第2話:見た目と性格は比例しない
ファランクスという尊い犠牲を生んでしまったものの、俺は何とか無事に人間の国にたどり着くことに成功したようだ。
国と言ってもここは村のようだが、俺たち吸血鬼が不快に思うような神聖な気配を感じたのでしっかりと天使の守護している場所らしい。
「さて、目的の場所にはたどり着けたけど、こっからどうすっかな……」
一旦どこかでゲッセルたちとの戦いで消耗した体力を回復したいところではあるんだが。
人間ファーストコンタクトが重要って聞いたから、ここは俺も良い印象を与えられるように頑張ろうかね。
と、これからの生活に思いを馳せていると、俺はいきなり背中に衝撃を受けて吹き飛ばされた。
咄嗟に受け身はとったが、背中に鋭い痛みが走った。
衝撃の出所を探ろうと、さっきまで俺がいた位置を見ると、そこには鬼のような形相でこちらを睨みつけるゲッセルの姿があった。
「……随分と早く抜け出せたんだな」
「あの程度の小細工で私の足を止められるとでも思っていたのか……と、言いたいところだがあれは実に面倒だった。何をどう作ったのか知らんが、まともな方法では動くことすら不可能だったからな」
「参考程度にどうやって脱出したのか聞いても?」
「接着している体を切り落としたまでよ。吸血鬼の再生能力は貴様も十分に知っているだろう?」
「なるほどね……狙うならもう少し上を狙うべきだったのか」
背中の傷を少しでも癒すためにゲッセルと無駄な会話をしていたわけだが、やっぱり血を飲んでないせいで傷の治りが遅い。
本当につくづくこういうところが吸血鬼の嫌なところだわ。
体のつくりが血を吸うことを前提で出来てんだもんな……。
人の血を吸わないと怪我すらまともに治せないなんて他力本願ここに極まれりって感じだな。
「せっかく無駄な時間を割いてやったと言うのに、随分と貴様は傷の治りが遅いんだな?」
「まぁこれが吸血鬼の本来の再生力ってことだな。俺から言わせてもらえれば切り落とした体がそんなにすぐに生えてくる方が異常だと思うけど」
「貴様はいまだに『血を吸わん』などと馬鹿なことを言っているのか」
「俺が言ってんのは血を吸わないんじゃなくて、人間を家畜として扱わないって言ってんの。俺はあんたらのそう言いう考え方が嫌いなんだよ」
「話していても無駄だな」
ゲッセルは話は終わりだというように、俺の方に爪を向けてきた。
……しょうがない。本当は使いたくなかったけど、最終手段を使うことにしよう。
これからこの地で生活していきたいと考えている身としてはこの手だけは取りたくなかったが、背に腹は代えられない。
ここでゲッセルに捕まってしまえば俺の望む平和な生活が夢のまた夢になってしまう。
俺は覚悟を決めてこぶしを構える。
「貴様ごときが私に勝てると思うなよ!!」
ゲッセルは俺が真正面から戦おうとしていると思ったのか、爪で突き刺すように一直線につっこんで来る。
俺はそれを冷静に見極めてから回避し――
「吸血鬼が出たぞぉぉぉぉおおおおお!!!」
大声で叫んだ。
今がいくら夜とは言え、村の人間が全員寝ているわけではないだろう。
俺の声を聞いて討伐隊を結成してくれれば御の字。
すぐにでも天使が来てくれるのが一番いい。
さすがのゲッセルでも一人で天使とその他を相手にすることは厳しいだろう。
俺は助けが来るまでの間耐えきれば勝ちだ。
「またしても貴様は面倒なことをッ!」
「へっ! 俺はお前に勝つことが目的じゃないからな!」
「だが天使が来る前に貴様を捕まえればいいだけのこと!!」
「やれるもんならやってみろよ、俺はもちろん抵抗するぜ? 拳でなァ!!」
それから俺とゲッセルの闘争が幕を開けた。
上下左右正面と、いたるところから降り注ぐ攻撃を避け続ける。
しかし、全ての攻撃を避けきれるわけもなく、俺の身体には着実に傷が増えていく。
時々フェイントなんて高等テクを織り交ぜてくるので、致命傷にはならないまでも動きが鈍るような攻撃をいくつも食らった。
俺が叫んでからどれほど時間が経っただろうか。
俺にとっては一時間にも感じたが、実際の時間は十分程度なのかもしれない。
このままやられるんじゃないかって気持ちにもなってきたその時、ゲッセルに向かって光り輝く長剣が飛んできた。
「吸血鬼が出たと聞いて念のため来てみれば、まさか本当にいるとは思わなかったよ」
「天使……!」
「あー、そんな可愛くない名前で呼ばないでもらえる? 僕にはフェイっていう名前があるんだから」
「黙れ! 天使の一匹程度で私を止められると思うなよ!!」
「はぁ……別に僕としては君みたいな低級の吸血鬼なんてアウト・オブ・眼中なんだけどね」
「貴様ァ!!」
吸血鬼最強の男を低級呼ばわりするとか、このフェイとかいう天使どれだけ強いんだよ……。
俺が一回でもまともに食らえば肉片になるであろうゲッセルの攻撃を何のこともないように平気な顔で弾くその姿を見ると、緊張の糸が切れたのか気付けば俺は気を失っていた。
「んぁ……」
いつもなら感じないような眩しさを感じて俺は目を覚ました。
カーテン開けたままで寝たっけ、なんてことを思いながら体を起こすと、記憶にない景色が目前に広がっていた。
「あん? ここどこだ……っけ……?」
昨日の記憶を呼び起こすと、いろいろと思い出して来た。
国外追放に加えてストーカーのようにゲッセルに追い回されて、最終的に天使がゲッセルとぶつかって……。
俺が覚えてるのはそこまでだけど、こうして目が覚めているってことは天使がゲッセルに勝ったのか?
