飴
「ねぇ、これあげる」
「なんだよこれ」
「飴」
「何味?」
「それは食べて当てて」
「えぇ...いいけど」
ぱくっ
「どう?」
「...しゅっっぺぇ!」
「へぇ!何味だと思う?」
「何味って、レモンだろ?この酸っぱさは」
「どのくらい酸っぱい?」
「酸っぱさMAXのシゲキックス」
「わかりづらい例えね」
「俺が今まで食ってきた中で1番酸っぱいものだよ」
「そんなに酸っぱいの?」
「てめぇさては食ってねぇだろ?なんてもんを食わせやがる」
「反応からして嘘でもなさそうね」
「これが演技なら俺は役者になってるよ」
「確かに、あなたはそんな器用な人間ではなさそうね」
「.........で、本当は何味なんだよ」
「私が食べた時はメロン味だったわ」
「......は?」
「私もこの飴を食べたのよ。でも酸味は全然感じられなかったわ」
「いやお前、こんなに酸っぱいのに酸味を感じられないって...」
「一緒に食べた子たちもメロン味だと言っていたわ」
「意味がわからねぇ...俺がおかしいのか?」
「この飴の名前ね、『女尊男卑キャンディ』なの」
「女尊男卑キャンディ?」
「なんでも、男性と女性とで味が変わるらしいわ」
「すげぇな。そんなもん作れるのか」
「女性の場合はメロン味で、男性の場合は『働け!!働け!!目を開けろ!!刺激MAX目覚めの超すっぱレモン味』だそうよ」
「このご時世でそんな名前。コンプラとか大丈夫なのか?」
「大丈夫なんでしょ。意外と売れ行きいいらしいわよ」
「まじかよ...誰が買うんだろ。メロン味が食べたい女性かな?」
「いえ、その逆よ。レモン味を求める男性達のおかげでずっと品薄なの」
「...不味くはないけど、とにかくすっぱいからなぁ。男性にそこまで人気があるのは不思議な気がするな」
「仕事が終わりきらずに残業でもうひと踏ん張りって時にいいんだそうよ」
「社畜御用達......それで品薄って、闇ふけぇ」
「私が食べた時は普通のメロン味だったから、人気の理由に納得出来なかったのだけど、本当に味が変わるのね」
「まぁこれ食ったら目は覚めるだろうな」
「女尊男卑キャンディには他にも種類があるのだけど、今回は用意出来なかったらしいわ」
「これ以上変なもんを食わせるな」
「ちなみに好きな飴はある?」
「好きな飴?考えた事なかったかもな」
「私はみぞれ玉」
「あのデカくて甘いやつか。あれは美味いな」
「純粋な甘みが好みなの」
「俺は、親戚の家に行った時に祭りの屋台で食べた『どんぐり飴』が忘れられねぇ」
「どんぐり飴?」
「みぞれ玉くらいのデカさで、フルーツとかジュースとか、色んな味があるんだよ」
「いつか食べてみたいわ」
「俺もまた食いてぇな」
「私、小梅も好き」
「俺も小梅は好きだな、終盤に噛み砕いた時に出てくる梅ペーストが美味い」
「丁度いいじゃない」
「何がだよ」
「女尊男卑キャンディに梅味があるのよ」
「梅味?正式な名前は何なんだよ」
「『爆裂塩味と超絶酸味!!てめぇの晩飯はこれと白米で十分だ!!一粒でご飯三杯食える梅味』」
「ほんとに勘弁してくれ」