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第1話:価値観の相違

 俺は昔からこの世界のあり方が嫌いだった。

 吸血鬼ヴァンパイアと言うだけで忌み嫌われ恐れられる。

 それもこれも全て親父オヤジが原因だったりするわけで、だからこそ余計に俺は自分の種族が嫌になる。


 保護していると言えば聞こえは良いが、結局のところやっていることは搾取以外の何物でもない。人間で言うところの悪徳領主の方がまだ死ぬ分優しい分類に入るのではないだろうか?


「アベル様!」


 俺が自室のベランダで外を眺めながらそんなことを思っていると、部屋の扉が勢いよく開き、若い男が入ってきた。


「アベル様、陛下がお呼びです」

「……すぐに行く」


 男は俺にそれだけ言うと、さっさと部屋から出ていってしまう。

 言葉遣いこそ丁寧ではあるが、態度の節々から俺の事を舐め腐っているのが見て取れた。

 その事に内心苛立ちを覚えるものの、これまでも周りから同じような態度を取られ続けているのでいい加減諦めの方が勝った。


「親父が呼んでる、か……」


 なんの用かは分からないが、何か不穏な空気を感じた俺は必要最低限のものは持って自室を後にした。






 一応正装をして親父のいるであろう玉座の間にたどり着いた俺は、あの不安が正しいものであったことを確信した。


 部屋にはこの国の重鎮が集められ、玉座には親父、その横には腹違いの弟が立っていた。

 重鎮共からは嘲るような視線を感じ、弟からは憐れむような目を向けられた。


「アベル・エンペリアル、ただいま参上しました」

「……うむ」


 俺が玉座の前で跪きそういうと、親父はそんな返事だけを返して話だそうとしない。


「アベルよ、お前も薄々勘づいているかもしれんが、お前はこれからエンペリアルの名を名乗ることを禁じる」


 その言葉は事実上の勘当だった。

 この時を持って、俺は第一王子アベル・エンペリアルではなく、ただのアベルになった訳だ。


「…………」

「理由はお前もわかっているだろう? 欠落品と呼ばれているお前ならば」

「……はい」


 俺が欠落品などと呼ばれている理由はその外見にある。

 一般的な吸血鬼は2本のツノと一対の羽、それに尻尾が生えている姿だ。しかし、俺には2本のツノもなければ一対の羽も無い、更には尻尾すら生えていなかった。

 あるのは左側に生える片翼だけだ。

 吸血鬼の始祖である親父の子である俺が、吸血鬼の特徴をほとんど持っていないというのは問題で、そのせいで俺は産まれた時から迫害され続けてきた。


「空を飛ぶことすら出来ん吸血鬼など、ただ羽のある人間に等しい。我々吸血鬼は高貴なる存在なのだ。王族が家畜と同類などということはあってはならん!」

「……はい」

「よってお前はエンペリアルの名を名乗ることを禁じ、国外追放とする。本日中にこの国を出るがいい!」


 ……正直に言おう。

 俺はずっとこの時を待っていた。

 俺を産んだ母親は欠落品を産んだ不良品ということで親父に殺された。

 まぁ殺されたと言っても体が死ねば別の肉体を作って生き返るので魂を殺された訳だが。

 多分今も城の地下とかで生きてはいるんじゃないか?


 話が逸れたが、俺は約2000年間こうして追放されるのをずっっっっと待ってたんだ!

 親父たちとは価値観が違うと気づいた時には、早くこの国を去りたくてしょうがなかった。

 待って待って、待ち続けて! やっと! やっと俺はこの国を出ることが出来る!!


「せめてもの情けだ。空も飛べぬお前に馬車をくれてやろう。それでどこへでも行くがいい」

「……はい」


 念願の外出で嬉しさが溢れ出す。

 多分今俺の声はウッキウキしていることだろう。

 その事がバレないように俺は最低限の返事だけしてこの場を去ることにする。


「今まで……お世話になりました……」


 最後くらいしっかり挨拶でもしようかと思って声を出したのは失敗だったかも。

 笑いそうになったせいで絶対俺の声震えてたもんなぁ……。

 ま、いいか。

 さっさとこの城から出ていかせてもらおう!






 城を出ると、そこには一台の馬車が置かれていた。

 白を基調としたシンプルなデザインの馬車だ。

 ちなみに馬は黒っぽい茶色で、名前はファランクスにした。たった今。俺が決めた。


 馬車なんて操縦したことないから聞きかじったような知識での運転になるが大丈夫だろうか?

