとは元より、伝染病として遥か昔に西洋で恐れられたものだ。
よって、伝染病では無い所を見るとそうそう断言は出来ないんだな」
坂田先生は、今度は背の低い僕の頭に生えるライオンの耳をいじり倒し始める。
「はあ……そうなんですか」
大体は虎獅の呟いていた言葉と大差は無いみたいだ。
「そう言えば朝、どっかの有名人がその症状が出て病院に行ったが、異常無しと診断されたんだってな」
……遥霞が言ってた。
いずれにせよ、この話題は表に出る事になるとかなんとか。
「まぁ何の問題も無いなら気にするな。
ただ可愛いだけだから。だが、何かあったら先生に頼るんだぞ」
「はい、ありがとうございました」
丁重に頭を下げて礼を言い、尻尾を揺らして足早に職員室から立ち去った。