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第8話 初任務

「あれは確か冬だった....ある任務に俺たちが招集されたんだ。あの時からうちの部隊は少人数でな、その時も隊長を含めて九人しかいなかった。その少数で任務を遂行しおわって帰ろうとした時....」


 五年前.....


「あーあ、疲れた。めっちゃ肩凝った~。」

「なにおっさんみたいなこと言ってんの。ほらさっさと行くわよ。」


 大きく背伸びをしていた久賀につっこみを入れたのは音成だった。

 大きな施設の中でウボリアンの死体の山を残して帰還しようとしていた時、今度は魂元と森岡が何かに気付いた。


「ん?隊長どこ行った?」

「自分の指定エリアの掃除が終わったらここで集合する予定のはずでしたよね?まさか....!」

「なわけないだろ、あの隊長に限って。」


 すると奥の方から日ノ宮が歩いてきた。なぜかアニマのアマテラスは大きなダメージを受けており、日ノ宮自身も頭から血を流していた。


「隊長....どうしたんすか。そんなになるなんて、らしくもない。」

「ああ、すまない。ちょとな。」


 四十万が聞くとそう返したが、自分のことより腕の中にある物からは目を離していなかった。

 他の隊員が気になり近づいて行くと、うぶ声が聞こえた。

 そこには1才にも満たない赤ん坊がおり、大事そうに抱えられていた。


「隊長!なんです、そのガキ?」

「あぁ、まぁそこにいた。」

「そこにいたって....」


 新倉が聞いてもはっきりと答えず、そのまま帰還した。帰還中のヘリの中でも全く離さず、傷の手当てもせずにしばらく抱きかかえていた。

 支部へ帰ってくると看護室へ行き、病院へ行かせ、自分で自分の手当をした。

 それからは我が子のように育て上げ、それでいて他の隊員同様、厳しい訓練も行った。気がつけば、大人にも負けない屈強な、可愛らしい少女になっていた。

 おかげでアカデミーへも行かず、まだ齢10歳にして難なくテストをクリア、アニマにも同期でき、立派なAUSFの隊員になっていた。


「美木~!見て見て!テスト受かった~!」

「おぉ、できると私は信じてたぞ!これでアニマが付けば立派な隊員だな!」


 そうしている二人に他の隊員も寄ってくると、祝いの言葉を贈った。


「よう、がんばったな!」

「お、おめでとうございます!」

「こんなチビでもできるんだな....」

「まぁ、日ノ宮隊長直々に鍛えてもらったんですから、これくらい当然です。」


 小宇羅は喜び、ぴょんぴょん跳ねていた。すると今度はアマテラスが出てきて頭をなでながら褒めてあげた。


「君、すごいね。こんなちっちゃい子がここまでできるなんて、ボク初めてだよ。おめでとう!」

「ありがとう、アマテラスお姉ちゃん!」


 その後アニマと無事同期した心愛は初めての任務が与えられると誰の手も借りず功績を収め、組織からも信頼を得てその道を歩んでいった。


 .........


「とまぁ、こんな経緯でこの子はここにいるんだ。どう聞いても隊長は口を割らないからもう俺たちはあきらめてそのままだ。」

「じゃあ、やっぱりこの子がどうしてその任務の場にいたのかは謎のままなんですね....」


 春香が聞くと久賀はうなずき、ジョッキを口に運ぼうとすると、ウィンドウに日ノ宮隊長からのメッセージが届いていた。


「第19部隊、出動準備。任務が回ってきた。12:00に集合。」


 それを聞くと隊員たちの表情が一変し、急いで出ていった。


「親父さん、つけといて!今度またまとめて払うから!」

「おう、いってらっしゃい!」


 集合場所へ着くと他の隊員も整列していた。

 全員が揃ったのを確認すると日ノ宮隊長は任務の内容を説明した。


「今回の任務は単純な殲滅任務だ。ここから南西へ400kmほどの地点で奴らが群れているのが確認された。最初は一つの大きな群れだったが、なぜか二つに分かれたあと、別々に行動していて、危険度Lv1の任務になっている。それでもこの日本プラントへ向かっていることは確かだ、無駄に近づけて一般人に不安を与えないためにも早急に討伐へ向かうぞ。」


