第13話:最初の街でレベルを上げすぎると後々つまらなくなる現象
ちなみに僕は初めの方に結構レベルをあげるタイプです。
フェイの悪ふざけが終わってすぐ、俺たちは吸血鬼の占領する国エンペリアルに向かって森の中を進んでいた。
「この森を抜けたら連戦を強いられるだろうから一番気が楽なのは今かもな」
「いっその事抵抗する気も起きないくらい最初にボコボコにしちゃえばいいんじゃない? いくら再生するとはいえ絶対に勝てないって相手くらい分かるでしょ」
「いや、どうだろうな……。あいつらって基本バカだから突っ込んでその再生力でもって捨て身の攻撃して仕留めるって戦い方だし、もしかしたらいつまでも諦めないかもしれんぞ」
「そうなったら諦めて一人ずつ縛り上げてくしか無いね」
問題は人間を盾に使ってきた時なんだよな。
実際フェイもそれで一度やられてるわけだし、向こうは家畜程度にしか思っていないけど、俺らにしてみれば救わなければならない命だ。
向こうもそれが分かってるから平気で盾として使ってくるだろう。
「最終的には全部面倒くさくなって空飛んでいくことになりそうだよね」
「……ていうか最初から飛んでけば良かったんじゃねぇの?」
「それはそうだけど、なんて言うかそれだと風情無くない?」
「なんでお前は戦いに風情とか求めてんの?」
「万が一にも僕達ふたりで負けることがあるとでも?」
「いやねぇけど……」
「ならもうそのくらいしか今回楽しむことないじゃん。確かに人間たちを救い出すことは最優先目標だけど、何かしらの楽しみがないとモチベーションって上がらないよね」
「お前もお前でやっぱ変わってんな。考え方が人間とちげぇって言うか……力があるがゆえの考え方してるわ」
よく言えば余裕があるってことなんだが、それは裏を返せば慢心なんだよな。
まだフェイ程の力は使いこなせないとは言え、俺も他の天使に比べたら相当強い自信がある。
本気で殺し合いした時はフェイにすらも勝てるだろうしな。
……けど、戦いを楽しむって考え方は無かったわ。
俺にとっちゃ戦いは手段の一つであって、目標を達成するための道具でしかない訳だ。
それに楽しさを見出すこともしてこなかったし、どうも俺にはその考えは出来そうにない。
「別に戦いが楽しみって思ってるわけじゃないよ? ただ、絶対的な強者だと勘違いしてる吸血鬼達は自分以上の脅威が現れた時一体どんな顔をするのかなって思ってるだけで」
「もっと質悪いじゃねぇか! そんな理由だったらまだ戦闘楽しみって言ってる方が健全だと思うけどな!」
「アベルだって自分のこと見下してた奴らの顔が驚愕に変わる瞬間、見てみたくない?」
それは悪魔の囁きだった。
それを言ってるのは天使だが、言ってることは悪魔そのもの。
むしろこいつの方が悪魔よりとんでもねぇこと言ってるまであるだろこれ……。
「加虐趣味ってわけでも無いはずなんだけどな……。正直かなり見てみたいわ」
「なら飛んでいくなんて勿体ないよね? 歩いて行けばそれだけ多くの吸血鬼と戦えるんだよ?」
「んー……」
「早く吸血鬼から人々を救おうって気持ちは大切だと思うよ。けど、アベルはもう少し自分の欲望に忠実になってもいいと思うんだ」
「……そうだな。このまま歩いて行くか」
いや別に悪魔の囁きに屈したとかそんなわけじゃ無いよ?
歩きでは行くけどなるべく早く移動するし、余計な戦いはしないつもりだし……。
うん。これはただ見聞を広めるっていう崇高な理由があってだな……俺が欲望に負けたとかそんな理由じゃ無いんだからねッ!
「最高ッ!!!」
闇剣を握った俺の周りには驚愕の表情でこちらを見つめる複数の吸血鬼たちがいた。
「手加減してないで早く行こうよ」
「まぁ待てよ、久々の再会なんだ。もう少し楽しもうぜ?」
「もう、さっさとしてよー?」
「りょーかい」
歩いていくことに決めてから数時間歩けば森は抜けた。
すると直ぐに複数体の吸血鬼が俺らを取り囲むように現れたのだ。
しかもその中には城で見た事のある姿もちらほら。
向こうも俺のことは覚えていたのか散々バカにしてきたから二割の力も出さずにボッコボコにしてやった。
「何故お前にこれほどの力が……!?」
「三日会わざれば刮目して見よ、だっけか? もう俺がこの国を出てから百年間以上経つもんな。いつまでも昔の俺を想像してると痛い目を見るってことだ」
「その力、天使のものだな! 貴様、吸血鬼の誇りすら捨て天使に寝返ったのか!!」
なんか面白いこと言ってんなぁ?
