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シリーズ『死神のお仕事』〜人生の成功者?編〜

作者: 朝寝雲

シリーズものを書いてみようと思いました。死神のいろんなお仕事。2作目。

 死神の仕事は、決められた担当の人間の一生を見守り、いつ命を終わらせかである。

 生まれ落ちたその日から、彼らの人生にぴったり寄り添い、終わらせ時を考える。

 私が担当した彼は、今思えば昔からがんばりすぎるきらいはあった。誰よりも優秀で、誰よりもがんばり屋だった。そんな彼だから人生もうまくいかないはずがなかった。何事にも全力投球でぶつかっていき、道を切り開いていった。周囲の人間のよいお手本として、いつも彼を見習いなさいと言われるような人間だった。

 彼は会社を起こして成功をつかんでいた。会社はどんどん大きくなり、彼の社会的地位も高まっていった。

 しかし、この手の人間にありがちなパターンとして、成功を掴んでも満足しない、更に高みを、そんな性格の持ち主がいる。彼がそうだった。

 彼は、自分が働いているのと同じレベルの成果を求め、同じレベルの努力を社員や仲間、家族に求めていった。

 成長の途上にあるうちはそれでも、人はついてきた。やればやるだけ結果がでるのは、誰だってうれしいものだったから。だが、努力や能力だけでは限界がやってくる。彼の会社の成長曲線は横ばいになっていった。

 けして、赤字経営に陥ったわけではない。だが、彼はそれをよしとしなかった。社員たちにさらなるレベルを求め、自身も仕事に打ち込んでいった。

 それでも経営は上向きにならなかった。

 彼は焦り、なにか新しいアイデアを、新しい顧客を、新しいタイプの社員をと、考えうるかぎりのことをしていった。

 そんな彼を昔からの社員、仲間たちは冷ややかな目で見ていた。

 「この会社ブラックだからさ〜」

 と、社員同士が冗談に言っているのを、偶然に聞いてしまったりもした。

 彼は更に焦り、ある時は逆に、親睦を深めるため、と誰も望んでいない社員旅行を企画したりもした。

 迷走に迷走をかさねていたのだろう。

 彼はもう自分を完全に見失っていた。

 私はそんな彼をずっとみてきた。そして、もう楽にしてあげたほうがいいのだろうか、と迷う。

 でも、彼には家族がいた。社員、仲間たちの信頼は失ってはいたが、家族は彼を支え続けていた。

 妻とティーンエイジャーの女の子と男の子。彼らだけが最後の味方だった。

 だが、そんな彼らも疲れ果てていた。

 「努力は人を裏切らない」

 そう言って、家族へも自身同様の日々の努力を求めた。

 家族は息詰まる思いで、緊張感のある毎日を送らねばならなかった。

 そんな時だった。上の娘の妊娠が発覚した。娘につけていた家庭教師の男性との子だった。そして、それは当然誰も望まぬ妊娠だった。

 私は、ああもうだめだな・・・と感じた。

 家庭教師の青年に怒鳴り散らす彼へとそっと近づくと、魂と体を切り離す。どうっ、と倒れる彼。

 家族は慌てて彼へ駆け寄るが、心臓発作で命はなかった。

 私は、天の国へと帰っていく魂へ、

 「おつかれさま。大変な人生だったね。ゆっくり休んでね」

 そう声をかけて見送った。

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