 危険度とはその任務に伴う危険で、数や強個体などによって割り出される。今回の偵察隊は大きな危険はないと判断し、任務内容を危険度Lv1と判定した。

 これを新人を育てるチャンスと見た隊長は経験者は小宇羅と久賀のみ向かわせることし、それぞれ三人連れて行くことにした。


「では班分けを行う。榊、西連寺、それから藤塚。君たちは久賀と行動してくれ。それから心愛とは残りの三人がついて行ってくれ。」

「「了解!」」


 内容を確認するとそれぞれの準備へついた。アニマを装着するので装備は防弾チョッキ、ブーツに手袋など、最低限のものになる。

 群れは二つとも離れているので、2班(久賀、光司、春香、タケル)は1班(小宇羅)とは別のヘリを使用して現場へ向かうことになった。


「じゃあね!任務が終わったらもっと遊びに行こう!」

「うん!じゃあね心愛ちゃん!」


 春香が返すとニコニコと微笑みながら後輩たちを連れて先に飛んで行った。


「そんじゃ俺たちも行くか。準備できてるか?」

「はい!いつでも行けます!」


 久賀が出て来ると一行はヘリで目的地へ向かった。

 ヘリの中で戦闘などのおさらいを魂元は後輩たちにした。

 まず、ウボリアンは高度な知能と人間の数倍の身体能力を使って攻撃をする。


「アニマは常に装着しておけ。最後の一体だと思ってもしばらくは警戒していろ。俺が良いって言うまで絶対にだ。」


 真剣な顔でそう忠告を受けた三人は一層気を引き締めて初任務へ赴くのだった。

 すっかり滅びた町らしき場所の上空でパイロットが後ろの隊員たちに報告した。


「三時の方向に標的のウボリアン群発見。降下の準備を。」

「了解、奴らの進行方向へ降りる。そこまで回してくれ。」

「ラジャー。」

「よし、お前ら、アニマ装着。使用するメイン武器は?」


 そう言われてそれぞれのアニマを装着した光司たちは自分たちの武器を教えた。


「僕は刀です。一本だけ。」

「俺はガントレットだ。」

「あたしは双剣と....あれ?」


 何かに気付くと春香は小声でシグルズに武器を聞いた。受け取ってから展開をしたことがないので知らずにいたのだ。


「シグルズってどんな武器出すんだっけ?」

「そういえばまだお見せしていませんでしたね。私は片手剣です。大きめなのでお気を付けて。」

「そっか、ありがと。」


 また久賀へ向き直ると片手剣と答えた。

 そう確認すると久賀は自分のアニマを呼んだ。


「おい、起きろフレイ。仕事だ。」


 すると久賀の腕にあった刺青が形を変えてスーツになっていた。朱色のボディのアニマを纏った久賀は一層勇ましく見えた。


「俺のは両手剣だ。ということはここにいる者の中で遠距離はいないってことだ。どういうことかわかるな?」

「えっと....遠距離戦ができないってことだから....」

「俺たちの武器に合う戦闘スタイルの近接戦を主体をするから....」

「僕らは間合いを開かせずに戦う必要があるってことですよね。」


 三人の答えに満足した久賀はパイロットに相づちを打った。それに答えるようにパイロットは手元にあったボタンを押した。すると足元の床が開き、下の方に地上が見えた。

 操縦席から外をのぞくと久賀はフレイに聞いた。


「フレイ、相手は何体だ?おおざっぱで良い。」

「百二十ほどだ。いつもの奴らなら二十....いや十五分で行ける。」

「よし。」


 そのまま戻ってくると新人たちに言った。


「目標時間は三十分だ。その時間内に倒せるだけ倒してみろ。いいな?」


 光司たちがうなずくと久賀は真っ先にジャンプした。それを追うように三人が飛び降りるとヘリはそのまま上昇しその場を離れた。

