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第一章 国家の野望

1

JST2032 6.5 4:30

 日本の首都東京。

二度目のの高度経済成長により、ついに東京都の人口は遂に2000万人まで増え23区の平均地価は700万円台が当たり前となっていた。

 世界の工場は中国からフィリピン・インドに移り、外交的.物理的に近い国であった日本でも経済成長が著しく増加。

日米中による東アジアの安定が、不景気だった日本経済に大きな影響を与え始めた。

 一方、世界の工場というレッテルが無くなった中国では経済の伸び悩みが深刻化、富める者と富めない者の間で格差が広がり、労働階級や農民による暴動が多発。

富裕層の大半は国外のリゾート地へ逃げており、EAECO(東アジア経済協力機構)による補助がなければ中華人民共和国は地図の上から消えて無くなっていただろう。

中国に対する求心力は低下し続け、一時はインド洋まで広げた経済.軍事力は見る影も無くなっていた。

 大量の軍艦を動かすだけの石油を輸入するほどのカネはすでに無くなっており、自国の小規模な油田で電気を多少賄うので精一杯だった。

 中国では一気に建てた再生可能エネルギー発電が寿命に達し交換を迫られるが、交換する力も残っておらず発電量が大幅に減少、結果的に停電の頻発が経済に大きな影響を与え中国株の安売りが起き“2030年2月2“ついにデフォルトを起こし中国経済が瓦解。

この日は2月にしては珍しく雨が降っていた為、"中国人の涙"と呼ばれた。

 中国は多数の軍艦や戦車などの軍備を発展途上国を中心に安く販売し財源確保に奔走した。

さらには憲法改正により中国企業を強制的に国有化し利益を財源とするなど到底他国にはできない方法でいまだに生き延びようとしていた。

 その結果、日中のシーソーが一気に中国側から日本側に傾き、三大都市では至る所に超が付くほどの高層ビルが立ち並び、結果的に子供を作る余裕がある人が増え村上政権の時から続く少子化対策政策と相まってベビーブームとなっていた。

