第4話 もう一つの秘密
目が離せなくなったカプセルに光司は近づいて行った。なぜかは分からないが、呼ばれている気がした。
「僕....これにしようかな....」
カプセルを抱え上げながらその中を見ると心なしか微笑んでくれた気がした。少しほこりがかぶっていたが掃ってやると気にはならなくなった。他の隊員たちも続々と選んでいる中、春香だけが決められないでいた。
「お?春香まだ決めてないの?」
「う~ん、この二つには絞れたんだけど、こっち!って決められないんだよねぇ~....」
「僕はもう選べたけど、ホント感覚で選んだよ。」
そこへ光司とタケルが加わり、しかめっ面をしていると日ノ宮隊長が近づいて行った。
「おや?君、選びきれていないようだね。」
「はい....どうしても二つともピンときちゃうっていうか....」
「んー、それは困ったね。じゃあいっそのこと、二人とも連れていってあげてもいいぞ。」
「えっ、良いんですか?!」
たしかに一つとは言われていない。
すると少し大変そうだが、春香は二つのカプセルを連れていった。
全員が外へ出て来ると今度は起動方法を教わる。
「それではみんなカプセルの蓋を開けていいぞ。ナノマテリアルは勝手に体に寄ってくるから少し手をかざすだけでいいぞ。」
言われる通りにするとそのナノマテリアルが出てきた。先ほどの隊長ほど体にまとわりつかないがやっぱり皆、少し違和感を感じていた。特に二つ開けた春香はたくさんついていた。
「よし、次はその子たちの名前を呼んであげるんだぞ。個体名は先ほどのカプセルの側面に書いてあるぞ。」
カプセルを確認すると確かについていた。
「じゃあ俺の相棒は....マラクか。」
「あたしのは....ユーノとシグルズ。」
「僕のは....えっと、タケミカヅチ。」
すると今度はAIの声が聞こえてきた。
「AUSF戦闘用パワードスーツヲ確認。同期ヲ開始。」
一人ずつ様子を見ていた日ノ宮隊長もこの三人のところへやって来た。
「おっ、同期始まってるね。さてさて君たちはどんなのを選んだのかな?」
そういうとカプセルを読みだした。
「藤塚隊員はマラクか。ドラゴニックシリーズは確かに君にふさわしいぞ!」
「あざっす!」
「西連寺隊員は二つだったよな。ゴッドシリーズのユーノとヒュームシリーズのシグルズか。いいね、私のもゴッドシリーズだぞ!」
「えへへ、おそろいですか?」
「最後に榊隊員。君のは....タケミカヅチか~!私と同じゴッドシリーズの上に同じ日本神話!おそろいだぞ!」
「なんか....よろしくお願いします!」
春香が少し羨ましそうに光司の方を見ていた。だがここで少し疑問に思うことがあった。
「隊長、さっきから言っているシリーズってなんです?」
「あぁ、それはだな....」
聞けばこれはネーミングの際にモチーフにした対象で決まり、それぞれに得意とする戦闘スタイルがある。そのほとんどがモチーフにされた物の特性や伝承、歴史上での特徴によって選ばれている。応用などで使用者の得意なスタイルにも使えるようにはなるが、本領発揮はやはりシリーズ一致のスタイルになる。
「例えば私のアマテラスはスピードによる攻撃が主体だ。もちろん銃火器も使うが、やはり近接武器などを使った戦闘の方がとても強い子だぞ。」
「へぇ、それを見極めるのも訓練の一環ということですか?」
「あぁ、そうだぞ。だけど君たち三人とも適性があるとは、大したものだな。」
そこで気が付き、辺りを見回してみるとなんとほとんど全員にナノマテリアルが寄っていない。それどころかカプセルから出てきてもいない。
「なんでだ?俺たちの時はすぐに出て来たぞ?」
「残念だが、全員が使えるようになるというわけではないんだ。スーツを扱うにはまず、そのスーツに受け入れてもらわないといけない。それがうまくいかないと、ああやってカプセルから出てこようともしない時があるんだ。」
受け入れてもらえなかった者たちの顔を見ると皆、動揺を隠せないでいた。あきらめずに名前を呼び続ける者、怒りをあらわにしてカプセルを蹴り飛ばす者、中には悔し涙を流す者もいた。
「あの人たちはどうなっちゃうんですか?」
と、心配になった春香は聞いた。
「戦闘部隊には配属されないだろうな。救助部隊か事務処理班に回されたり、警察への推薦が出る。本当は私もこんなことしたくないぞ。けど、前線へ行けばわかる、あそこで生身の人間がいけば、抗う術もなくただただ無惨に殺されるだけだ。それを考えたうえでの判断だ。」
隊長の顔は悲しみがにじみ出ていた。たしかに、人類のためになると思い、何年もかかる訓練に耐え忍んだ挙句、こんな些細なことで先へ行けないなんて、飲み込めないのが普通だろう。
そんな中、受け入れてもらった一人の隊員がさげすんだような目で大声で話し出した。
「ハッハッハッ!やはりこの僕と同じ事をただの雑魚がやるなんてできっこないんだ!じゃあなんも出来ない出来損ないたちには出て行ってもらおうか?!せいぜい事務所の中で書類の整理でもやってな!」
そう言うと近くにいたもう一人の隊員に向かっていった。何をするかと思えば、今度はその隊員に向かって蹴りを一発いれた。
