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死は救済。  作者: 殺害
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「大丈夫?」って言葉が嫌い。いつだって大丈夫なんかじゃないから。大丈夫って、安心していられる程に危なげないこと。っていう意味らしい。18年間私として生きてきて、いつそんな状況になったことがあるものか。他の人が"普通に"暮らしているこの世の中が私にとっては地獄で、"普通に"生きたくてもがいている今ですら生きてるのかどうかすら気にも出来ない。もしかしたら私って実はもう死んでるのかもしれない。もし私がもう死んでいるんだとしたら、この苦しい18年間はまさに生き地獄という名の罰だろう。私は今世で、身に覚えのない前世での罪の償いを強いられているんだ。必ずしも死は救済ではないらしい。



『飯田さん、大丈夫?』


「……はい。」


『何か変わったことはないですかー?』


「や、特に…」



通院は嫌い。毎回大丈夫?って聞かれるし、それに対して毎回大丈夫じゃないですって返答出来ないから。今日は言おうと思っていたことが毎回あるのに、診察室に入った途端に頭が真っ白になってテキトーな返事とぎこちない愛想笑いしか出来なくなる。

精神科に通うようになったのは高校2年生の冬辺りから。かれこれ半年近く通っているけど、いまだにこの病院の重苦しい雰囲気には慣れない。2週間に1回、この病院に来て担当医から最近の具合などを聞かれて薬を処方してもらう。聞かれる質問も、処方される薬もずっと同じ。



『はーい、じゃあいつも通り安定剤と睡眠薬処方しときますねー。お掛けになってお待ちくださーい。』


「失礼しました。」



担当医の相変わらずの気の抜けたような声に若干イラっとしながら診察室を出て待合室の長椅子に腰掛ける。この病院は完全予約制なので待合室が混雑しているということはないが、なんとなくいつも椅子の一番端で呼ばれるのを待っている。

薬のおかげで、ここ最近はある程度社会生活を営める程度には生きられているし、眠るべき時間に眠ることは出来ているけど、私は一体いつまでこんなことを続けていれば大丈夫になれるのだろうかという漠然とした不安が常にある。



『飯田真由子さーん』



名前が呼ばれたので会計を済ませに受付へ向かう。



『まゆちゃん久しぶり。どう、元気?』



受付の看護師の松岡さん。とても気さくな人で、私がこの病院に通い始めた時からなにかと気にかけてくれている。2週間に1回の通院で、担当医の診察時間よりも松岡さんと話す時間の方が長いような気がする。



『まゆちゃんももう高3か~。ぶっちゃけ進路とか、どうしたいの?やっぱ就職?』


「あーまぁ、そうですね」


『曖昧だな~。何、進学とかも考えてるの?』


「いや、私は無理ですよ。そんなお金ないし、親が許してくれるわけないし」


『んー、でもまゆちゃんが本気で進学したいと思えば方法はいくらだってあるよ。奨学金とか』



本気で、か。その言葉に苦笑いを浮かべるしか出来なかった。やっぱり私は負け組なんだ、そう思った。きっと私の周りの同い年の子たちは別に学校さえ何処でも良ければいくらだって進学出来ちゃうんだろうし、私とは違って進学したら喜んでくれる家族がいる。高校を卒業したら大学に進学するのが主流になっているこの現代の日本で、私はその選択肢を他の子の何倍も頑張らなくちゃ選ぶことすら出来ない。本気で生きようとしてなくちゃ、私は生き続けられない。



『お大事に~』



また松岡さんの長話に付き合わされてしまわないうちに会話を切り上げてようやっと病院を出た。この前なんかは1時間近く付き合わされていたんじゃないか。私のことを妹みたいだと可愛がってくれる彼女に、なんとなく信頼は寄せている。ただ、私のパーソナルスペースが広すぎるせいもあって、グイグイ来る彼女の良い意味での無神経さに圧倒されてしまう。今日も話せて楽しかったけど、ちょっと疲れた。

病院の重たい扉を開けると、一気に生温い外の空気が広がった。スマホのお天気アプリで気温を確認してみると、34度と表示された。まだ7月だというのに信じられない。ギラギラ照り付ける太陽はもう真夏そのものだ。スマホの画面上に猛暑注意の赤文字と共にお天気キャラクターが汗まみれでアイスを頬張っている絵が点滅している。


茹だる暑さの中、家までの道をさっきコンビニで買ったアイスを舐めながら歩いていく。まだ14時38分。お母さんは帰ってきていないはず。朝ごはんもお昼ご飯も食べ損ねていたから、コンビニで買ったカップ麺を食べよう。それからリビングとお母さんの部屋に掃除機をかけよう。あっ、アイス。お母さんの分も買ってくれば良かったかな。今日は暑いから扇風機を出しておこう。

それで全部終わったら、奨学金とかちょっと調べてみようかな。色んなことを考えながら歩いていく。

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