085 幼女は心強い幼女と仲良しです
黒猫ちゃんには悪いけど、今は私のお友達、リリィ達の方が大事だもんにゃ。
今はリリィ達の心配をしよう。
黒猫ちゃんが妖美に微笑んで私を見つめる中、私はラークの家で起きた事を思い出す。
リリィには触られていないから、とりあえずそれは良かったけど……。
「私に触ったのって、ラークだけだったにゃ?」
「え?」
「ラークかぁ。むしろ猫になってしまえばいいのに」
私の反応が予想外だったようで、黒猫ちゃんから余裕が無くなってしまった。
どうやら、私の予想通り、可哀想な雰囲気になってしまったようだ。
「でも、リリィが私に触らなかったのはラークのおかげだし、今回は感謝してあげようかにゃ」
「そ、そんな。ううん。でも、一番厄介な子が猫になったんだもの。計画に支障は出ないはずよね?」
「計画? 何をするつもりなの?」
私が訝しんで訊ねると、黒猫ちゃんはその問いに答える事なく走り出す。
あ!
逃げたにゃ!
追いかけた方がいいよね!?
私は瞬時にそう判断して、逃げる黒猫ちゃんを追いかける。
さっきシロちゃんと追いかけっこして、正解だったにゃ!
追いかけっこしたおかげで、こんなにも速く走れるもん!
今、私は体の作りが変わった事で、人とは違った動きを求められる状況にある。
しかし、シロちゃんと追いかけっこをした事で、元々猫だったかのように、私は今の体を自由に動かす事が可能となっていたのだ。
走る速度を上げて黒猫ちゃんを追いかける。
だけど、黒猫ちゃんの方が一枚上手だった。
あっちやこっちやと、猫だからこそわかる抜け道を使って、黒猫ちゃんが逃げていく。
そして、必死に追いかけるも、私は黒猫ちゃんを見失ってしまったのだ。
逃げられちゃったにゃ。
たぶん、あの黒猫ちゃんって魔族の関係者、ううん。
ケット=シーだよね?
私は考えながらトコトコと歩き出す。
私を猫にしたケット=シーは、フライさんが飼っていたんだよね?
フライさんは、最近リリィのご近所さんになった人だって言ってたにゃ。
よし。
リリィのお家の近くを調べよう。
私はリリィのお家を目指して歩き出す。
しかし、私はリリィのお家の近くまで来て、思いとどまった。
何故かと言うと、気がついてしまったからだ。
こんな子猫な状態でケット=シーを見つけても、どうする事も出来ないんじゃ?
でも、だからってこのまま他に出来る事なんてないし。
うぅ。
どうすればいいか、わかんないにゃ。
私は歩みを止めたまま、八方塞がりになり、延々とどうしようかと考え続ける。
すると、暫らく悩んでいたら「ワン」と、犬の鳴き声が聞こえた。
その鳴き声に振り向くと、シロちゃんがこっちに向かって走って来ていた。
「シロちゃん? あ!」
私はシロちゃんの後ろを走って、私に近づく人物を見て驚いた。
「ジャスミンお姉ちゃーん!」
「ルピナスちゃん! なんでルピナスちゃんが!?」
「シロちゃんに、ジャスミンお姉ちゃんの事を聞いたんだよ」
私の許まで来たルピナスちゃんが、しゃがんでニコニコと答えながら、シロちゃんをいい子いい子する。
「そうだったんだ」
「ジャスミンお姉ちゃん。子猫になっても可愛いね」
おまかわだよルピナスちゃん!
って、あれ?
「ねえ。ルピナスちゃん? 私の言葉がわかるの?」
「うん。私ね、獣人だから猫ちゃんの言葉がわかるんだよ」
そう言って、ルピナスちゃんが私を撫でる。
「あ。ダメだよ。ルピナスちゃん。私に触ったら、ルピナスちゃんまで猫ちゃんになっちゃうにゃ!」
「そうなの?」
「うん。ケット=シーが、触った人間は猫になっちゃうって……」
「ワンワン。ワン」
「大丈夫みたいだよ」
「え?」
「シロちゃんがね。お散歩してる時にケット=シーさんとお話をして、獣人とか魔族とかには効かないから、そこまで万能じゃないんだよって聞いたみたい」
「へ、へぇ。そうなんだ」
お散歩してる時って、ラークがお散歩でフライさんに会ってる時だよね?
シロちゃんに喋っても、シロちゃんが人に喋れないからって、色々暴露しすぎでしょケット=シー。
でも、私に色々教えてくれた事を考えると、ケット=シーって結構お喋りが好きなのかも?
って、あれ?
ケット=シーもシロちゃんとお話が出来るにゃ?
ちょっとだけ羨ましいかも。
「ジャスミンお姉ちゃん。たっくんってフェニックスさんだったんだよね?」
「え? うん。そうだよ」
「じゃあ、たっくんに、元に戻る方法を知ってるか聞いてみようよ。同じ魔族なら、知ってるかもしれないよ」
「そっか! そうだよね! ルピナスちゃんかしこい!」
「えへへ」
てれてる顔も可愛いよ! ルピナスちゃん。
よーし!
そうと決まれば善は急げだよ!
「ジャスミンお姉ちゃん。ここに乗っててね」
そう言って、ルピナスちゃんが私を頭の上に乗せた。
「ルピナスちゃん!?」
私が驚くのも束の間、ルピナスちゃんはシロちゃんを抱っこして走り出した。
しかも、その走る速さがもの凄く速い。
「私ね、獣人だから、かけっこ得意なの」
「凄い。凄いにゃルピナスちゃん!」
ルピナスちゃんが、こんなにも足が速かっただなんて知らなかったにゃ。
そうして、あっという間にたっくんのお家まで到着すると、私は不穏な空気を感じる事となった。
何故なら、玄関のドアは開かれたままで、玄関の窓ガラスが割れて散らばっていたからだ。
私はその惨状を見て、ごくりと唾を飲み込んだ。