都心近郊ではニュータウンの建設が増加し、建築業界は空前の好景気になっていた。

 一方、東京は経済/情報/物流さまざまな面で世界の中心となっていく。

 世界からあらゆる物/人が集まり日々さまざまな契約が交わされる、集まって来る人の中には他国のスパイや裏社会で生きる密売人なども含まれていた。

もちろん他国の外交官がこの地で交渉に臨む。

 少なくとも私、西谷湊も日本の外交官としてここに帰ってくる。

 警察庁では東京中心の警備を強化し常にテロ対策を取り、幾度とテロを未遂で止めていたが4年前、ついにその壁を破られた。

 今も色濃く残る4年前の傷跡はいまだに再建中の高層ビル群から見てとれる。

おそらく、テロの前は辺り一体を一望できたであろう三本のビルは一本を残して中央付近でポッキリ無くなっていた。

 まだ日が上る前だが、繁華街は昨日からいる人で賑わい、朝早くに起きた人が活動を始めた為、活気に溢れていた。

 そんな東京の一等地に立つ首相官邸に私は足を向けていた。

空港から政府が所有する黒塗りの車に乗り、ポツポツと雨が降る中

警備員が監視する中、荷物をX線検査にかけ手荷物検査を済ませるとカードをゲートにかざして中に入る。

目的の2階の大会議室には、多くの政府要人が集まっていた。

会議室の正面にある2つの大きなモニターには太平洋の地図と英語と日本語で書かれた文章が写っていた。

すでにほとんどの席が埋まっており後1人を待つだけとなっていた。

私は父である西谷健斗外務大臣の後ろに座った。

ちょうどそこへ10人近いSPとともに現内閣総理大臣新島仲利が入ってきた。

「初めてくれ」

そう短く言い放って大きなU字型のテーブルの上座に座った。

総理の発言を聞き、モニター近くに居た高身長の男が説明を始めた。

「先ほど午前3:20頃アメリカホワイトハウスより極秘のメールが届きました。

『先日、理事会議で極秘会談があった。

そこで決まった事を一部教えようと思う。

1、フィネックス帝政連邦に対して宣戦布告すること。

2、5カ国会議の復活。

3、ネヴァリア帝国の解体。

以上三つが理事会議参加国の米中露の間で交わされ、日韓に通達される事となった。

1.3、については日本に是非とも参加してほしい。

韓国は任意で参加してもらおうと思っている』

と、なっております」

飯嶋は一歩後ろに下がり10インチのタブレットで何かを調べ始めた。

「また自分勝手な」

大人しく聞いていた総理の右側で聞いていた霧島が愚痴を漏らした。

霧島卓也は64歳で現在の政権官房長官を務めており、なんでもお構い無しに指摘する為今までの政権では嫌われていたが、それがこの政権では認められる結果となった。

「日本が何もできないと知っていてこれなんだからたまったもんじゃないよ。

ホワイトハウスの奴らは日本がまだ9条に縛られていると知っておきながらこんなことを」

 実の所、前村上内閣時代に9条を改正しようという流れがあったが、それが実現する前に村上内閣が終わってしまった為、今だに9条は専守防衛しか許されていなかった。

だが、その前哨戦として攻撃を受けた場合の敵対組織に対する攻撃は認可されており、先制攻撃を受けた際に自国領だと主張している地へは侵攻できるようになっていた。

「どう思う外務大臣」

父は霧島に降られると私に視線を向けてきた。

つまり私に説明しろと。

「自分が思うに、連邦側はこっちが参戦していると思わせなければなりません、しかも国民には隠して通す必要があります。

現在の憲法では敵の陣地を攻撃することができるように改正されましたが、流石にこれでは連邦に侵攻はできません。

となると必然的に海上自衛隊による海上作戦が主となります」

「確かにな、だがアイツらに先制攻撃を譲らなければこっちはなにもできない。

西谷の息子だな、しっかりと的を射抜いている」

右側の席に座っていた木野泰盛防衛大臣は霧島官房長官に冷たい視線を向けつつ、小さくため息をついた。

「ゴホン...、そんなこと言ってるいる暇があるのか?

