第二章 感覚
「鼻だよ。嗅覚!感覚も鋭くなってるみたいなんだ」
身体以外にもそんな所にも変化があっただなんて、予想外だな。
「この間風見が言ってたろ?『動物臭い』ってさ。それを辿れば良いじゃん」
「うおっ、凄いなハル!」
「グッドアイディアだね。遥霞」
確かに臭いを辿れば……或いは。
「そうだな、遥霞。やっぱお前も頼りになる奴だったんだな、見直したよ」
ぽんぽんと遥霞の肩を叩く。
「……虎獅、『も』って何?俺だってたまには役に立つんだから!」
途端、俺の頬を掠める拳が空を切った。
華麗な回避で避けるも、一瞬の出来事に心拍数が急上昇。
……遥霞は空手の師範代にもなり得る様な空手の達人なのだ。
本人の遊び心の突きで何度寿命が縮む思いをしたのか、最早数え切れない。
「は……遥霞、お前の拳は凶器なんだよ!気安く突きを出すなぁっ!」
ごめんごめん、と口だけで反省の色の見えない遥霞に俺は怒りを覚えた。
ふと、ホームルーム開始を告げるチャイムの軽快な音が教室に響き渡る。
いつの間にやら教室にはルームメイト達がわらわらと集まっていた。
「なぁ……」
奏江の心配そうな声。何だろうか?
「この耳と尻尾、どうやって説明するよ」
「あ……」
考えていなかった。
俺達四人は全員で首を傾げるハメに。
その内に担任の坂田が教室に入って来るなり、俺達それぞれの毛玉を凝視した。
「お前ら……。遂にそう言う道に目覚めたのか。先生は悲しいぞ!!」
きっと、そう言う道=コスプレだろう。
すかさず藍琉が反論するが。
「済みません、先生。これ飾り物じゃないんです。本物ですよ」
「馬鹿言ってるんじゃない、佐野。
人間にそんな物が付いてる訳ないだろう」
軽く鼻で笑われ、あしらわれてしまう。
しかもクラス中が俺達の事を笑い始めたのだった。
「なら、触って見たらどうだ?あ?」
そんな笑いを吹き飛ばす、奏江のドスの利いたハスキーな低音が教室を静めた。
「俺達だって好きでこんな格好してるわけじゃねぇんだよ!」
坂田とクラス中に向かって堂々と吠えるその様は、正に巨熊と言ってしかるべき。
鋭い目付きの下に、微かな怒りを感じた。奏江は耳の毛をわずかに逆立てている。
「そうっすよ、せんせ。飾り物ならこうやって動く訳ないっすから」
続き遥霞が耳をぴこぴこ動かし、尻尾を振りながら畳み掛ける。
俺が部外者なら真っ先に遥霞のそのふさふさの尾に触れている所だ。
「……そこまで言うのなら触ろう」
途端真顔になった坂田は、恐る恐ると言った感じで遥霞の尾に手を伸ばした。
ふわりとした手触りなのだろう。
触れた瞬間は手を引っ込めたが、今度はその感触を楽しむ様に触っている。
「ほ……本物なのか……?まさか……」
坂田の顔に驚きと笑顔が浮かび、俺達四人は顔を見合わせてにぃっと笑った。