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第9話 異形種

 一方、こちらはタケルサイド ―――


「へっ!こいつら結構雑魚じゃんかよ!オラ!」

「我の力のおかげだろうが!」


 大暴れをしていたタケルとマラクは廃屋などが吹き飛ぶほどの攻撃を敵に浴びせていた。装備されたガントレットは使用者の攻撃を10倍近いパワーに増幅して放つため、元から怪物級のタケルのパンチはおよそ1000kgのものになっていた。

 その圧倒的な数を相手にしても、このパワーに敵うはずもなく無惨に散っていくだけだった。


「なんかさっきから時々来る変な攻撃はなんだ?意外とうざいな....」

「あぁ、我も軌道を逆算して探そうとしているんだが、こんな数の中でピンポイントに一体探すのは骨が折れる。」


 そんな会話をしている間にも戦闘は続いていた。噛みついたり爪を立てて攻撃を仕掛けられてもナノマテリアルの高密度の防御は突破できなかった。


「タケル、いたぞ。右上のほうだ。」

「オッケー。おりゃぁ!」


 マラクの言うことを確認するとタケルは一番近くにいたウボリアンを一体つかみ、崩れたビルめがけて投げた。

 それと同時に甲高い泣き声が聞こえたかと思うと、そこから少し大きめな個体が落ちてきた。他のと違い、眼球らしき機関が見当たらなかったが、その代わり体中から鋭い棘が飛び出していた。


「キィー!カカカ....」


 隠れるそぶりも見せず、牙を鳴らしていた。


「なにやってんだ、あれ?」

「高周波の音波を確認した。多分エコロケーションだろう。目がない代わりにああやって周りの状況を把握しているはずだ。」


 一通り己の周りを確認するとまた大きな鳴き声を出した。それと同時に他の個体が身を引いた。


「ほう、お前がボスか。来い!」


 タケルが構えると棘だらけの個体は体をすくませると、体に付いていた棘が一気に飛び出し、タケル目がけて飛んでくる。


「やっぱりあのうぜぇ攻撃はお前だったんだな!雑魚を掃除しながらお前の棘もよけないといけなかったからめんどくさかったんだぞ!」


 飛んでくる棘をよけながらタケルはそう言い放った。AIの弾道予測を使いながら近づいて行くとその個体は大きくジャンプし、一定間隔を開いていく。


「まてゴラァ!ちょこまかと!おいマラク、サポーターの出力上げろ!」

「全開だ!これ以上やれば負荷がかかりすぎて動けなくなるぞ!」


 しばらく追いかけているとまた大声を出し、今度は他の普通の個体に何かを指示したように見えた。それを聞くとすべての個体がタケルを追いかけ始めた。

 すると異形種は走るの止め、今度はしっかりと腰(?)を落とした。


「ほぉ、そうくるか。」

「おい、なに立ち止まってる!走れ!いっぱい来てるぞ!」


 マラクの言うことを無視し、同じように立ち止まってタケルは標的の正面に立った。


「どっちが投げるのがうまいか勝負だ。」

「あぁ、そういうことか。」


 マラクも意味が分かると足の方へ送っていたエネルギーをガントレットへ戻した。


「キィィィ!カカカカカカカ!」


 相手も勝負に乗ったと言わんばかりに牙を鳴らし、タケルの場所を確認した。

 無数の棘が飛んでくるとタケルは飛びかかってきたウボリアンを掴み、投げ返した。投げられた個体は棘に刺され、血を流しながら息絶えた。


「下の奴はお構いなしか、ま、俺はどうでもいいけど。」

「カカカカ!」


 それからはドッジボールのような状況だった。棘が飛んでくるとウボリアンを投げ返すタケル、それに答えるように異形種もさらに棘を生やし直しては飛ばした。

 戦況は五分五分に見えたが、しばらくすると異形種の棘の再生が間に合わず、少しずつタケルの投擲物を受けるようになっていった。逃げようとジャンプしようとするとすかさず仲間の死体が飛んできてバランスを崩される。


「やっぱりそうか、てめぇは無限に棘を撃てるわけじゃない。なら弾切れになるまでこっちが攻撃すれば良い!」


 弱点を見つけたタケルは次々に飛びかかってくる雑魚を投げながら、さながら悪役のような笑い声を上げていた。


 少し前、光司も多くの個体を引き連れて走っていた。上手く引き離せたのを確認するとすぐに体をぐるりと敵に向けた。


「さて、始めますか。いくぞ!」


 そう言うと刀を抜き、しっかりと構えた。一体飛びかかると驚異の太刀筋で首を飛ばした。それは一瞬のことで、光司自身も驚いた。

 次々と敵を倒す光司の手はいつも以上に軽く、足は速く、反射神経は研ぎ澄まされていた。

 斬っては引き、斬っては引きを繰り返すと光司の振るう刀はまるで自我を持ったように目の前の敵を倒していった。

 倒している途中、足が滑り刀の太刀筋がずれた。そのまま近くにあった大きな木をめがけ刃先は進んだが、驚くことに刀は止まらず、逆に木を両断し、後ろにあったコンクリートの瓦礫をも綺麗に切れていた。


