第二章 にゃんこ、わんこ、くまさん
もう全てをさらけ出す様に、恥かしながらも尻尾と耳は隠さずに登校した。
もしあの三人がいなければ早退しても良いとの許可も母さんにもらって来た。
チャリで登校する俺の尻尾と耳を見るドライバーや歩行者の視線が痛い。
コ……コスプレなんかじゃない!
尻尾がひらひらと風に弄ばれる。
と、一昨日ゲームの事を教えてくれた日にばったり出くわした所で遥霞に会った。
……灰色の狼のふさふさな尻尾に、三角形に尖る手触りの良さげな耳。
不覚にも萌えた。
馬鹿野郎俺!正気に戻るんだ!
「やぁ、ニャンコちゃん」
「いや、誰がニャンコちゃんだ。誰が!」
どうやら朝風呂で頭を洗った時に耳に、制服のズボンを履く時に尻尾に気付いたらしい。
「いやぁ、参ったね。そん時はさぁ」
やはり遥霞も他の三人に事情を聞くために勇気を出して登校して来たようだ。
藍琉と奏江は来ているだろうか?
……今は登校する生徒の数が一番多い時間帯の様だ。
昇降口に溢れ返る先輩後輩同級生が、俺と遥霞の有り得ない物を見つめる。
下駄箱から上履きのスリッパを取り出して、教室へ向かう。
「なぁ、にゃんころ虎獅」
「なんだよ、わん公遥霞」
遥霞の嫌味な言い方に対抗すべく、俺も狼の見掛けに対して言ってやった。
「そのネコ耳自重しろ、可愛い」
「お前こそ、そのふさふさは仕舞え!」
そんな俺達二人に、男子からは気持ち悪がるような視線が、
女子からは黄色い声がそこかしこで聞こえる。
教室へ行くと、未だ人の少ない空間の中で藍琉と奏江が席に着いていた。
奏江は俺の机の上に座り、藍琉と談笑している様だが。
「よう、にゃんこにわんこ」
「おはよう。二人共……可愛いね」
初っ端からこの話題だ。
挨拶を返し、藍琉と奏江を見ると、
奏江は先端の丸い紺色の熊耳があり、尻尾は見えない。
藍琉には先端に房のついた白い尻尾がついていて、耳は俺より大きかった。
「着々と変わって来てるよな、俺ら」
シマシマの尻尾の先をいじりつつ、全員の顔を見渡す。
不思議と各々の表情に浮かんでいるのは、負の感情では無く喜々とした期待だった。
俺もどちらかと言うと、これから何が起こるのかが楽しみではあるのだ。
「……でもさ、この学校に他にいないのかなぁ。僕らみたいな人」
藍琉の呟きに、確かにそうだとみんなが同意して会議が始まった。
俺達を不思議そうに見つめるルームメイト達は無視、今は構っていられない。
「先公に聞くのは嫌だぜ?」
「奏江……そりゃそうだけどさ、俺らで耳と尻尾の生えた他学年の奴なんて探しづらいぞ」
奏江の主張はもっともなんだがな。何分、全校生徒で千人近い。
その中から探し当てるのは無理だろう。
「いや、僕には鼻があるよ」
「……は?」
遥霞の突然な発言に、俺達三人は素頓狂〈すっとんきょう〉な声を上げた。