私の立場としては真心込めて育てたウチの子を死なせたくないんだが、まぁやれと言われればやってやるぞ。

それがうちの仕事だからな」

「しかしこれ、米中露で勝手に決めた事なんですよね。

同じ立場にある韓国はどう動いてるんだ」

「確かに、珍しく文科大臣がまともなことを言ったな」

「なんだと!経産大臣のくせして」

なんとも大人気ない。いい歳して多くの人の前で大声を出してケンカなどと…。

さっきから大声で喧嘩しているのは三浦和樹文部科学大臣と杉浦陽介経済産業大臣。

 どぉしてあの2人は仲が悪いんだろうか

その理由は、2029年8.15にあった東南海トラフ巨大地震の時、経済産業省が無事だった東北や九州の工場に稼働停止を求めなかった為、日本中で停電が発生。

それにより40℃近い猛暑日でも扇風機一つ動かない状態になり熱中症になる人が増加し病院がパンク、地震によって負傷した人が後手に回るという事態が起きてしまった。

その結果、経済産業省と文部科学省.厚生労働省は仲が非常に悪くなってしまった。

「一ついいか?木野大臣」

「どうした、西谷大臣?」

木野大臣は父の方へ体の向きを変えた。

「少し気になっていたんですが、先程の言い方だとあの兵器は使わないんですか?」

「あの兵器?」

木野は首を傾げて考え始めた。

しばらくの間沈黙が続いたが結局木野大臣にはなんとことか分からなかったようだ。

「いったいなんなんだ、あの兵器とは?そもそもなんで外務大臣が知っている」

「では教えてあげましょう。

Artificial creation type Humanプロジェクト、通称ACTH。

これはその名の通りで、人口的に作られた人間プロジェクトで一昨年から中国.日本.アメリカの3カ国によって極秘で進んでいるプロジェクトです。

まぁ中国国内では既にばれていて日本国内でもその件について取り上げられているが、幸いにも日本とアメリカの関与については、バレていません。

ちなみになぜ知っている?という質問に対しては前職と交渉のうちに知ったという所です」

木野は西谷の説明を聞いて目を見開いていた。

人工的に人を作る、そんなSFのようなことが日本で行われているなんて。

 しかも極秘で行われており、担当の大臣である木野ですら知らない兵器開発には興味があり、私は少し興奮していた。

「それはつまりクローンということかね?」

「いえ、総理。

これはクローンではありません。

クローンは母体と外見や知能がほぼ同じもの。

しかしこれは、人の基本となる遺伝子をランダムで掛け合わせ親となるものを作り、それから子供を増やしていく、というもので1ペアあたり6人ほどを生ませます。

中国国内でバレたのは地方の小さな基地での情報、しかも始まったばかりのもので最初の親となるものもまだ3歳程度だったが、全員安楽死させられたらしい。

まぁ、銃殺よりはマシだろうけど」

 西谷がさぞ当たり前のようにいうのを見て飯島は少し恐怖感を覚えた。

国が厳重に管理.監禁し最後には兵器として使われる。

「そ、その計画が日本国内ではどのくらい進んでいる」

「2026年の同盟結成直後からですから、だいたい6年目でまだまだこれからですが、学力は既に中学生レベルです。運動能力や学習能力.判断力に特化したものもありますが、大体の者は1人でもほとんどのことができるように訓練しています」

総理は自分の知らない所で国際法に違反するかもしれないレベルのことが進んでいると知り驚きを隠せていなかった。

しかし総理は二つ疑問に思ったことがあった。

「なるほど、しかし疑問点が二つある。

まず一つ目、この計画にロシアがいないのはなんでだ?」

「あぁそれは、ロシアが既に行なっている別の計画があったからです」

「別の計画?そんなものがあんのか?」

「はい。彼らの場合は一夫多妻制で女性一人当たり7人が義務だそうで、親は基本的的に政治犯罪者で元が一般市民なので個人差が大きく、生まれた子供はふるいにかけられます。

