04 雷鳴と少女
レズ◯部屋は窓がついていない。そのため外の天気が分からないが、しとしとと微かに耳に届く雨音に、雨が降り始めたのだと気付くことができた。
長い髪をドライヤーで丁寧に乾かしながら、西宮がやや不安げな表情を見せる。
「……ンだよその顔。まさかドライヤーまで壊れてるんじゃないよな……?」
「まさか」
乾かし終えると、西宮は順番を待っていた東堂にドライヤーを手渡す。
「は〜……ドライヤーくらい2つ用意しといてほしいぜ」
「…………」
「まぁ同時に使ったらブレイカー落ちるとか、そんな理由で1つしか置いてないんだろーけどさ」
「…………」
東堂がドライヤーをいったん切る。そして西宮の方を向くと不機嫌に尋ねる。
「おい無視かよ感じ悪いな」
「……別に無視してないわよ」
「…………」
なにやら様子が変である。いつもの余裕さが若干ではあるが見て取れない、気がする。
不審げに感じた東堂が再び口を開こうとした瞬間、外で雷鳴が轟いた。
「ぴィ……!」
「!?」
耳を疑った。雷の音量に驚いたのではなく、ぴィなどという可愛らしい悲鳴を上げた西宮に度肝を抜かれたのである。
当の西宮はさきほどの可愛げある悲鳴を上げたことを恥じるように小さく咳払いした。そして登校カバンの中から小説を取り出すと、いそいそと読み始める。
東堂の顔面がニヤつく。
「ねぇw」
「……なによ」
「さっきの悲鳴、なに?w」
「…………」
「ぴィってwww」
「〜〜〜……////」
西宮の表情が真っ赤に染まる。いつも余裕と気品を感じさせる立ち振舞いを見せるあの西宮が、まさかの雷嫌いだったとは。
「なぁなぁ、今どき小学生でも雷なんて怖くねーぞ?w」
「うるさいわね……」
東堂のニヤけ度はさらに加速する。
完璧に優位に立ったと確信した東堂は、ベッドの反対側に座る西宮へと向き直る。そして女豹の如く、にじり寄り始める。
「まっさかあの西宮楓様がねぇ……」
「うるさいって言ってるでしょう」
「生徒会長の面子が丸つぶれだぁ……」
「その口を縫い合わせてあげようかしら」
「やってみろよw でも途中で雷鳴ったらビビって止めちゃうんじゃないかな〜?w」
「東堂……ッ!」
西宮が唐突に立ち上がる。右手は高く振り掲げられており、瞬時にビンタされるのだと理解した。
さすがにやりすぎたかと刹那の隙で悟った、また次の瞬間。地鳴りにも似た轟音が外から叩きつけられた。
「ひゃ……!!!」
振りかざされた右手は標的を見失い、西宮の両胸に収まる。そしてそのまま体ごと、東堂のもとへと不時着した。
「!?////」
あまりに唐突の出来事だったために、西宮をほぼ反射的に抱きとめていた。
彼女の暖かなぬくもりと、縮こまってしまった小動物のような抱き心地。ふわりと香る良い匂いに、東堂は脳が痺れるのを感じた。
「あ、あの……西宮……?////」
「そのまま抱きしめてて」
「えっ……////」
「殺されたくなければ」
「ひぇ……」
こんなか弱い姿を晒しても、なお口から飛び出る物騒な物言い。それが可愛くて面白くて、東堂はついつい笑ってしまった。
「わ、笑うんじゃないわよ」
「はいはい」
「このこと内緒にしときなさい……よね」
「わぁーったよ」
「……ちょっと腕の力緩まってない? ちゃんと抱きしめなさいよ……」
「わ、わぁーったって!////」
雷鳴は夜が更けるまで鳴り止まなかった。その間彼女たちが抱き合って眠ったのは言うまでもない。