「そもそも初めからお前らの仲間じゃなかったけどな」
「何を言うか!? 貴様は紛れもなく吸血鬼では無いか!」
「それこそおかしいな? 俺は吸血鬼として欠陥品と言われこの国を追い出されたんだぜ? その俺に対して『紛れもなく吸血鬼』ねぇ?」
俺はこのために強くなったんだよ!!
弱者として俺を見捨てたお前らに絶望と屈辱を味合わせるためにな!
「っそれだけの力があればもう見下されることも無いだろう! 戻ってこい!」
「はぁ? それ、本気で言ってんの?」
「あ、あぁ! 陛下も今の貴様の力を知れば国外追放を取り消してくださるだろう!」
「あー、ほんとに頭にくるなぁ。俺が、今更お前らのところに戻るメリットって何だよ? 力はある、信頼してる相棒もいる、安心して生活できる場所もある……俺がお前らについていいことってあんの?」
ま、もしあったとしても帰る気はねぇけどな。
俺の帰る場所はあの教会で、あの村だ。
第一王子や吸血鬼って目で見られることなく、俺を俺として見てくれるあの村が好きだ。
吸血鬼だってわかってる上で俺があの村で生活できるように手配してくれたフェイは信用に値する。
それに比べてこいつら吸血鬼はどうだ。
力の弱いものが淘汰され、強者だけが優遇される社会と、人を人とも見ない風習。
存在する価値すらあるかも怪しいのに、あまつさえ俺に帰ってこいだと?
「ふざけんのも大概にしろよ。テメェら如き何百回、何千回、何万回だって殺すことはできる。無駄に時間がかかるからしてねぇだけでいつだってやることは出来んだぞ? 随分と上からものを言うじゃねぇか」
頭に血が昇ってるのが分かる。
普段以上に口調も荒れてるだろうし、相当苛立ってたんだな。
なんて客観的に見れてる俺も心の中にはいるわけで、まだ自制は出来てるんだと安心した。
力を本能のままに振るえば、それは獣と同じに成り下がるしな。
やめだやめ。
こんな無駄なことやめてさっさと親父ぶっ飛ばして帰ろう。
「や――」
何か言おうとしていたが、そんなものは無視だ。
口を開く前に一瞬で首を切り飛ばして手足に闇で出来た手錠をはめていく。
飛んで逃げられても困るから羽も重ねて縛っておいた。
どうせ頭も再生するだろうからうるさくないように口に草でも詰めて紐でぐるぐる巻きにしておこうか。
「さて、じゃあもう一気に城まで乗り込んじゃおうか」
「ん、そうだな」
「……大丈夫?」
「いや、思ったよりあっけねぇなと思ってさ」
「それだけアベルが強くなったってことなんじゃないの?」
「そうなんだけど、なんて言えばいいかな……こんなのに昔はビクビクしてたんだって思うと情けなく感じてさ」
別に人間の血を吸わなかったことを後悔してるわけじゃない。
吸わなきゃ死ぬわけでもねぇし、結局のところ自己強化と嗜好品の域を出ない以上わざわざ搾取するのは違うだろって今でも思ってる。
ただ、同意の上で血を分けてもらえれば貶められることもなく過ごせたのかと思うと、今まで生きてきた数千年がもったいないと言うか……。
「ま、今それを言っても仕方ないことなんだけどな」
「……僕はアベルが落ちこぼれで良かったと思ってるよ」
「そりゃ俺も同じだ。国を追われてなければお前と会うこともなかっただろうしな」
「真に平等とは行かないかもしれないけど、これを機に少しでも世界が変わると僕もアベルももっと過ごしやすくなるんだけどね」
「お前は天使で、人間の味方をずっとしてきたから大丈夫だろ。問題は俺だ、最底辺を突破して底抜けに落ちてる吸血鬼として、どうやって世間に認めてもらうか」
「態々バラす必要も無いと思うよ? 羽さえ出さなきゃアベルは人間にしか見えないし、この国をどうにかしたら人間として生きればいいんじゃない?」
「そう、だな……。」
何はともあれまずは目先のことをどうにかしよう。
先のことばかり考えて足元救われないように。
この腐った吸血社会を俺が、この手で終わらせる。
今だけはその玉座で見下していればいいさ、自分が見限った者と、取るに足らないと放置してきた天敵がその首に牙を突き立ててやる。
せめてもの親孝行に教えてやるよ、傲慢が罪だってことをな。
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