第二章 金森
何故か終始嬉しそうな顔の金森の授業が終わり、皆一斉に席を立つ。
「奏江~後でお前ん家行くからなー」
「わーかっとるわい。お袋に言っとくよ」
奏江に笑顔で手を振り、国語教師の金森は職員室へと引き上げて行った。
「……全く、金森の奴デレやがって」
「金森せんせ、奏江に随分懐いてるね」
くすりと笑う遥霞の横で、奏江はうんざりそうな顔で眉をひそめる。
元気無さ気に熊耳を伏せる様を見ると、相当参っている様だ。
「あいつ、俺以外に懐かないんだわ……。相手になる俺は精神が擦り切れちまう」
ぐてーっと机に突っ伏した奏江を無邪気につつく遥霞……、微笑ましい限りだ。
「可愛いじゃないか、あんなデカブツがデレるなんて」
「とーらーじー……。お前は俺の苦労を知らんからそんな事が言えるんだ!!」
物凄い形相で睨む奏江を、俺はなんとか静めて落ち着かせた。
それよりも、金森は俺達のこの姿を見ても何ら反応を示さなかったのは何故だろうか。
まぁ細かい事を気にしない金森らしいか。
何とか四時間目までの授業を全て消化し、後は弁当を食べれば俺達は探しに行くつもりだった。
無論、俺達の様な境遇の者を。
いつも通り四人で机を向かい合わせに並べて、弁当にがっつく。
……成程、鼻が良くなるとは凄いな。
周囲に溢れる様々な弁当の香りが認識出来る様になり、今まで気にしていなかった世界に足を踏み入れたみたいだ。
みんな無言だが、いつもと違うのは、より早いペースで弁当を平らげている事。
やはり、同類を探す事を楽しみにしているのだろうか。
「……ご馳走様!」
一番最初に食事を終了したのは、奏江だ。流石にこいつの早さには勝てそうにない。
弁当をしまう奏江を尻目に、俺含め残り三人は互いに負けじと貪り食らう。
「ごちっ!」
次に上がったのは遥霞。くそぅ……。
「……ご馳走様でした!」
続いて藍琉が俺を置いて行く。
なんとビリはこの俺になってしまった。
「おい……、待ってくれよっ!」
急いで弁当を詰め込む俺を見る三人の顔は、どことなく微笑んでいた。
☆ ☆ ☆ ☆
「おい犬、臭いわかるか?」
「犬じゃねぇもん。狼だもん」
ここは教室棟三階、一学年のクラスが配置されている階である。
「でもさ、熊も結構鼻は利くって前テレビでやってたよ」
俺一人を利用するなとばかりに、遥霞は自分より背の高い奏江に向かって言った。
「あん?そうか?
……じゃあ俺ぁ三年の所行くから、ハルはこっち頼むわ」
奏江は面倒臭そうに右手を振り、ズボンのポケットに左手を突っ込んで足早に立ち去った。
ネコ科の俺と藍琉は何をすれば良いのかと遥霞を見据える。
「ここは俺に任せてさ、二人は同級生と職員室でその話題を調べて来てくれない?」
各自互いの顔に頷き合うと、片手を上げてその場からそれぞれ立ち去る。
さて、俺と藍琉は……。
「んー。藍琉どうするよ?
俺はどっちでも良いから、決めちゃって」
他人との関わりが苦手そうな藍琉に対し、俺は職員室でもクラスでも調査出来る。
「良いの?……なら、職員室に行くよ」
「おう、了解!頑張れよ藍琉!」
俺は、藍琉の頭を弟の様に撫で、五組まである内の一組から調べる事にした。