02 ソシャゲ事情
レズ◯部屋の時計が19時を指す。ふたりのお腹が鳴き始めた頃合いでチャイムが小気味よく鳴った。
「……誰だ?」
「さぁ。もしかしたら私たちがなかなかヤらないから終了になったんじゃないかしらね」
「はっ、そりゃありがたいことだぜ」
のそのそと扉へと歩み寄る東堂。
レ◯セ部屋は安いアパートの一室を想像してもらえるとわかり易いだろう。1Rでトイレとお風呂は別。部屋の大部分は大きなダブルベッドがしめているという、なかなかに狭苦しさを感じさせる部屋だ。
そして玄関口にあたる場所には鍵のついていない扉があり、かなり大きなポスト受け口が付けられている。
東堂がその受け口を覗くと、唐突に外からお弁当がふたつ飛び込んできた。
「どうしたの?」
「今日の飯だとよ」
食事が届けられたということは衣食住は保証されているのだろう。東堂はやや安堵した面持ちで弁当を手にすると西宮のもとへと戻った。
「あら、作りたてみたいね。美味しそう」
西宮が弁当の蓋を開けた感想を言う。しかし東堂はそれに答えることなく、ぶっきらぼうに弁当の蓋を開けると、スマホ片手にばくばくと食べ始めた。
「食事中はスマホ禁止よ」
「うっせーな。アタシの勝手だろ」
「行儀悪いじゃない」
「別にいいだろ学校じゃねーんだしさぁ」
「どこであっても作法は守るものよ」
「ふん……」
ふたりの間にしばしの沈黙が流れる。
東堂のスマホから流れるソシャゲのBGMだけがむなしく響いている。
「なんのゲームをやっているのかしら」
「ユリスタ。つっても知らねーだろうけどな」
「……偉人を美少女化して謎の勢力と戦うシミュレーションRPGね」
「なっ!? 知ってんのかよ!」
「もちろん」
そう答える西宮はどこか誇らしげだ。
彼女は自分のスマホを取り出すと、アプリを起動し東堂の目の前に見せる。
「1位のランカーは私なの」
「はぁぁぁぁあ!? あの廃課金戦士がお前だってのか……!?」
「ひれ伏しなさい」
「くっ……」
西宮楓の家庭はかなり裕福なのだろう。ソシャゲのランカーしかも1位を維持できるほどの財力が高校生ながらにあることに驚きである。
しかし一番驚いたのは東堂に違いない。彼女は手元のスマホと西宮のスマホを交互に見ると、大きく肩を落とした。
「なんかやる気なくした」
「あなた無課金でやってるの?」
「悪いかよ……」
「悪くはないけれど、じゃあなんのためにやってるのよ。このゲーム」
「アタシはキャラが好きなンだよ。あとストーリー重視! 別にランキングで上位入るためにやってねーし!」
「ふゥん。でもランキング上位はそのキャラの限定版がもらえるわよ」
「ぐっ……」
「キャラ愛を語るなら限定版を手に入れることが前提なんじゃないかしら?」
「うぐぐっ……」
「正論すぎてぐうの音も出ないようね」
「やっぱお前嫌いだわ!」
レズ◯部屋のふたり。
彼女らがこの部屋を出るのはまだまだ先になりそうだ。