第4話:剣より斧の方が火力高そうだよな
やはり信じられるのは金と己のみ……。
村での生活が始まって早一週間、今日も俺はそんなことを考えていた。
「だんだん遅くなってない? 早くしないと夜までに終わらないよ?」
「そう思うんだったらお前もやれよ!」
俺のことを村人に紹介してから毎日のようにちょっとしたことから俺には解決できないようなことまで数々の困りごとという名の雑用が舞い込んできた。
その内容は多岐にわたり、『家の水回りが不便だから近くに川を引いてほしい』だとか『飼い猫がどこかに行ってしまったから一緒に探してほしい』だの『腰痛を治すために伝説の万能薬エリクサーを探してきてほしい』だとか!
特にエリクサーに関しては腰痛ごときに使うものでもないし、そもそも“伝説の”なんて存在するかもわからないようなもんを探させようとすんなよ!
そして現在、だんだんと寒くなってくる季節になったので村で使う薪を補充してほしいという村長からのお願いで百本目の木をたたき切ったところだ。
「これ今日中に終わんのかよ……」
「さぁ? それはアベルの頑張り次第じゃない?」
「フェイが手伝ってくれたらもっとはやく終われるんだけどな」
「そんな! 村人からの信頼を得るための機会を奪うようなこと僕にはできないよ!!」
「ニヤニヤしながら言うようなセリフじゃないだろ」
本当にこいつは……。
この一週間一緒に暮らしていて再確認したが、やはりこいつは性格が悪かった。
それも俺が今まで会ってきた誰よりも性格が悪い。
巷では悪魔なんて呼ばれている吸血鬼なんかより断然悪魔だと思う。
今すぐにでもこの斧で家のまな板とか全部叩き割ってやろうかな……。
「まぁ、ずっと黙ってたんだけどもう村長さんがお願いしてた分くらいなら切り終わってるよ」
「ハァ!? もっと早く言えよ!」
「家で使う分もついでに切ってもらおうかと思って黙ってたんだよね。そしたらこんな量切るとは思ってなかったからさ」
「~~!!」
過去最大に怒りの感情が湧き出して来た。
気分は邪知暴虐な王を目の前にしたメロス。
激怒を通り越してむしろ殺意すら湧いてきたわ、何が“むしろ”なのかわからんけど!
「ってい!」
怒りのあまり投げた斧はフェイの前で停止し、そのまま地に落ちた。
「あっっぶねぇ!! 俺が我慢できてなかったら斧投げてたわ!」
「いやいや、もう投げてるから。かけらも我慢できてなかったからね? あぶないとか完全に僕のセリフだから」
「おまっ、俺の斧奪うなって~。知らないうちに俺の手からなくなってんだけど!」
「うん、投げたからなくなってたんだけどね? 聞いてないね?」
なんか言ってるけどもう無視無視。
これ以上聞いてたら俺この村に今作った薪で火とかつけちまいそうになるし。
あとは家のまな板叩き割ったりとかしたくなっちゃうし。
「怒った? ねぇねぇ、怒った?」
「ん~? いや、もうブチギレ」
「じゃあ頑張ってくれたお礼に今日の夕飯は豪華にしようか」
「…………おう」
今日のところはまな板の命は助けてやるか。
こんな重労働の報酬の夕飯、さぞ豪華になることだろうしまな板は必要になるからな。
もう少し煽られてたら今日の夕飯はマグロのタタキならぬフェイのタタキになってたところだった。
命拾いしたな。
「僕は準備があるからそろそろ戻るよ。アベルは村長さんに薪のこと報告しておいで」
「あぁ」
フェイはそう言って謎の力で家で使う分だと思われる薪を浮かせるとそれを伴って教会に戻って行った。
「そんな力持ってるならここに木運ぶ時も手伝えよ……!」
俺はそんなフェイを見て心から叫んだのだった。
「何日かに分けてもらっても大丈夫だったんですが、もう終わったんですか!」
「あ、はい。家の裏に積んでおいたんで確認してください」
「去年は例年よりも薪の消費が激しかったので今年の分が足りなくなることを心配していたのですが、アベルさんのおかげで何とか今年も乗り切れそうです」
「俺もこの村に急にお邪魔しちゃってるんで、少しでも力になれたんならよかったです」
着々と村人たちの信用を得ることに成功していると思うと、顔のにやけがとまらないぜ。
この程度で相手のことを信じるなんて緩いな人間ってのはよォ!
