第9話:再会
明日こそは……明日こそは朝から投稿できるはず……!
フェイに伝言を頼んでから数ヶ月後、その報告は突然だった。
夜中にも関わらず村が騒がしいことを不思議に思って外に出てみると、広場に人だかりができていた。
やっとフェイが帰ってきたのかと急いで向かうが、道中悲愴な顔つきの村人が多いことが引っかかった。
人だかりをかき分けて前列に出ると、そこには胴体の右半分を失って倒れているフェイの姿があった。
「……フェイ?」
フェイが死んだ……?
あんだけ強かったんだぞ?
天使長なんじゃなかったのか、なんでこいつはこんなボロボロになって倒れてんだよ……。
傍らに立ってる補佐のアルマには多少の傷は見られるけどちゃんと生きてる。
「なぁ、生きてんだろ……? ふざけて死んだフリなんてしてんなよ」
「…………アベル様、フェイ様はもう――」
「適当なこと言ってんじゃねぇッ!!」
殺しても死なないような奴だぞ。
そんな簡単にくたばるようなタマじゃねぇだろ……!
「フェイ様は! フェイ様は最後まで、アベル様のことを言っていました……」
「……フェイはなんで死んだんだ」
「吸血鬼が今回の戦争で新たな兵器を使用してきました。並大抵の攻撃ではフェイ様には傷を付けられないと悟った吸血鬼は、生物兵器を投入してきたんです」
「……それで?」
「生物兵器は私たちの想像以上に凶悪でした。初めに人間が五人前線に立たされました。その人間に攻撃が被弾しないように満足に攻撃することが出来ず、何とか救出したところでその人間が突如爆発したんです」
人間を盾に見せかけた生物兵器か……。
もともと吸血鬼は人間なんて生き物として見てなかった節があるし、そんな手を使ってきても不思議ではないが。
「人間を救出したのが私で、フェイ様はそんな私を庇って……」
「…………」
落ち着け、アルマに怒りをぶつけるのは間違ってるだろ。
フェイがアルマを庇ったってことはあいつにとってアルマは守るべき存在だったんだろ……? だったら俺が怒る相手はアルマじゃない。
だったら爆発した人間が悪いのか?
いや、そもそもフェイは何のために戦ってたのか思い出せ……人間のためだろ。
「……フェイの身柄は俺が預かってもいいんだよな?」
「はい、戦闘中もずっとアベル様のことを気にかけていらっしゃったので帰るべき場所に返して差し上げるのが私の唯一の償いになるかと」
「そっか……さっきは怒鳴って悪かった。まだ少し気持ちの整理が出来てねぇんだ、今日は一旦帰らさてもらうわ」
「……すみませんでした」
「…………フェイが死んだのはアンタのせいじゃねぇよ。って言っても気にしちまうだろうから、一言だけ言わせてくれ。フェイがアンタを庇ったのはそれだけ大切な存在だったからだ。だから、その助けられた命を誇ってくれ。フェイが救った命で精一杯生きてくれ」
それ以上はもう何も言えなかった。
間接的とはいえ、フェイの死に関係しているアルマと話し続けるのは辛かった。
俺はフェイを抱えて教会に帰る。
初めて抱えたフェイは思った以上に軽かった。
『天使の転生は百年周期で行われる』
いつだったかフェイが言っていたことだ。
吸血鬼が不死なのに対して、天使は不老……老化で死ぬことはないが外的要因では平気で死に至る。
しかし、天使は死後百年の期間を開けることで同じ記憶を持った存在が生まれると言う。
「待っててやるよ……お前がもう一度この教会に帰ってくるのを」
何年でも何百年でもな。
幸い吸血鬼の寿命はとんでもなく長い。
フェイが帰ってくるのを待つくらい余裕なはずだ。
「ただ、次に戦場に出る時は二人でだ」
転生してきたら言えばいいだろ、「お前の血、飲ませてもらった」って。
もう二度と後悔しないように、最初で最後の吸血をしよう。
死んで冷たくなったフェイの首筋に牙を突き立て、血を吸い出していく。
ドクンッ!!
フェイの血を飲んだ瞬間、異常なほど心臓の鼓動が早くなった。
体は燃えるように熱くなり、視界が回転する。
「グッ……ァァァアアアアアア!!!!」
拒否反応とでも言うんだろうか……。
飲んだ血を吐き出そうと吐き気が込み上げてくるが、それを無理やり飲み下して荒い息を吐く。
やっぱり天敵の血は副作用とかあんのかな。
朧気な意識の中、俺はそんなことを考えていたのだった。
どれくらいの時間耐えていたのか分からないが、気づけば鼓動は正常に戻ってるし、さっきまで感じていた吐き気は一切ない。
体温もまだ少し熱いかなってくらいで、動けるくらいには回復した。
「ん……適応できたのか」
前までに比べて随分と身体能力が上がったような気がする。
自分の体じゃないみたいに軽い。
外的変化がどのくらいあるのか確認するために、ひとまず洗面所に行って鏡を見る。
鏡に映る俺の姿は、これまでのものとは違ったものだった。
白一色だった長い髪に所々フェイと同じ漆黒が混じる。
羽を出してみると、片方しか生えていなかったはずがフェイに生えていたものと同じふさふさの翼が一つ増えていた。
ただし、こっちはフェイのものが真っ白だったのに比べて俺の翼は真っ黒だった。
「お前が帰ってくるまで教会と村は俺が守っててやるから、さっさと戻って来いよ」
俺はフェイの首からロザリオを外すとそれを身に着けた。
形見ってわけじゃないが、多少見た目が変わっちまったから一目見てすぐに俺だと気付けるように、これからこれを身に着けるようにしよう。
フェイの身体は教会の裏庭に埋葬し、十字架を立てておいた。
いろいろありすぎてもう疲れた……。
体も限界に近いし、飯も食う気になれないから今日はもういいや。
ベッドに倒れこむとそのまま気絶するかのように俺は意識を手放したのだった。
翌朝、目が覚めて自分の髪を見ると昨日の出来事が夢ではなかったと思い知らされる。
もしかしたらすべて悪い夢で、目覚めたらフェイが朝食を作って待ってるんじゃないかなんて考えてた。
けど、そんなことなくて、これから百年はフェイがいない日々が当たり前になっていくんだと思うとすぐには割り切れなかった。
待つと決めたけど、これまで生きてきた数千年よりもフェイと過ごしたたった二年が楽しくて、孤独で心が押しつぶされそうだ。
何かしていないと不安になってくるから、さっさと起きて朝食を作ることにした。
朝食を食べたら何をしよう。
自分の力を確かめることもしたいし、アルマとしっかり話もしなければならないだろう。
やることがあるうちはこの寂しさを紛らわせられるから良い方か……。
「フェイ、早く帰ってこないと一人で吸血鬼たちぶっ飛ばしちまうぞ」
ぽつりとつぶやいて俺は外に出たのだった。
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