 好成績の者は特殊部隊や諜報員として働きます。

それなりの成績があるものは政府関係の施設で働くか軍に行くかを選びます。

何か特化した才能があるものはそれぞれ特化した施設へ。

それらに引っ掛からなかった者は新しい親になります。

ロシアではこのようにして計画を進めています」

「だとすると、ロシアの方が研究は進んでいるのか」

「そうですね。少なくとも現在確認しているだけで1000名近く人口的に誕生した命があるとされ、最初期に生まれたものはそろそろ高等教育を受けることになるかと。

これはアメリカや中国に比べてもだいぶ進んでいると思われます」

「なるほどロシアでは人的を気にしなくてもいいわけか」

「実戦に持ち込むにはまだ5.6年かかると思われますが、近いうちにどこかで実践テストされるだろうな」

「二つ目は金銭面だ。

人工的に命を作るなら相当な費用がいるはずだ。

しかし、そんな大金が詳しく書かれていない訳がないのに予算書にそんなは無かった」

「簡単なことです。

費用はほとんどが食費.教育費に割り振られています。

施設だって既存施設を改修した物なので予算にも書かれていない、こんだけ情報を統制しないと世論がどう動くか分かりませんし。

まぁ、現職の防衛大臣が知らないのは問題ですが」

 飯嶋はこの計画が成功した時、日本の未来はないと思った。

なぜなら、賃金を払わなきゃいけない従来の労働力が必要なくなり、彼らを無賃労働させることで物価は今までよりよっぽど減らせるだろう。

そうなれば今こうやって経済発展を推し進めてくれた国民を裏切る事となってしまう。

それだけは避けなければいけない、そう心の内に決めた。

 しかし、それよりよっぽど恐ろしいのは彼らに人権がなく動く爆弾として捨て身で使われることだと、心の奥底にある良心が自然と危機感を抱いた。


2

JST2032年6.5 5:30

 首相官邸の会議室には1時間近くにわたって続いた会議は終わり、総理と防衛大臣が残っていた。

薄暗い会議室に高く登ろうとする太陽の光が差し込んでいた。

そんな会議室には2人が対面で座っておりその間に1つのファイルとUSBメモリーが置かれていた。

「このファイルの中には現在の自衛隊の編成と今後の主な作戦計画、さらにその中でも即応ができる部隊が書いてある。

いいか、あなたなら無いとは思うが...というより信じているが外部に漏らさないように。

さっきの会議で安保法案によって参戦が決まってしまった以上我が国もPKO活動だけでは済まない。

海自の中で外地にすぐさま派遣が可能なのは“第一護衛隊群“の、第一護衛隊及び第二護衛隊のみです。

“第三護衛隊“は政府要人用に佐世保から横須賀に移動中、それに対し“第四護衛隊群“所属の“第七.第八護衛隊“は現在ハワイ.パールハーバーに派遣中で合同訓練の最中にあり、有事の際には“米.第3艦隊“の代わりにハワイ近海の防衛を担う。

“第三護衛隊群“所属の“第五護衛隊“及び“第六護衛隊“ですが、第六は旗艦"かが"が整備中でイージス艦による母港呉の警備、及びステルス艦による沿岸域警備と他部隊の訓練に従事しています。

 一方、“第五護衛隊“はイギリス海軍との合同訓練中です。

こちらは大西洋上で演習をしていますが、有事の際はイギリス海軍も参加すると思われますのでイギリス側の旗艦"クイーン・エリザベス"と我が方の旗艦"いずも"が迅速に対応します。

 あと残っている“第四護衛隊“ですが、彼らは現在無線封止状態で極秘行動中です。最後の目撃情報はアメリカの偵察衛星によるもので一昨日の午前3時40分ごろグアムから真西に1,000kmほどのところです」

「となると一番最初に動けるのは“第四護衛隊“か......」

新島総理には第四に苦い思い出があった。

実は総理就任直後に第四護衛隊旗艦"さくら"に乗艦したことがある。

その時艦長、加藤艦長と意見が割れ、口論になったのだ。

幸い、大事には至らなかったが2人の考え方は根本から食い違っていた。

新島総理がハト派であるのに対し、加藤艦長はタカ派であったのが一番大きいと思われる。

「正直あの艦長に頼みたくないな」

「あの艦長って...あぁ、加藤艦長ですか?あの方なら第四護衛隊群長になってますよ」

「そうか、それならよかった。

それはともかく、アメリカはいつ動く?」

「おそらくワシントン時間で明後日の6.7 12:00だと思われます。

日本時間だと6.8 1:00になるかと」

「そうか、それならそれまでに準備を進めておくように。

今日の10時にアメリカ大使館で極秘命令を受け取り行動準備に移れ」

木野防衛大臣は静かに敬礼をして会議室を出て行こうとした。

ドアノブに木野が手をかけたときだった。

「ひとつ言い忘れていたことがある。

西谷の息子、西谷湊は海自に入るそうだ。

せっかくなら水気団か特殊部隊に入れいたいところだったが、彼は陸で戦うことを望まなかった」

少し沈黙が続く。

「そうか。

彼は対外の人間になったのか…」

木野はそう言い残して部屋を出て行った。

木野がいなくなった部屋で新島は今後について考えた。

国民やこの国の未来、そして今回のことの責任についてだ。

(正直アメリカがこんなことをするとは思えないな。

一体裏になにがあるんだ。

軍部の暴走.第三者からの誘導、どれも可能性がないわけではないが低いだろう。

世界の警察もここまでか)

時は既に6:00を迎えていた。

今から69時間後世界はまた、暗く先の見えない道へと進んでしまうのだろう。

止める方法があったかもしれない、もしかしたら今からでも間に合うかもしれない。

でも、新島はこの戦いを止めようとは思えなかった。

("彼女"が考えた夢を実現させるためには絶好のチャンスだ、どれだけ血を流すことも躊躇わない)

