095 幼女は猫ちゃん達の救世主
死んだ魚の目をしたケット=シーの一匹が、ルピナスちゃんに近づく。
そして、ルピナスちゃんに捕まっているケット=シーに顔を向けた。
「リーダー。まさか、そのお人は?」
「違うわ。この子は要注意人物の仲間よ。要注意人物はあっち」
ルピナスちゃんに捕まっているケット=シーが、私を睨む。
このケット=シーちゃんが、リーダーなんだ。
「あの、もしかして、その子を助けに来たんですか?」
死んだ魚の目をしたケット=シーが、その子と言った時に、リリィを見て言葉を続けた。
「え? うん。そうだよ」
私が返事を返すと、ケット=シーの目から、次第に光がとり戻される。
そして、うるうると目を潤ませて、万歳をしだした。
「やったー! 助けが来たよ皆! 私達は解放されるんだ!」
そう歓声を上げると、他のケット=シー達がいっせいに私を見た。
え?
もの凄く嬉しそうな顔で、皆が私を見てる!?
と言うか、助けが来たって、どちらかと言うとリリィが言うべきセリフだよ?
「やったー!」
「希望を捨てなくて良かったー!」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
ケット=シー達が思い思いに歓声を上げていく。
ねえ? リリィ。
ケット=シーちゃん達に、本当に何をさせてたの?
喜び方が尋常じゃないよ?
なんで私、捕まったリリィじゃなくて、リリィを捕まえたケット=シーちゃん達に感謝されちゃってるの?
私が困惑をしていると、リーダーのケット=シーが、わなわなと震えだした。
「お前達! 情けない事を言うんじゃないよ! 私達はベルゼビュート様とボスから、ここを任されているのよ!」
ベルゼビュート様とボス?
ボスって誰だろう?
ちょっと気になるかも。
「だって、もうこれ以上、我が儘につきあわされるのは限界ですよ」
「そうですよ!」
「それに、リーダーだって、捕まってるじゃないですか」
「そうだそうだ! 自分だけ、この子から解放されるなんてズルい!」
な、なんだか、リリィのせいで大変な事になってるよ。
本当にリリィがごめんなさいだよ。
あ。そうだ。
良い事思いついた!
私はケット=シーちゃん達に、笑顔で話しかける。
「ねえねえ。ケット=シーちゃん。リリィや村の皆を、元に戻してほしいの。戻してくれたら、もう辛い思いしなくて良いんだよ?」
私がそう言うと、ケット=シーちゃん達は希望に満ちたような目をした。
だけど、それは一瞬だけで、すぐにシュンとなってしまった。
「残念ながら、私達ではそれが出来ません。猫の姿から人の姿に戻せるのは、ボスしか出来ないんです」
「ボス?」
ボスってさっきも聞いたけど、リーダーとボスは違うケット=シーちゃんって事なんだね。
「はい。ベルゼビュート様に仕えるケット=シーの中で、唯一の黒猫がボスです」
黒猫のケット=シーちゃん!?
そのケット=シーちゃんって、私が猫ちゃんにされた時に、私に話しかけてきた子だ。
あの子が、ケット=シーちゃん達のボスだったんだ。
「そのボスのケット=シーは、何処にいるなのよ?」
スミレちゃんが訊ねると、リーダーのケット=シーちゃんがスミレちゃんを睨みつける。
「教えるわけないでしょう?」
「ラークとか名乗っていた、フェニックスの家です」
「おいお前! 反逆だぞ!?」
リーダーのケット=シーちゃんが、今度は居場所を教えてくれたケット=シーちゃんを睨む。
するとそこで、居場所を聞いたたっくんが、頭を前足で抱える。
「何だって!? ラークの家? じゃあ、やっぱり俺の正体が、まだばれてないって事じゃないか!」
その言葉を聞いたリーダーのケット=シーちゃんが、驚いた顔をしてたっくんを見た。
「俺の正体!? まさか、じゃあお前がフェニックスだったの!?」
たっくんはその言葉を無視して、リリィの方を向いた。
「リリィ。ラークはどうなったんだ? わかるか?」
「え? あんたタイムだったの? 随分と可愛らしい姿になったじゃない。ジャスミンにしてもらったの?」
「うん。可愛いでしょー?」
「ええ。流石ジャスミンだわ。あのムカつく顔が、まさかこんなにも可愛くなるなんて、奇跡よ」
たっくんはリリィの言葉に、何か言いたげな顔をしてため息を一つする。
「そんな事より、今はラークがどうなったか知りたい。教えてくれ」
「ラークなら、オぺ子ちゃんと一緒にラークの家で捕まってるわよ。私だけこっちに連れてこられたから、知っているのはそれだけよ」
「オぺ子ちゃんが捕まったぁあっ!?」
たっくんが大声で叫ぶ。
「煩いッスね。僕っ子が馬鹿と一緒に捕まった事は、既にボクが説明したッスよ」
「え? 僕っ子? あ。そうか! くそ! 何やってんだ俺は!? オぺ子ちゃんは、確かに自分の事を『僕』と呼んでいたのに!」
たっくんはそう言うと、部屋のドアまで駆け出した。
「ジャスミン悪い! 俺は先に行く! まだ俺の正体がばれていないなら、何とか出来るかもしれないからな!」
「え!? たっくん!? 待――」
私が止める間もなく、たっくんはドアを蹴り開けて、猛スピードで部屋を出て行ってしまった。
「たっくん行っちゃったね。ジャスミンお姉ちゃん」
「う、うん」
私が立ち尽くしていると、スミレちゃんがケット=シーの前に立つ。
「何でリリィだけ、ここに閉じ込めていたなのよ?」
「それは……」
スミレちゃんが質問すると、何故かケット=シー達が黙った。
しかしそんな中、リーダーのケット=シーが口を開いた。
「万が一の為の人質よ」
人質?
と言うか、それよりも。
「喋っても良かったの?」
私が訊ねると、リーダーのケット=シーはため息を一つして、私と目を合わせた。
「こうなってしまっては、こっちの計画は全部失敗だもの。答えてあげるわよ」
「そっか。ありがとー」
笑顔で私が感謝を伝えると、リーダーのケット=シーがまた一つため息をした。
「私達の計画の中で、今一番の障害になるのがあなたよ。だからあなたの情報を聞きだした時に、何かあった時の為の保険として、その子をここで閉じ込めておいたのよ」
なるほど。
納得だよ。
でも、私が一番の障害って、それは間違ってると思うなぁ。
買いかぶり過ぎだもん。
それに、私思うんだ。
私なんかより、捕まえちゃったリリィの方が、よっぽど要注意人物だよ。
だってそうでしょう?
現にリリィを捕まえたせいで、ケット=シーちゃん達が酷い目に合ったんだもん。
「ご主人。そろそろ、フェニックスを追いかけた方が良くないッスか?」
「うん。そうだね」
私がトンちゃんに返事をすると、ルピナスちゃんがリーダーのケット=シーを地面におろして、今度はスミレちゃんを抱っこした。
私はそれを見て、同じようにリリィを抱っこする。
「ジャスミンに抱っこされる時が来るなんて! 私、猫のままでも良い気がしてきたわ!」
「わかるなのよ。私も、幼女先輩に飼われる人生も、悪くないと思ったなのよ」
「それも良いわねえ」
こらこら。
何言ってるの2人とも。
ちゃんと、元に戻らなきゃダメなんだからね!
私はルピナスちゃんと目を合わせる。
「たっくんを追いかけよう」
「うん」
私はケット=シー達に笑顔で見送られて、ルピナスちゃんと部屋を飛び出した。