「今回もありがとうございました。後で神父様にお礼を渡しに行くと伝えておいてください」
「わかりました。それじゃあ俺はこれで……」
そう言って俺は村長宅から出て、教会に戻った。
教会に着くと、キッチンではフェイがエプロンを身に着けて料理を作っている最中だった。
「おかえり、ご飯にする? お風呂にする? それとも……」
「メシ」
俺が帰ってきたのに気付いたフェイが何か阿保なことを言ってた気がするけどもう無視するに限る。
こいつとまともに会話しようと思っても並みの人間じゃ先にストレスで死ぬ。
俺は吸血鬼だから耐えられただけで、人間だったら確実に死んでたな。
「もうちょっとノッてくれてもいいのに」
「だってぜってぇしょうもない事言おうとしてたろ?」
「いや? ただ庭の草むしりとかしてくれないかなって思って」
「今の今まで俺が巻き割りして疲れてんの知ってるよな? なんでお前はそんな俺に今からだだっ広い庭の草を除去させようとしてるわけ? もしかしなくても馬鹿なのか?」
「はは、冗談に決まってんじゃん」
こいつが言うと全く冗談に聞こえないんだけど……。
いつか仕返ししてやるからな。
「まぁ、ご飯まだできてないから先にお風呂入ってきちゃっていいよ」
「メシできてねぇのに選択肢に出したのか……」
「人間の夫婦間ではああいったやり取りがされるんだってさ」
「俺とお前は夫婦じゃないだろ」
「そうだね、配偶者ってよりは相棒って感じかもね」
「……風呂行ってくる」
ほんと何言ってんだあいつは。
たった一週間しか一緒に過ごしてないのに“相棒”だなんて言いやがって。
天使の距離感は分かんねぇな……。
「……僕も一緒に入ろうか?」
「なーにふざけとこと言ってんだお前は。来るなよ」
「それはフリととっても……?」
「いい加減俺も手が出ても文句は言われないと思うんだよな」
「ははっ、早く風呂行ってきな」
マジでぶっ飛ばしてやりたい。
俺は結構長風呂だという自覚があるから、意識的に早めに上がるようにはしてるんだが、どうしても30分くらいは湯船に浸かっていたい欲が出てしまう。
フェイとか10分で出てくるからちゃんと洗ってんのかすら疑問なんだが、それにしても合計一時間近く風呂に入ってるのは長すぎると文句を言われた。
最初は二時間くらい風呂入ってたから、大分早くなった方だと自分をほめてやりたいくらいだ。
何なら湯船で寝たいまである。
残念なことにフェイには共感してもらえなかったが、風呂はいいぞ。あったかくて。
なんてことを考えつつ、頭と体を洗ってから湯船に浸かる。
「はあぁぁ……きもちいぃ……」
死ぬほど振り上げた腕に温湯が染み渡る。
吸血鬼は流水が苦手、なんていう話もあるけどそれは人間の血を吸ってる吸血鬼に限った話で、人間の血を吸ってない俺は流水が大丈夫なら十字架も効かない。
吸血鬼って基本脳筋だから、多少の弱点よりも高い戦闘能力だと考えてるやつしかいないんだよな。
絶対流水だとか十字架だとかが効かないほうが生活しやすいのに……。
手持無沙汰になった俺はタオルを湯船に浮かべてクラゲを作りながら吸血鬼たちのことを考える。
とりあえずゲッセルには復讐しよう。
平穏無事に人間の国まで行けるかと思っていたのにその旅路を邪魔してくれたあいつは許せない。
フェイに頼んでぼこぼこにしてもらおう。
自分で何とかしろって言われそうだけど、俺って人間よりは強いけど今は吸血鬼の中だと最弱よ?
そんなんで吸血鬼最強とか言われてたゲッセルに勝てるわけなくない?
いっそのこと寝てる間にこっそりとフェイの血でも飲んでやろうかな……。
親父のこともどうにかしないとだしなぁ。
そのうちこっちの国も支配しよう、とか言われたら平気で支配されそうだからそれこそ早いうちに何とかしたいところだけど、解決策も見つからないしな。
あれ? 心機一転スローライフだなんて思ってたけど、もしかしなくてもそんな余裕なかったりする?
人間って結構危機的状況に陥ってたりするんじゃないか?
「はー、もう無理。俺にはどうすることもできんわ」
いろいろ考えてみたけど、結局何をするにしても力は必要だということで、俺は考えるのをやめた。
願わくば人間と吸血鬼が共存できる世界になれば、なんてことを思いながら俺の意識は暗闇へと消えていったのだった。
なかなか読んでくださる方が増えずに困っているウサギです。
諦めずにコツコツと投稿していくしかないのかなぁって思いながら今日も執筆頑張ります。
「続きはよ」「面白かった」と思って頂けたら
少し下にある☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けると励みになります。
評価や感想などもモチベーション向上に繋がるのでぜひ。