 ……最悪事故っても国外に逃げればいいか。


 なんて最低なことを考えながら手網を引くとファランクスはカッポカッポと軽い足取りで進み始めた。

 ちっちゃめの馬だったから少し心配していたけど、これなら安心して良さそうだ。

 そんなこんなで月明かりが照らす夜道を俺とファランクスは進んでいた。


「これからどうすっかなぁ……。幸いなことに俺には片翼以外は無いし、それさえ仕舞っときゃ人間としても暮らせるだろうけど」


 人間の国に行ったらまず何をしよう。

 美味いらしい飯も食ってみたいし、珍しい物も沢山見たいよな。

 やりたいことが山ほどあって、行く前から楽しみで仕方ない。


 そんなことを考えていると、城の方から急接近してくる数人の気配を感じた。

 いくら俺が欠落品と呼ばれるほどだったとしてもビンビンに殺気をまき散らしながら近づいてくる輩がいればさすがに気が付く。

 このタイミングで、しかも城の方から来たということは十中八九俺が目当てなんだろう。

 最後くらい何事もなく平和に旅立てると思っていたが、どうやらこの国は相当俺のことが嫌いらしい。

 誰の差し金かはわからないけど、こんな一般吸血鬼にも劣る俺に対して五人もの吸血鬼を仕向けてくるなんて過剰戦力にもほどがあるだろ。


「やぁアベル様……いや、今はただのアベルか! ようやく陛下はお前のような欠落品を捨てる判断を下したなぁ! 陛下はお優しいから貴様のようなゴミでも国外に追放するだけに止められた。しかし! 我々国民の総意はそうではない!! 貴様を産んだあの女のように魂を破壊し、永久の時を過ごす肉の人形にしてやろう!」


 立派な羽で空を飛びながら、俺に向かってそう言ってきたのは親父の近衛兵にして、国内最強の吸血鬼と名高いゲッセルだった。

 ゲッセルは昔から何かと俺に突っかかってきて面倒くさい奴だと思っていたが、まさかこんなことまでしてくるとはさすがの俺でも思ってもみなかった。


「いいのか? 親父は俺を『国外追放する』と決めたんだろう? 国民の総意であったとしても親父に逆らうような真似をして」

「ふっ、バレなければなんとやらと言う言葉があるのを知らないのか? 陛下にはきちんと国外に出たと伝えればいい。貴様を動けなくしてからなッ!!」


 ゲッセルがそう叫ぶと、今まで黙っていた他の吸血鬼たちが一斉に俺に突っ込んできた。

 俺がこいつらと戦えば、負けることは確実。

 勝負は時の運なんていったりもするが、それは実力がそれなりに近い場合だけの話で、圧倒的な差がある場合はどれだけ運が良くても絶対に勝てない。


 そもそも吸血鬼はもともとそんな戦闘力を持った種族ではない。

 生まれた当初は死なないことだけが取り柄だった。

 しかし肉体の世代を重ねるにつれて、吸血による身体の強化ができるようになっていき、それによりより多くの血を吸った吸血鬼がより強い吸血鬼になるようになってしまったのだ。

 そんな中、親父を除いて最強と呼ばれるゲッセルに、結構な血を吸っているであろう吸血鬼四人対今まで一切の血を吸ってこなかった俺。

 どちらが勝つかは火を見るよりも明らかだった。


 四人の吸血鬼たちは、それぞれの爪を伸ばし、俺に向かって突き刺してくる。

 間一髪それを避けると、それまで俺が乗っていた馬車は木っ端みじんに消し飛んでしまった。

 しかもそれだけにとどまらず小さなクレーターを作り出すほどの威力をしている。

 自分が避けるので精いっぱいで気にする余裕がなかったが、今の一撃でファランクスも死んでしまっただろう。

 短い間だったけど今までありがとうファランクス。

 お前のことは忘れないからな!


「寄ってたかって俺を虐めて、お前らに吸血鬼としての誇りはねぇのか!」

「いうに事欠いて貴様が吸血鬼としての誇りを説くか! ただの一つとしてその身に誇りを宿さぬ貴様が!!」

「はぁ!? 誇りだぁ!? あるわけねぇだろこの筋肉ダルマが! 血吸わねぇと何もできないような奴らの誇りとか知らねーっての!」

「き、貴様……!」

「悔しかったら下りてきてみろよ! それとも俺が怖くて下りれないか?」


 そうして俺が挑発すれば、無駄にプライドだけ高い奴らのことだ――。


「貴様など飛ばずとも余裕で捕らえられるわ!」


 こうして馬鹿みたいに乗ってくるってわけ。

 俺が唯一こいつらを出し抜けるところがあるとするならこういうところなんだろうなって思うくらいにはこいつらのプライドは高い。

 んで、五人そろって地上に降りてきたところで、こいつの出番なんですね。


 黒い筒状のフォルムに持ち手と引き金が付いたこいつは俺作の『捕獲用ねばねばネット』だ。

 引き金を引けば、先端から親父ですら抜け出すのに時間のかかるねばねばの弾が発射される。

 別に全体を捕らえる必要はない。

 一時でもあいつらの動きを止めることができれば、急いで人間の国に逃げられるはずだ。

 最悪そこまで追いかけられても、人間の国には天使がいるからそこではこいつらも派手なことはできないだろう。

 と言う事でいざ実践。


「よっと!」


 軽めの発射音とともに、白色の弾が発射された。

 突然の攻撃に反応できていなかったゲッセルたちはまともにその弾を食らってしまった。


「ぐわぁ! なんだこれは!?」

「まともに戦うわけないだろうが! お前らはそこで俺が去るのを見てな!」

「卑怯だぞ!! 今すぐにこれを解け!」

「あー、俺もそれ、解けないよ」

「なんだってー!?」


 ゲッセルはなんかギャーギャー騒いでたけど、そんなものはガン無視してさっさと人間の国に走った。

 俺は何とかファランクスという尊い犠牲のもと、ゲッセルたちの脅威を退けたのだった。

寒い日が続きますが体調は崩されていないでしょうか?

僕は寒いのが苦手なので暖房機器で暖かくなった部屋から出られない現状でございます。

皆様も体調に気をつけて過ごしてください。

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