第二章 変化
ぴぴぴぴぴっ
ぴぴぴぴぴっ
ぴ……
携帯のアラーム機能が鳴る。
寝ぼけ眼でそれを乱暴に切った。
「ふぁ~……ねみぃ……」
ぴぴぴぴぴ!
ぴぴぴぴぴ!
お次は目覚時計の追撃。
止めてくれ、俺はもう起きてるんだ。
目覚時計を殴って鳴り止ませた。
思わず目覚時計に金槌を振り下ろしたくなる衝動に駆られるが、もぞもぞベッドから這い出す。
ふと鼻につく味噌の香に、空腹を感じた。母さんは朝から早いな。
リビングへ向かうと、案の定母さんが味噌汁を器についで朝食の支度をしていた。
「……はよ」
椅子に座ると同時に声を掛ける。
「あら、おはよう。今日も鮭なんだけど、昨日のとはちょっと違……」
母さんの言葉が途切れた事に、寝ぼけている俺の鈍い頭が何故か反応した。
重いまぶたをこすりつつ、母さんを一瞥。俺の背後を見て口を開けている。
……なんだ?
「……と……らじ。それは何なの?」
そう言って母さんは俺の背後を指差した。
「はぁ?……何だよ一体……」
背後を見ても何もない。
まさか幽霊なんかじゃあるまいし。
それでも尚母さんの表情は変わらず、
俺は目の前に置かれた味噌汁をすすった。
……旨い。
この味噌、今日は赤味噌かな。
そしてこのワカメ。増えるワカメなのはお見通しだぜ、母さん。
お、今日の具は大根か。
分かってんじゃん、大根は大好きだぞ。
「虎獅、あんた分からないの?」
「だから……何の事だよ?」
母さんは正気に戻り、こんがり焼けた旨そうな鮭を俺の目の前に出した。
「その……白黒の尻尾よ」
「……は?」
今度は俺が口を開ける番だった。
背後では無く腰辺りに首を巡らすと、ズボンの口から上に向かって虎の物とおぼしき先端の丸い尻尾がにゅっと出ていたのだ。
マジかよ……!!!
「飾りじゃないわよね?動いてるし……」
そっと近付いて来た母さんは、俺の臀部から生えるシマシマの尻尾に触れた。
触られた瞬間、その手を避ける様に尻尾を動かしてしまった。
……完璧俺の意思で動く。
実際触られた時、あんまり嬉しい物でもなかったのが本音だ。
猫の気持ちが分かった様な気がする。
「これ何なのよ……」
母さんがまじまじと俺の顔を見ると、再び口を開けたのだ。
今度はなんだよ!?
母さんは短い悲鳴を上げた。
「耳!!」
「へっ……?」
思わず耳のあるべき場所を触ると
……無い、耳が。
「な……な……い。耳が無い!?」
助けを乞う瞳で母さんを見上げると、母さんは俺の頭にそっと触れた。
否、俺の「耳」に触れた。
「あんた、どうしちゃったの?
このネコ耳も動くわ。可愛いけど」
クソッ……尻尾は隠せても耳は無理だ!
苛々と尻尾を振り、毛を逆立てる。
ここまで俺自身に尻尾や耳が同調していると、違和感すら感じずに自然に動く。
「あのゲームの……せいだ」
しかし、この程度で学校を休む訳にはいかない。あいつらにも同じ症状が出ているはずだ。確認しなければならない。