 上空200メートルからのダイビングが終わると光司の目には息を飲む光景が広がっていた。

 廃れた建物や道路を埋め尽くすほどに無心に走ってくる沢山のウボリアン。薄灰色のような体に太い腕、鋭い爪、大きく剥きだした牙を持った奴らは訓練やアカデミー時代に見る映像などよりよっぽど恐ろしかった。


「驚いている暇は無い!来るぞ!」


 あっという間に四人は取り囲まれた。しかし決してただの猛獣のように襲い掛かる様子は見せず、ゆっくりと観察をした。


(ロステッドみたくただ攻撃するだけじゃないんだろうな....)


 光司はそう気づいた。

 すると攻撃をしようと決めたのか、今度は全員でかかってきた。その数に圧倒されそうになるが、久賀は自分にかかってくる個体を捌きながらも光司たちのサポートもした。

 一体ごとならアニマや日ノ宮の訓練のおかげで確実に倒せるようになっていたが流石にこの数は捌ききれなかった。


「久賀先輩!ありがとうございます!」

「礼より今は任務に集中しろ!このまま固まっていても意味がない、一旦ばらけるぞ!おびき寄せられるだけ連れて行け!」


 久賀の指示に従い、全員一度ばらけた。するとそれを追うように群れも何匹かに分かれて行った。


「うわぁ!いっぱいついてきた!」


 春香は近くにあった開けた場所へ行くと、双剣を構えた。スピードを活かす戦闘スタイルに合った武器のため、春香は決して立ち止まらず、走りながらウボリアンの間を走っては斬り、走っては斬りを繰り返した。

 しばらく続けていると他の個体に交じって少し変わった気配に気付いた。ウボリアンであるのは間違いないのだが、なぜか同じものに見えない。


「なに....あいつ。」

「えぇ、私にはあれはちょっと厄介かもね。」


 ユーノも少し困った声で言った。

 そこにいたのは他と比べて一回り大きい個体で、肌の質感が明らかに違う。春香には違和感しか感じられなかった。


「何にもせずにいたって意味がない!攻撃あるのみ!」


 そう言って今までと同じように走って距離を詰めるが避けるそぶりも見せない。そのままユーノの双剣が首をはねた....と思った。そいつは腕でガードをしており、首はおろか、腕にも大したダメージが入っていなかった。


「うげ、やっぱり。」

「私はヒットアンドアウェイに向いた装備ですからね、あんな固かったら流石に無理がありますよ。」


 そのまま構えている間、他のウボリアン達は全く手を出さずにいた。代わりに春香を取り囲み、リングのように閉じ込めていた。


「こいつがやっぱりこいつらの中では一番強いんだね....それじゃ!」


 そう言うと春香は標的の周りを走り始めた。そして隙を見つけると斬りかかった。

 だがまた大して深い傷はつかず、そいつはゆっくりと振り向いた。


「ウゥ?」

「余裕かましやがって!」


 また攻撃を仕掛けようとすると今度は反撃をしてきた。常人ならたどり着けないような速度で走っていた春香に難なくパンチを当てた。


「イッテー!なにこいつ、でかいくせに攻撃が速い!」


 今の実力ではスピードでは敵わないと判断すると、春香はある行動に出た。


「ユーノ、分かるよね」

「わかったわ、そうした方がよっぽど合理的。」


 するとユーノはすぐに元の姿に戻り、春香は生身になった。

 それを見かねて相手はすかさずまた右の大振りをかました。勝負が決まったと思えた時、砂煙の中では二つの光がしっかりとその巨腕を受け止めながら標的を睨んでいた。

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