009 幼女はパンツを手に入れる
リリィのお家に着いて、私は両手を地面につけて落ち込む事になってしまった。
「何でリリィのお家も誰もいないのー?」
「ご、ごめんねジャスミン」
「ううん。いいの。仕方がないもんね」
「ジャスミン……。あっ! そうだわ!」
リリィが何か思いついたようだ。
って、リリィ?
何で急にパンツを脱ぎ出すの?
「これを使って!? ジャスミン」
「え?ええと……。そんな事したら、リリィが穿くパンツが無くなっちゃうよ?」
「ジャスミンは優しいね。私の事は良いのよ。気にしないで」
「気にしないでって言われても……」
何だか悟りを開いたような表情で、まだ脱いだばかりで生暖かいパンツを渡されてしまう。
「それにね、私の穿いていたパンツをジャスミンが穿いてくれるなら、それはもうご褒美じゃない?」
リリィ?
その業界用語いったいどこで覚えたの?
それ完全に、私の前世の世界の、紳士の皆様の業界用語だよ?
って言うか、リリィ本当に私と同じ9歳なの?
「遠慮しないでいいのよ」
「……う、うん。ありがとう」
色々と抵抗はあったものの、結局私はノーパンでいられるほど羞恥に耐えられそうになく、リリィが脱いだパンツを穿く事にした。
背に腹は代えられないし、仕方がないのだ。
パンツを穿き終わると、私とリリィはいよいよ本題へと入る。
「ジャスミン。パンツをどうやって脱がされたのかわからないの?」
「うん。不思議なんだけど、気が付いたら脱がされてたみたいなの。オークに触れたのはぶつかった時だけなのに」
本当に不思議な出来事だよね?
考え事してたらぶつかっちゃって尻餅ついて、差し伸べてくれた手にも触れてもいないし、そんな脱がされるような場面なかったんだけどなぁ。
「……そう。ところで、さっきから気になっていたのだけど、そのオークって何なの?」
「え?」
リリィに言われて、そこで初めて私は気が付いた。
ここが前世にいた世界とは違う異世界だったのもあって、オークという存在に違和感を感じてはいなかったのだ。
だけど、実はこの世界でオークなんて、今まで聞いた事も無い生物だった。
すっかりその事を忘れていた私は、急に怖くなって青ざめる。
「私思うのだけれど、もしかして魔族なんじゃないかしら?」
「魔族?」
前世ではなく、ジャスミンとしての私は、魔族というものをパパとママから聞いた事があった。
魔族は昔この世界にいた種族で、人を殺して暴れていたらしいんだけど、英雄と呼ばれる人に倒されたらしい。
それで、今の平和な世の中になったんだとか。
でも、その昔倒された魔族が何故今更?
そもそも何でパンツなんか盗むの?
私が見たオークは、本当はオークとは違っていて、ただの変質者だったのかな?
でも、あの見た目はオークそのものだったし、何より私がオークって言った時凄く動揺していた。
「そうだわ! 復活した魔族の力が弱くなっていたのよ! それで、女の子のパンツを、力を取り戻す為に盗んでいるんだわ!」
「え? 仮にそうだとして、何でパンツを盗むと力が取り戻せるの!?」
なんかそれ、違う意味で怖いよ?
理由はどうあれ、もし本当に魔族が復活していて私が見たオークが魔族なのだとしたら、これはもう子供である私達がどうこう出来る問題じゃない。
魔族は人を殺す怖い種族なんだから、凄く危険なんだ。
早く大人達に知らせないと!
と、私は思ったのだけど、リリィの考えは違っていたらしい。
「私達で懲らしめましょう!?」
「ええーっ!? リリィ本当にどうしちゃったの? いつもは、そんなに好戦的じゃなかったじゃない」
「ジャスミンの言っている事ももっともだわ。でもね、こればかりは引けないのよ」
「どうして?」
聞き返したその時、私は気が付いた。
そうか。
リリィはとっても優しくて思いやりのある人だから、きっと正義感も強くて放っておけないんだ。
それに、もし本当に私が見たオークが魔族なら、その内誰かが殺されてしまうかもしれない。
きっとそれが、リリィには許せないんだ。
「ジャスミンのパンツを奪い返して、私がそれを穿くためよ!」
うん。
知ってた。
無理矢理良い方に考えようと頑張ったのよ? 私。
でも、そうだよね。
だって、カミングアウトしてからのリリィって、本当に9歳?
って思っちゃう位に、何だか頭おかしいんだもん。
前世の記憶が甦った私より、よっぽど変態さんだもんね。
「ねえ。やめようよリリィ。絶対危ないよ!」
「大丈夫よジャスミン。私に良い考えがあるの!」
「良い考え?」
「うふふ」
え?
何か怖いよリリィ。
その笑顔やめて?