第二章 同類
昼休みと言う事もあり、一階の廊下には殆ど人の姿が無い。
一つ一つのクラスを念入りに調べて見るかな。
(三年の所なんかにゃ来たくなかったが……どうもあの三人以外の動物臭がするしな)
熊耳を生やしたガタイの良い俺を物珍しげに見る奴らには目もくれず、動物臭の正体を探るべく歩く。
他学年の階に他学年の生徒が紛れ込んでいる事を不快に思う輩も時折いるが、気にしていては何も出来ない。
三年五組から順々に調べて行く。教室に十人もいない。
……三年四組を見たが、ここでもない。
(……ここも違うな。臭いは近付いている、どこかの教室にいるのか?)
天井を仰ぎ鼻をヒクつかせた。
確実にその動物臭は近付いているのが分かる程、臭いは濃くなっている。
虎獅達に良い結果を持って帰れるかな。
廊下にたむろする先輩らしきガラの悪い野郎共を無視し、三組へと向かった。
……三組もハズレだ。
続いて二組へ行く。
鼻につく多種の臭いが、俺の好奇心を揺さぶった。
「……!」
席に着いて優雅に読書をたしなむ背の高いあの顔には、見覚えどころか親近感すら感じるのだ。
「鈴凰先輩……!?」
赤坂鈴凰【あかさかりおう】
俺の、中学時代のバスケ部の先輩。
今では挨拶を交わすだけではあるが、かつて互いに励ましあった仲の良い先輩が……
虎の物らしき白地に黒縞の耳と尾を生やし、その尾を左右に振っていたのだ。
入口の扉で固る俺に気付き、ふっと目を移す鈴凰先輩の瞳が大きく見開かれた。
「ちょ……っと、お前……ハセ?」
先輩は読んでいた本を静かに閉じると、席を立ち俺に向かって歩を進める。
まさか……鈴凰先輩が!予想外の事態に困惑する。
遂に俺の目前にまで迫った先輩、やはりそのトラ耳と尾は紛れも無く本物だ。
「お前は……熊か、この耳っ!」
「いてぇ!!」
何か他に言うべき事があろうに……、先輩はいきなり俺の熊耳を引っ張った。
さり気なく俺にダメージが加わる。睨む様な目付きを向けるが、効果なし。
しかし、次の瞬間……先輩は俺の耳元で、ゆっくりと小さく、あの言葉を発した。
「お前も、獣化伝をやったのか……」