それが新島の夢であり成し遂げなければならない約束だった。

 この時、この世の何処かにある世界を狂わす時計が1秒また1秒と時を刻み始めた。

最後はどうなってしまうのかまだ誰も考えていなかった。


3

FST2032年6.5 10:35

 フィネックス帝政連邦首都.ヌサンタラ

この地は2024年にジャカルタから移転した首都で現在では高層ビル群が立ち並んでいた。

この街の中心部に聳え立つ高さ356mのフィネックス帝政連邦統合作戦本部ビルの最上階にある大統領選用執務室。

この部屋に入るには一度一つ下の回でエレベータを降り、入念な身体検査の末階段を上り執務室のある部屋までの10m余りの廊下を進み執務室にたどり着く。

室虫の壁や扉は隔壁となっており30mm機関砲でも貫けない、また執務室前の10mの廊下にはさまざまなセキュリティが張り巡らされており容易に突破することはできない。

執務室に入る扉の前には8人のSP、一つ下の階には20名以上の軍人が待機していた。

 そんな執務室の中には2人の男が向かい合うソファに腰を下ろしていた。

「アメリカは動くのか、ルーシア」

「えぇ、我が国のサイバー部隊が得た情報ではアメリカ時間の6.8 12:00に宣戦布告するとのことです。しかしホワイトハウスにいる我が国の内通者は知らなかったそうだ。

おそらく政府でも知っているのはごく少数だろう、とのことです」

「相手となる可能性のある国はどれくらいある」

「6ヵ国から13ヵ国ほどと予想されます。

米英日韓中露は確定です。

残りは状況次第ですが我が国は計画通りシンガポールとカンボジアに侵攻しましょう。

マレーシアもブルネイもいないこの島に彼らは来れません。

上陸したところで我が軍に押し返されます」

「それなんだがアメリカが宣戦布告してきたらフィリピンに侵攻してくれ」

「なぜ...ですか。

我々はすでに南側に軍を移動させました。

それに奴らはまた軍事支援をするだけで軍を送り込みません」

「そんな事も分からないのかルーシア。

彼が今まで通りに東南アジアの奴らを支援するだけだと思うか?