「やっと起きたんだ? もう昼だけど何か食べる?」
そこで俺の声が聞こえたのか昨日の天使が部屋にやってきてそう聞いてきた。
天使にしては珍しい光が反射しないほどの漆黒のふわふわした髪をした男で、本当にこいつでゲッセルに勝てたのかと不安になるくらい優し気な顔をしている。
「あ、あぁ」
「僕の作ったサンドイッチでもいい?」
「野菜以外なら食える」
「ならレタスは多めに挟んでおくね」
「は?」
……今の会話だけでわかった。
こいつは死ぬほど性格が悪い!
そういえばゲッセルと対峙してた時も煽りまくってた気がする。
こんな虫も殺せないような顔してなんて性格してんだこいつは……。
「すぐにできるから早くおいでよ」
「えっ、おう……」
多分俺は今までにないほどに渋い顔をしていただろう。
それすらも無視してさっさと部屋を出て行ってしまった。
「何考えてんのか分かんねぇな……」
そんなことをぼやきながらも、俺のことを助けてくれたし悪い奴ではないだろうと思いつつ、部屋を出た。
するとそこではもうすでにサンドイッチが準備されており、作った本人は先に食べることもせずに本を読みながら俺のことを待っていた。
「遅くなってすまん」
「ん、いいよ。それじゃあ早速食べようか。いろいろ聞きたいこともあるし」
「まぁ、そりゃあるだろうなぁ」
「質問は食べ終わってからにするからまずはどうぞ」
向かいの席に俺の物と思われるサンドイッチが置かれていたので、俺はそこに座りサンドイッチを手に取った。
手に取って見ると気付く、本当にレタス大量に入れやがった。
ほんとに意味わからん。
そんなに草食いたいならそこらへんに生えてるやつも食えよ。
もともとレタスとかもそこらへんに生えてたやつ食ったのが始まりだろ。
雑草も食ってみれば意外と食えるかもしれないだろ。
食える草と食えない草の違いは何なんだよ。
「本当に野菜嫌いなんだね……今すごい顔してるよ」
「言ったじゃん。野菜以外なら食えるって……野菜は食えないんだよ」
「食べれないんじゃなくてただ嫌いなだけじゃないの? いい機会だから克服すればいいのに」
「克服ってこんな荒治療なのかよ。もっとガキのピーマン嫌いを直すみたいにばれないように忍ばせるとかじゃなくて……。見ろよこのサンドイッチ、めちゃめちゃ青々としてんじゃねぇか。むしろパンの部分よりレタスの方が分厚いだろ」
「あはは、確かに」
せっかく作ってもらってこんなにボロクソいうのもどうかと思ったが、性格の悪いこいつ相手なら大丈夫だと思い、好き放題言った。
それに対して、予想通り起こることもなくクスリと笑うと指を鳴らした。
すると、俺が持っていたサンドイッチのレタスが、チーズとハム、トマトに変わった。
「うお! なんだこれ!?」
「視覚のバグっていうか、幻覚っていうか。まぁそんな感じのやつかな」
「へ~、やっぱ天使ってそういう能力持ってんだな」
「僕の場合これは副産物って感じだけどね」
なんかよくわからん事言ってるけど、レタスさえなくなればこっちのものだ。
トマトとかいう野菜界の紅一点もこっそり紛れ込んでるけどあれだけのレタスを見た後だとこのくらいはって思えるから不思議だ。
……はっ、まさかこいつ、これが狙いで……!?
「少しは野菜も摂らないと体に悪いから、少しは入ってるけどさっきのに比べたらマシでしょ?」
「あぁ、このくらいなら食べれる。ありがとな」
そうして俺らは大分遅めの朝食を摂ったのだった。
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