「うっ!」
「なぁ?今どんな気持ちぃ?お前みたいなカスが夢を見て入れる場所じゃないんだよ。とっとと失せろよ。な?」
その場所の空気はとても重くなった。日ノ宮が何か注意しようと近づいて行くとまたその傲慢な態度の隊員は足を上げた。
「おい!そこの君!」
隊長がいざ止めに入ろうとすると、我慢ができなくなった光司がつかつかと歩み寄っていった。
「おい、そこの君。今なんて言った?」
「あ?あぁ、どうも、同じ資質を持っているなら話は別だね。僕は―」
「君の名前なんかどうでもいい。そんな名前が僕の頭の中に入るだけでも反吐が出る。それより今は詫びろ。全身全霊を込めてその人とそのほかにも頭を下げろ!」
それを素直に聞き入れるわけがなく、その男はそのまま男を蹴り飛ばした。光司が急いでスキャンをかけると今のであばら骨を骨折していた。
「なんでこの僕がこんな出来損ないに謝らないといけない?」
「もういいよ、お前。」
すると光司の周りをただ漂っていたナノマテリアルが形を成し始めた。先ほどの隊長と同じく鎧のような形を形成していき、色はガラスのような半透明から黄色と緑色を帯びていった。
「使用者の戦闘意思を確認。共鳴率88%。兵装展開。タケミカヅチ、戦闘準備完了。」
そんな声が頭の中でしても光司は真っ直ぐ進み続けた。腰の辺りに今度は刀のようなものが形成されると無心に抜刀する。
「ヒィィィ!なんだお前!ここここの僕が誰か分からないのか?!」
「だから君が誰だって良い。さっき、君はここにいる人たちにひどい言葉を投げかけた。それをただ突っ立って聞いているほど僕は良い奴じゃない!」
大きく刀を振り上げるとその大口をたたいていた隊員はうずくまった。
「うわぁぁ!」
「はい、そこまで。」
すぐさま日ノ宮が二人の間に自分の武器を展開しその刃を止めた。よく見るとうずくまった奴はズボンが濡れている。
「榊隊員、むやみに兵装の展開をするんじゃない。君は部隊の中で人を殺すためにそのタケミカヅチを受け取ったのか?」
その一言で我に返った光司は刀を下ろした。それと同時にタケミカヅチも先ほどと同じの形状に戻り、光司の周りをまた漂うようになった。
それを確認すると日ノ宮は縮み上がっていたもう一人にスキャンしながら声を掛ける。
「それと君、大富隊員。君は自分が起動と同期に成功していると思っているんだな?」
すると立ち上がったその大富と言う男は聞き返した。
「違うのか?AIも同期を開始したと言っていたし、この通りナノマテリアルも....って、あれ?」
気が付くと大富の体の近くを漂っていたナノマテリアルはカプセルへひとりでに戻っていた。
「ど....どういうことだ?」
「君は勘違いをしている。さっき榊隊員が斬りかかろうとした時、普通なら君が危険を感じた際に自動展開をして守ってくれるはずだったんだぞ。しかしどうだ?あの通り、カプセルへせっせと帰っている。それは同期に失敗した証だ。つまりさっき君がけなした人たちと同じ境遇ってわけなんだぞ。」
そう言われた大富はまた座り込んでしまった。子供のころから甘やかされ、すべて親のコネでやって来たおかげで実は素質も何もなかったのだ。入隊試験やそのための訓練もすべてワイロで済ませていた。
一方、光司は先ほどの感覚を思い出していた。なにも言っていないのに勝手にスーツが戦闘準備に入った。それはまるで一心同体とでも言える現象だった。
事が落ち着くと今度は起動に成功した者のみ次の部屋に通された。
(しかし、怒りで煮えたぎっていたとは言え、あれほどの気迫を見せるとは....)
しばらく一歩も動けなかった自分を思い出しながら、そんなことを考える日ノ宮だった。
次に日常でこのスーツを持ち歩く際、今の形状のままでは不便なので、どうすればいいのかを聞いた。
聞けば、ナノマテリアルはその密度を変えてある程度の大きさや形状の変化ができるという。その特性を利用してAUSF隊員は他の身近な物に姿を返させて携帯している。
「私の場合は指輪にしているぞ。ほら、綺麗だろう?」
見るとたしかに綺麗だった。これが兵器だと思わせないほどに。
「じゃあ君たちもやってみるといい。何でもいいから頭に思い浮かべてみな。」
すると光司は腕時計を思い浮かべた。ウィンドウに時刻機能はあるので必要ではないのだが、他に肌身離さず持ち歩けるものが思う浮かばなかった。
一方、タケルはベルトにしていた。いかにも特撮ヒーローがつけているようなやつだ。
「ちょうどいいや、俺ズボンのベルト持ってくるの忘れてたんだ!」
ちゃっかり利用していたらしい。
春香は二つ持っていることを利用してイヤリングにしていた。よく見ると片方ずつ色が違っていた。
次に説明されたのがスーツによる人格の発現。全員がどういうことかと顔を見合わせているとまたもや日ノ宮隊長がデモンストレーションをしてくれた。
「アマテラス、見せてあげな。」
それと同時に指輪が姿を変え始めた。ところが今回は鎧ではなく、別の何かに変形していた。
するとそこには一人の女性が立っていた。それはとても美しく、まさしく神々しいという表現がぴったりだった。
「よっ、諸君!」