それならわざわざ宣戦布告する必要はない。

アメリカは今飢えた狼だ、奴らは戦争という獲物を探しているのだよ。

国際世論に流されしばらく我々にかまって入れないかったが、政権が変わり奴らは今、まさに狩を始めようとしている。

奴らは真っ先に我々の海軍を潰しここを目指して一直線に進み続ける」

「では聞きますが奴らは直接、全面的に介入すると?」

「あぁ、そうだ。

全軍を臨戦体制につけろ。海岸線とフィリピン方面に軍を配置しろ」

「分かりました大統領閣下。

直ちに全連邦軍を臨戦体制にさせます」

そう言うとルーシアは小さく敬礼をして部屋を出ていった。

 しばらく大統領は座ったままだったがそのうち腰を上げて窓を背にするように配置されている机の前に立ち一つの写真立てを取りながめた。

 その写真には高校生ぐらいと思われる2人の男女が笑って写っていた。

それを見つめる大統領の目には涙が溜まっていた。

「待っていてくれ。

いつか、きっと君の願いを叶えてやる。

だから...もう一度あの景色を見よう」


FST2032年6.6 13:45

 連邦国内では軍隊が臨戦体制になっているにも関わらずいつもと変わらぬ日常が続いていた。

連邦では臨戦体制に入ることが度々あるが、その度に何事もなく終わるため国民のほとんどが『いつ通り何事も無く終わるだろう』と、警戒していなかった。

 そんな中、南シナ海では海底をひっそりと移動し続ける異物が多数うごめいていた。

総数は50隻以上に上りそのうち半数を中国のものが占めていた。

そして、その中にあきらかにおかしな行動を行う艦が存在した。

フィネックス帝政連邦所属戦略潜水艦"フォルウェン"だ。

この艦は連邦最新の潜水艦で8本の魚雷発射管を持ち、12本のICBM発射管を持っているこの艦は、90名の優秀なクルーによって動かされていた。

本来、この手の潜水艦は150〜130名で動かすが高度な技術による自動化と優秀なクルーにより通常より少ない人数で動かす事ができた。

「レイソン艦長、至急お話ししたいことが」

CICにいた艦長へそう告げたのはデボイン.カーソル専任兵装長だ。

艦長は短く「あぁ」と言うと、兵曹長の後ろを歩きミーティングルームに入った。

部屋は24畳ほどで、中央に大きなテーブルが置かれていた。

「それで、要件はなんだ?」

艦長は手前の椅子に座り兵曹長が向かい側になる形で座った。

「まさか『いつになったら帰れる』とか、くだらないことで私をこんなとこに呼び出したわけじゃないだろう」

「まさか、そんな事であなたをここに呼び出したりしませんよ。

私だって忙しいんですから。

そんなことより、先ほど受信した国防省の暗号を解析したのですがその内容がおかしいんですよ」

「なんて書いてあるんだ?」

艦長は首をかしげた。

「それが、『アメリカと戦争になるから気をつけろ』と、いっているんですよ」

「それは本当か?

信じられんな、我が国にアメリカと戦うほどの力はまだない。

まだ空母を4隻揃えた程度だ、その暗号間違って読んだんだろ」

「私もそうだと思いましたよ。

でも何度確認してそうなっているんです」

艦長は兵曹長が持っていた暗号文を奪い取り暗号表とならめっこしながら解読してみたが、兵曹長の言う通りだった。

 艦長の脳裏にはさまざまな考えがよぎっていたがある一つの考えに辿り着いた。

「待てよ、これが合っているとしたら今この海域に異様なほど潜水艦の数が多いのもこれで辻褄が合うぞ」

「確かに、いつもは中国と日本の潜水艦が10隻いるかいないか

「しかし敵は強大な力があるんですよ。

いくらうちが戦争好きの国とはいえおかしいのでは?」

「確かにそうだ。

しかし、アメリカがふっかけてきたと考えたら筋が通る。

アメリカはこのところ戦争に飢えている。

奴らはきっとその先の何かが目当てで、我が国を滅ぼすのはその一環に過ぎないのだろう」

「では、その目当てとは?」

「そんなのわからんよ。

だが奴らは絶対的な地位を築きたいんだろう」

 この船に乗っている乗組員だけでなく共に同じ夢を目指した連邦軍人からしたら、アメリカの勝手な野望により祖国が失われるかもしれないという、とんでもない事なのだがレイソン艦長は不気味な笑みを浮かべていた。

 それはまるで何もかもを見透かしたシャチのようだった。

それはまるで今か今かとアメリカという名のアザラシが大海原に飛び込まないかと睨んでいるようだった。


4

UST 2032年6.6 10:00

〈ホワイトハウス〉

 ホワイトハウス、この建物はアメリ合衆国大統領が居住し、執務を行うための施設でワシントンD.C.の一等地にあり、延べ床面積5,100㎡の敷地には映画館やゴルフ施設、ボーリング場などがある。

さらにこの建物の地下には核爆発にも耐えられるシェルターがあり、そこからアメリカ全軍の指揮をとれる。

 そして今まさにこの部屋が使われるかもしれない事態が差し迫っていた。

「アマンダ、全軍に情報は伝わったか?」

「はい、海軍.海兵隊はすでに臨戦体制に入っています」

アメリカ合衆国大統領トム・バークは手を組み目を細めていた。

机の前に立つ大統領補佐官のアマンダ・ベーカーは8インチのタブレットを操作していた。

タブっレトには作戦内容が書かれた資料が写っていた。

「我が合衆国軍にどれだけ耐えれるのか見てみようではないか」

バーク大統領は不気味に笑い机の端に置いてあった紙を取り、自分のサインを書いた。

「私はこの決断を間違っているとは思わない。

私はかつてのアメリカを取り戻す。

それまで決して止まらない、止まってはいけないんだ」

バーク大統領はサインした紙をアマンダに渡すと立ち上がって窓の外を見た。

外には大きな庭とワシントン記念塔が見える。

アマンダは諦めたような眼差しを向けていたが、大統領の眼には期待と理想、そして野心が見てとれた。

「Mr.ヨシダ。

君はこんな時僕になんて言ってくれる」

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