087 幼女は再び決意を表明する
「死んじゃったんだ。……そのエルフ族の長の息子さん」
私は空気が重くなるのを感じていた。
それもそうだろう。
たっくんの能力で、実際に死んでしまった日との話を聞いてしまったのだ。
ルピナスちゃんも目をうるうるとさせて、悲しい顔をしていた。
「そうだ。エルフ族の長の息子は不死になれなかった事で怒り狂い、ひきこもりになってしまったんだ。しかも内弁慶に! もう、あの頃のアイツはいないんだ!」
って、そっちの死んだなの!?
生死が係わってる方の死んだじゃなくて、精神論的なそう言うアレだよね?
バカなの!?
って、さっきまでお目目うるうるのルピナスちゃんが、爆笑してるにゃ!
「あの……。結局それでどうなったの?」
「エルフには、転生者の持つ能力を封印する術があってな。息子をひきこもりにされて、怒ったエルフの長に、俺の能力が封印されてしまったんだよ」
「エルフって、そんな事が出来るんにゃ?」
「そうだな。しかも、それ自体は転生者としての能力とかではないみたいだし、エルフ族に伝わる秘術みたいなものなのかもな」
「そっかぁ」
「だから不老不死の能力を使う為には、エルフを説得して、能力の封印を解いてもらうしかない」
「そんな事出来るにゃ?」
「ああ。まあ、エルフ族は元々が人間嫌いなんだ。たぶん説得は不可能だ。そう言うわけだから、不老不死には出来ない」
「良かったね。ジャスミンお姉ちゃん」
「え?」
「エルフさんにお願いしたら、ジャスミンお姉ちゃんのお願いが叶うよ」
「で、でも、人間嫌いって」
「ジャスミンお姉ちゃんだったら、大丈夫だよ」
ルピナスちゃんが、はなまる満点ニコニコ笑顔で私を見つめた。
可愛い!
もの凄く可愛いよルピナスちゃん!
よーし!
なんだか私、やれる気がしてきたにゃ!
「私、エルフ族を説得して、絶対に不老不死になるにゃ!」
「うん!」
私が力強く「にゃー!」と両手を上げると、ルピナスちゃんが私を抱き上げてギュっとする。
幸せだにゃぁ。
その様子を見ていたたっくんが、小さく笑った。
「それじゃあ、まずはこの猫の姿をどうにかしないとだな」
「あ。そうだよね」
そもそも、ここに来たのはそっちが元々の目的だったっけ?
「この猫化の能力の厄介な所は、一度なってしまうと、ケット=シーにしか元の姿に戻せないって所だ」
「うん。私もケット=シーから、そう聞いたよ」
「だけど、他に方法が一つだけある」
「うそ? そんな方法があるの!?」
たっくんが目を細めてニヤリと笑う。
「それは、この地の近くに住む、大地の精霊と契約を結ぶ事だ」
大地の精霊?
この村の近くにも精霊さんがいたんだね。
「精霊さんにお願いしたら、猫ちゃんじゃなくなるの?」
ルピナスちゃんが私をギュッとしながらたっくんに訊ねると、たっくんは首を横に振った。
「猫の姿から元の姿に戻れるのは、契約を結んだ者だけだよ」
「なら、たっくんも契約を結んでもらえるように、精霊さんに頼まないとだにゃ」
「俺は出来ない」
「え? なんでにゃ?」
「この地にいる大地の精霊は1人しかいないし、魔族は既に悪魔に魂を売っているからね。精霊とは契約が出来ないんだよ」
え?
魔族ってそうなの?
なんか、ついでに魔族の情報まで入ってきちゃったにゃ。
と言うか、私は今まで魔族と悪魔って同じ存在だと思っていたけど、別物だったって事だよね。
「それじゃ、早速大地の精霊に会いに行ってみるか」
「あれ? 精霊さんって、普通は居場所がわからないんじゃ?」
「普通はな。でも、ここの精霊は別なんだよ」
「そうなんだ?」
「ああ。まあ、会ってみたらわかる」
そう言って、たっくんは失笑する。
その反応を見た私とルピナスちゃんは、目を合わせて2人で首を傾げた。