「なにこれ....えげつな。」

「お前の力を俺の力と合わせただけだ。ホント、お前を選んで正解だったみたいだな。」


 タケミカヅチの褒め言葉に照れながらも光司は手を止めなかった。次々と敵を斬っていく様はまるで一つの舞のようだった。

 だがここも同様、そう簡単に行かなかった。またもや異様な気配を感じた光司は一旦後ろへ飛んだ。すると数秒の差で元いた場所には明らかに他とは違う姿をしていた個体がいた。

 体は少し小さいが代わりに背中に大きな羽が生えており、その羽を使ってその異形種はすぐに宙へ浮いた。


「マジですか....刀でどうやってあそこまで攻撃しろっていうんだよ....」

「確かにあれは困ったな....」


 呆れている二人をよそにその異形種はさらに高く上ったと思うと今度は急降下を始めた。真っ直ぐ進むその先にはもちろん光司がいた。

 急いで守りの構えをするが時すでに遅し。光司の体はとてつもない勢いの体当たりを受け、後ろにあった廃屋まで飛んでいった。


「アイテテ....ちっこいのに凄い威力だな。あの時みたいだな。」

「あぁ、でも全く同じじゃないぞ。今回の敵は立派に自我を持っている相手だ。ロステッドと同じ目で見ると痛い目見るぞ。」

「もう見てるんだけどね。」


 空高くでその様子をうかがっていた異形種は今度はそこに留まったまま下にいた普通の個体へ何か鳴くとそれまで遠目に大人しくしていたのが一斉に走り出した。それは前よりも統率の取れた攻撃に少しは戸惑ったが、すぐに体制を立て直したのは異形種にも予想外だったらしく、より一層攻撃に力を入れた。

 その戦いの最中、空飛ぶ異形種が次の体当たりを繰り出そうとした時、光司はうまく避ける事ができた。その勢いのままよろめいたのですかさず光司は刀を振るった。


「もらったぁ!」


 すると異形種は無理やり羽を羽ばたかせ、その斬撃を避けた。しかしとっさの行動だったため、そのまま近くにあった大きな建物の中に落ちていった。


「よし、チャンスだ!光司!」

「オーケー!」


 光司がその後を追うようにその建物に入ると、落ちていく勢いを利用し、丁度足元にいた標的を蹴り落とした。

 その瞬間、光司のHUDに危険を示すアイコンが表示された。訓練通り、壁を蹴ってその場から退避すると反対側の壁を何か大きな物が突き破ってきた。

 よく見るとウボリアンの個体だが、他の個体と比べ固そうな皮膚をしていた。それと同時にアニマを纏った誰かと光司は目があった。


「あれ?光司くん?!」

「ん?西連寺?!」


 そこにいたのは見たことがない姿の春香だった。前に見たユーノとは違い、赤と白の厳ついスーツだった。


「西連寺か?それ、なに?」

「あぁ、これがジグルズなの!ちょっとのろくなっちゃうけどユーノよりすごい堅くて攻撃力もすげーの!」

「へー、それまたすごい。」


 二人の吹っ飛ばした硬質の異形種と飛行の異形種は空中でぶつかり、そのまま仲良く地面に叩きつけられた。

 二人が周りを見回すとそこは駅のような場所ですっかり廃れているものの、一日何千人が往来していた施設らしく、とても広かった。


「そっちもなんか変な奴がいたんだね....」

「うん、こっちは空飛んでる。あいつの攻撃の時にカウンター狙いが良いんだろうけど避けられちまうんだよな。」

「こっちは全然刃が通らない。ジグルズでやっとダメージが入るんだけど、こっちがスピード削ってるのに対してあっちはめちゃんこ速いんだよ。」


 起き上がった二体の異形種の攻撃を避けながら光司と春香は情報を交換し合った。

 気付けば二体の敵は共闘をはじめ、互いの攻撃をサポートするようになり、光司と春香も連携が問われた。


「西連寺!まずは空飛んでる奴から倒そう!堅い野郎は後回し!」

「了解、でもどうやって?」

「そう!問題はそこなんですわ。」

「ふざけてる場合じゃないよね!?」


 頭を悩ませる二人に現れたのはさらなる敵だった。今度は通常のウボリアンの死体に飛ばされて二人の正面の壁からまたもや異形種が現れた。体中から棘を生やし、のっぺらぼうのように面と思える場所には鋭くとがった牙がずらりと並んだ口しかなかった。

 するとすぐにその大きく空いた風穴から青い影が見えた。


「あれ?光司じゃねぇか!それと....そいつ誰?」

「あたしだよ!春香!西連寺春香!」

「なにお前その厳ついスーツは?!」

「ああん、もうめんどくさいなー!」


 光司が状況を簡潔に説明するとタケルは今度は近くにあったコンクリ片を拾い上げると野球のボールのように手で遊び始めた。


「じゃあとりあえずここにいる野郎どもをぶっ飛ばせば万事解決っていいのか?」

「まぁ、そういうことになるね。」

「おっし!じゃあ行くぜ!」

「おうよ!春香様に任せなさい!」

「じゃあいっちょやりますか!」


 掛け声とともに三人は一斉に三体の異形種に向かって攻撃を仕掛けるのだった。




 ――任務開始から17分16秒57。目標時間まで、残り12分43秒43....

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