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家族のぬくもり

大切なものをなくしました。

私にとってはかけがえのないものだった。人生の半分以上を一緒に過ごしてきたものだった。

私はいわゆる「資産家」の家に生まれたのだと思う。このような曖昧な言い方になってしまうのは、ミステリー小説やドラマで出てくるようなお屋敷に住んでるわけでも、見渡すかぎりの土地を保有しているわけでは無いからだけど。ただ、父親がとある会社の社長をしていて、都心から少し離れたとは言え郊外の一軒家でちょっとした庭と家、お手伝いさんという家は自分以外ではあまり居なかったはず。お手伝いさんが居るからと言って家族仲が冷めているというわけでもなく、夕食は優しい両親と一緒に取ることが多かった。みんながそれぞれ、その日にあった良いことを報告する夕食の時間は、幼い私にとっては結婚してか、大学や社会人になるときかはわからないけど、家を出るまではずっと続く時間だと思っていた

人生が変わってしまったのは高校生の時。リーマンショックの影響を受けて、資金繰りが厳しくなった。そんな時に連帯保証人になっていた友人の会社が倒産してしまって、その”友人”は失踪。両親は自ら命を絶った。大学から帰ってきて見た光景は一生忘れない。どうして私も連れて行ってくれなかったのかと。

私は叔母夫婦の家に引き取られた。元々両親が生きていた頃もかわいがってくれていたけど、引き取られてからは実の子供のようにかわいがってくれた。大学を卒業して、とある企業の秘書として働いていた。数ヶ月が過ぎた頃、取引先の会社の担当者として来たのが彼だった。運命としか思えなかった。両親が亡くなってから淡くなっていた世界が輝きを取り戻した様に感じた。どうやらそれは相手もみたいで、その後、デートに誘われた。遊園地や水族館。バーに初めて行ったのも彼に誘ってもらってだった。デートでいろいろな話をした。彼は製造業を営んでいる父と二人で暮らしていること、父親を尊敬していること、跡を継ぎたいと思っていること、その修業のために今は出向していること。プロポーズされて、結婚して。私は職場をやめ、お義父さんと彼と3人で暮らすことにした。彼からは無理をしなくていいと言われたけど、父子家庭でたった二人の肉親なわけだし、一緒に暮らしていたほうが良いと説得したのは私だった。子供は作らなかったけど、とても楽しい日々だった。しかし、年月は人の身体を蝕んでいくようで、お義父さんは脳梗塞で入院を繰り返すうちに寝たきりとなった。意識はある程度しっかりしているものの、自分で移乗すら難しくなってしまったのだ。お義父さんは施設に行くと言っていたが、夫のためにも、私のためにも家で看たいと言ったのは私だ。


バタン


夕食から少し時間が経った頃、お義父さんに食事を介助している夫が胸を押さえて倒れた。お義父さんが私の名前を呼ぶ。


あなたが私の両親にしたことを私は未だに忘れていない。両親の命日があなたの退院日に重なった時、これは運命だと思った。今日やっと私は本懐を遂げたのだ。あなたはもうベッドから動けない。助けを呼ぶこともできない。そしてあの人が亡くなる原因のモノであなたも数時間後に苦しむのだ。あの人が息を引き取るまでの苦しみをその網膜に焼き付け、恐怖におののいてこの数時間を過ごすのだ。


だから、見ていて




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お題


「大切なものをなくしました」で始まり、「だから、見ていて」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば3ツイート(420字)以上でお願いします。




作成:仄

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