第二章 ライカンスロープ
坂田の反応を見て、俺達を見つめるクラス中の奴らの目が変わった。
「だが、どうしたんだ?お前らだけに……その、耳と尻尾が付いているだなんて」
この質問が一番厄介なのだが。
先程の会議で、キレ者の藍琉にこの危機を脱する言い訳を言って貰う手はずだ。
だが、藍琉も自信は無いとの事。それは仕方無いと俺達は藍琉を慰めた。
「……何故なのかはお話出来ません。
しかし、これだけは言えます。僕達は何者かの陰謀に組み込まれた、言わば被験体」
おぉ、何か真面目っぽい説明だな。
これは上手くみんなを誤魔化せるだろう。
「今はまだこんな可愛い物です。しかしこれから何が起こるかは分かりません。
皆を巻き込む訳にもいかない。これ以上はお話出来ないのです」
数回頷く坂田の反応を見る限り、納得はした様だが、追及されやしないだろうか。
「……そうか、大変だな。その事については職員会議で説明しておこう。頑張れよ」
その後ショートホームルームを終え、坂田は立ち去って行った。
事態は急展開を迎えつつある。
……まさか職員会議にまで持ち出されてしまうとは。
坂田が去った後、俺達は獣耳をそれぞれ寄せ合って話し合う。
最初に口を開いたのは、藍琉だった。
「……ごめん。ロクな事、言えなかった」
「んなこたぁねぇ。お前にしかあんな上手い事は言えなかったさ」
奏江の、慰め方は乱暴だが、どことなく暖かみのある言葉。
「甘く見て貰っている内が華さ。
今にもこの現象は世の中の表に出る……。そうなれば結果的にこうなってるよ」
頬杖をつきつつもっともな事を述べる遥霞が、言下に不敵な笑みを浮かべた。
☆ ☆ ☆ ☆
「……ライカンスロープ、獣化病……」
俺の口をついて出た単語、ライカンスロープ。
遥か昔にどこかの国で起こったと伝えられる、伝染病の名。
「いや、ライカンスロープは伝染病。
俺達はゲームを通してこの姿に……?」
三人は何事かと俺を見つめているが、俺は構わず先を続ける。
「伝染病……疫病……電波……。ん……電波?
ゲームを通して?」
無意識の内にネコ耳ならぬトラ耳が遥霞の様にぴこぴこと動いている。
「あれは……本当にゲームなのかよ」
顔をしかめて一人呟く俺に不審な目を向ける三人も、その言葉に首をかしげたのだった。
「あのゲームが電波を流してるって事?」
藍琉の問い。
「わからねぇ。だが、俺はそうとしか考えられない。じゃなきゃこんな事には……」
「コラー、授業始めんぞ!席に着かねぇなら赤点にすっからな!」
俺の発言を上手い所で中断する、大きくて野太い野郎の声が。
「ちっ……今日は水曜だったな、金森か」
奏江が実に不機嫌そうに唸った。
無理もない、金森は親戚である奏江に何かと突っ掛かって来るのだ。
「くぉらぁっ奏江!貴様は勉強もしないくせに教師に文句をつけるなっ!」
奏江を指差し叫ぶガタイの良い国語教師(24歳)は、今日も絶好調の様である。
若々しいのは良い事だが、やかましいのは迷惑だと思うぞ。
「は?うっせーな。早く授業始めれば良いだろ、タコ」
「くっ……!今に見てろよ!」
悔しげに歯ぎしりをする金森を尻目に、奏江は退屈そうにあくびを一つ。
「はいはい、構って欲しいなら家に来い」
「え!?言ったな!絶対行くからな!」
しかしながら、奏江は人のあしらい方が素晴らしい。(特に金森について)
あぁ、断るのかと思った矢先に条件を付けて承諾する所が良くある。
その条件も大してハードルの高い物では無い事が多く、奏江に振り回される者は何かといるのだった。