な…名前?
「なぁ」
「どうしたの?」
「お前って俺の名前、ちゃんと覚えてるのか?」
「当然よ。なんで急にそんなこと聞くの?」
「いや、そういえば名前呼ばれたことないなと思って」
「何度もランチタイムを共にした仲じゃない。そんな細かいこと気にしちゃダメよ」
「…覚えてはいるんだよな?」
「当たり前よ」
「試しに言ってみてくれよ」
「……いいわよ?」
「念のためもう一度確認するけど、ほんとに覚えてるんだよな」
「………ええ。覚えているわ」
「間が不安なんだよなぁ」
「そう言うあなたはどうなのよ!私の名前ちゃんとおぼえt 」
「涼宮だろ?」
「なんで覚えてるのよ……」
「最初ここに来た時ちゃんと呼んだぞ?」
「私だって最初来た時に呼んだはずよ」
「初めからあなた呼びだったな」
「……っ、丸め込めない」
「とりあえず一回呼んでみろよ。間違ってても怒んないから」
「ほんとに?」
「ほんとほんと。メンタル病んでしばらく無口になるかもしれないけど、怒ることはない」
「あなたってほんとにめんどくさいわね」
「まあ気にしないようにするよ。呼んでみ?ほれ」
「…確か……カイトくん…?だったわよね?」
「おお、あってるよ」
「そうよね!流石にクラスメイトの名前は覚えているわよ」
「でもなんで名前なんだ?」
「…え?」
「だいたい苗字じゃないか?こういう時って」
「べっ、べつにいいじゃない」
「もしかして苗字は覚えてない?」
「ぎくっ」
「名前が分かったのも、俺が周りから “カイト” って呼ばれてるからなんとなく覚えてただけとか?」
「ギクギクッ」
「そういう感じかぁー」
「弁解させてちょうだい」
「聞いてやらんでもない」
「もともと男子の名前はほとんど覚えてないのよ」
「なるほど?」
「よく聞こえてくる名前だけなんとなく把握していて、それでも顔と名前は一致してないの」
「あぁ〜」
「だから名前が出てきただけで奇跡なのよ?ほんとに」
「そう言われると怒るに怒れないな」
「逆に聞くけど、あなたはクラス全員の顔と名前を覚えているわけ?」
「もちろん」
「だと思ったわ。あなたって無駄に友達多いし」
「べつに普通だろあれくらい。そういうお前は仲良い奴とばっかり話してる印象がある」
「気があう人と話すのは当たり前じゃない。私は友達を選ぶタイプなの」
「高校生らしくていいと思うぞ」
「で?あなたの名前はなんなのよ」
「へぇ、聞いてくるとは思わなんだ。てっきり興味がないものかと」
「興味はないわよ。あったらクラス名簿で調べてるわ」
「それもそうだな」
「ここまで話しておいて言わないまま終わるのは、後味が悪いと思ったから聞いたの。変な深読みはやめてちょうだい」
「すまんすまん。俺の名前は “ 東堂 海斗” だ。“ひがしどう” に “うみと” って書くぞ」
「“と”っていうのは十字にちょんちょん?」
「そうそう。お前の名前も教えてくれよ」
「あら、覚えてないの?東堂君ともあろうお人が?」
「この流れでよく煽れるよな、お前」
「苗字は覚えているのよね」
「ああ、クラス全員分な」
「でも名前は覚えてないの?」
「だって、いきなり名前呼んでキモがられたらやばいじゃん」
「それはそうね。私の名前は “ 透華”よ。 透明の “透” に難しい方の “華” で透華」
「おっけ。覚えた」
「お互いの呼び方は今まで通りでいいわよね?」
「ああ、そっちの方がしっくりくるからな」