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03 ふたりでお風呂

 東堂がひとり浴室で何やら格闘している。しきりに蛇口を捻りながら、あれだのクソだのぶつぶつと呟きながら。


「おっかしいな……どうなってんだ……?」


「さっきからどうしたの、ぶつぶつぶつぶつと」


「どわぁーっ!?//// 入ってくんじゃねぇ!!!////」


 東堂は今まさにお風呂に入ろうとしていたところだ。つまり全裸である。そこに西宮が突入してきたのだから、そう驚くのも無理はない。


「なに? 裸を見られたくないのかしら。女同士なのだからいいじゃない」


「るっせー! 風呂とトイレくらいしかプライベートな場所ねぇんだから少しは考えろ!」


「……で、いったい何を悩んでいたの」


「…………////」


 東堂は説明を始めた。

 要約すると、蛇口を熱湯に捻っても水しか出ないそうなのだ。証明を兼ねて東堂が蛇口を再びひねる。


「……お湯出てるじゃない」


「は?」


 どういうわけか蛇口からは正しくお湯が出始める。東堂は目を白黒させた。


「い、いやいやいや、おかしいぜ。だってさっき水しか……」


「変な気の引き方してないでさっさと入ってくれるかしら」


「別にそんなつもりねーよ! くそ! はやく出てけ!」


「まったく」


 西宮を追い出すと、東堂は蛇口へと向き直る。そして大きくため息をついた。


(裸見られたし……最悪だぜ……)


 気を取り直すかのように東堂は首をぶんぶんと振る。そして再び蛇口を捻った。

 すると、なぜかまた水しか出ない事態が起きる。頭からそれを被ってしまった彼女はたまらずか弱い叫び声を上げてしまった。


「なに今の可愛い悲鳴」


「どどどどどわ!? だから入ってくんな!////」


 どう考えても給湯器が壊れている。そう思った矢先、東堂の目にとある注意書きが映る。それはバスルームの壁に書かれていた。


「……なになに? このバスルームには生体感知センサーが備えられており、ふたり同時に入浴しないとお湯は出ない仕様になっております。だと……?」


「あなたとうとう頭おかしくなったの?」


「ちげーよ! ここ! ここに書いてあんだよ!」


「……本当ね」


 つまり一緒に入れということだ。

 東堂の顔がみるみる赤くなっていく。対して西宮は平然と、おもむろに服を脱ぎ始めた。


「なにしてる!?////」


「ふたりで入らないとお湯出ないんでしょう? だったら仕方ないじゃない」


「そ、そそ、それはそうだけどよォ……!」


 ブラと取りパンツをするすると脱ぐ西宮。東堂はなるべく見ないように顔をそらす。どうやら不良に似合わず乙女な部分も持ち合わせているようだ。

 西宮が一糸まとわぬ姿になると、やや強引に東堂の手からシャワーを奪った。


「おまっ……////」


「棒立ちされてちゃいつまで順番待っていればいいか分からないんだもの。私が先に洗っちゃうわ」


「…………////」


 流れる水音だけが浴室に響いている。

 頭と身体を洗う後ろで、東堂は心臓をバクバクと高鳴らせながら、西宮の背中をまじまじと見つめている。


「ねぇ」


「なっ……なンだよ……」


「背中、洗ってくれるかしら」


「はぁ!?////」


「ぼうっと立ってられてたら気味悪いもの。せっかくふたりで入るんだから、ふたりの時でしかできないことをしなさい」


「……っせーよ……////」


「言っておくけど、手で洗いなさいよ」


「!?////」


「肌が傷まないもの」


「……わぁったよ! くそ!////」


 東堂はてのひらにボディソープを二滴ほど落とす。そしてよく泡立てると、西宮の背中へと向き直った。

 眼光が開ききっている。やや荒くなった息でまじまじと背中を見つめながら、東堂は「いいんだな?」と意味深なことを呟く。


「早くしなさい」


 ひたっ、と右手が肩甲骨あたりに触れる。そのまま左手も肌に触れると、両手で円を描くように、丁寧に洗い始めた。


(やべぇ……すべすべすぎ……)


「同じところばかり洗ってないで、まんべんなく頼むわよ」


「ぉ、ぉぅ……////」


 東堂の体感時計は完全にバグっていた。西宮の背に触れ始めてから何時間経っただろう、そんな思考に目をチカチカさせながら、東堂はあろうことか、彼女の身体の前へと手を滑らせた。


「……!」


「に、西宮ぁ……前も……ぁ、洗った方がいい……よな……?////」


 完全に表情がとろけていた。東堂はだらしなく口角を上げたまま、鏡越しに西宮を見る。

 その瞬間、東堂は我に返った。


「前はもう自分で洗ったわよ」


「……ぁ」


「はいお疲れ様」


 そう言うと西宮はシャワーで背中の泡を落とし始めた。

 正気に戻った東堂は両の手のひらを見つめながら悶々とするのだった。

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