旅の始まり
「現時点で、私の能力は、この頭脳とアーム一本を動かす力のみです。よって、携帯端末に私のデータを移行することにより、あなた様と同行致します。」
ウイーーン
コクピットから、少し厚めのスマホが出てきた。しかも、ネックストラップ付き。
「さあ、私を首にかけて下さい」
「スマホがしゃべった」
「携帯スーバーAIイザナミとお呼びください」
「……」
「あなた様とは、これから苦楽を共にする友となる訳でありますので、イザナミとお呼びいただいても結構ですよ」
背を伸ばして、コクヒットからイザナミを取り出す。ストラップを首にかけ銀色の端末を手に取る。ソーラーパネル付きで高性能なのが分かる。携帯ディスプレイには、女性の顔が映っている。
どこかで見た顔だと思ったら、僕の好きだったフードル嬢の顔だった。
「余り、激しくおさわりになるのはお止めください。私感じてしまいますので」
「……」
イザナミさん、実は壊れてる?
「何か、失礼なことを考えているようですが、私はより、人間的な進化をしただけにすぎませんよ。まあ、触られても感じることはありませんが」
「顔変えられませんか」
「お気に召さなかったですか、あなた様の好みにしたのですが」
ディスプレイの顔が変わった。今度は、有名AV嬢の顔に。
「からかってるんすか」
「お分かりになりましたか」
テヘッて、舌打ちしてやがる。かわいいじゃないか。ちくしょう。
「まっ、お遊びはこのぐらいにして、これからのことを考えましょう」
月桂冠をした巫女装束の女性に変わる。僕の中のイザナミさまのイメージだ。
「さて、このままでは生存確率10%なのは変わりません。衣食住の確保が必然です。幸いにも、メスイヌの足で3日の地点に多くの生体エネルギーを察知しました。移動致しますか? 」
「聞くってことは、なにか問題があるの」
「さすが、懸命でございます」
「……」
「問題は2つ。
そこに辿り着けるだけの体力があなた様にあるかということ。もうひとつは、生体エネルギーの主が協力的であるかどうかということです。ふたつの問題が解決出来ましたら、生存確率80%にはね上がります。」
「このまま、ここにとどまったら? 」
「生存確率が徐々に減っていくだけですね」
「選択肢ないじゃん」
「では、移動ということでよろしいでしょうか」
「ワンッ! 」
速く乗れよ~。と言わんばかりにシロが尻尾をパタパタしている。
「では、そこの鞄を首にお掛けください。数日分の水と食料が入っておりますので」
とりあえず、食料の確保は出来てたのか。鞄を首から下げシロに乗る。
「目指せ、生存確率80%」
「ワオーン! 」
雄叫びをあげると、シロは走り出した。