083 幼女もたまには小さくなる
ラークのお家に行く事になり、不老不死の話は一旦保留となってしまった。
よっぽど不老不死の能力について話を聞かれたくないのか、たっくんは用事があるからと言ってついて来なかった。
「あら?」
ラークのお家に向かう途中、リリィが男の人を見て駆け寄った。
そして、何やら楽しそうに話し出す。
男の人?
あの人、誰だろう?
リリィから男の人に近づくなんて珍しい。
あっ。
まさか!
リリィがついにノンケに!?
などと、私がバカな事を考えていると、リリィが私に振り返って手を振った。
「ジャスミン。こっちに来て」
え?
なんだろう?
私はリリィに呼ばれて近づくと、私は男の人の足元を見て驚いた。
なんと、男の人の足元には、たくさんの猫ちゃんたちがニャーニャーと集まっていたのだ。
「可愛いー」
「ジャスミン。この人は、最近私の家の近くに引っ越して来たフライさんよ」
リリィに言われて、フライさんを見る。
フライさんは、とても優しそうな見た目の男の人だった。
フライさんは私と目が合うと、私に柔らかく微笑む。
「リリィちゃんのお友達かい? 初めまして。先日この村に引っ越して来た、フライっていうんだ。この猫たちは、僕のペットでね。こうして一緒に散歩していたんだよ」
「はじめまして。私はジャスミンだよ。フライさん、猫ちゃんさわっても良い?」
「ああ。もちろんだとも」
やったー!
可愛いー!
おりゃー!
私は嬉々として、猫ちゃんをなでなでしだす。
すると、そこへラークとオぺ子ちゃんがやって来た。
「フライじゃんか! 今日も猫の散歩か!?」
「やあ。ラークじゃないか。ラークはシロの散歩は、今日はいいのかい?」
「今日は忙しいから、シロの散歩ならもう行ったよ! ほら、お前等! さっさと行くぞ!」
「はーい」
私は名残惜しみながら、猫ちゃんたちにバイバイする。
「アンタもフライさんを知っていたのね」
「はあ? 当たり前だろ! 俺ん家には、村長の爺ちゃんがいるんだぞ! アイツが挨拶に来た時から知ってるよ!」
「それに、ラークがシロの散歩に行く時にも会うんだよね?」
「そうだ! さすがオぺ子だ! リリオペから聞いたんだな!?」
「え!? あ。うん。そうそう。聞いたんだった」
オぺ子ちゃん。
今、自分がリリオペじゃなくて、オぺ子ちゃんになってる事を忘れてたでしょ?
それから、私達がお喋りしながらラークのお家に向かっていると、トンちゃんが私の肩の上に乗って耳打ちをする。
「ご主人。さっきの男。気をつけておいた方が、いいかもッスよ」
「え? どうして?」
「女の勘ッス」
「女の勘って……」
もしかして、変態さんなの?
いやいや。
何失礼な事を考えているの私。
最近、会う人のほとんどが変態ばかりで、思考がそっちにいきすぎだよね。
でも、気をつけるって言ってもなぁ。
何に気をつければいいんだろう?
そうして、トンちゃんの言葉に悩んでいると、いつの間にかラークのお家に到着していた。
ラークはお家に到着すると、勢いよくドアを開け、もの凄い音が鳴り響く。
私はそれを目のあたりにして、びくりと驚いた。
それで、さっきまで考え事をしていた事を、すっかり忘れてしまった。
「あがれあがれ!」
びっくりしたなぁ。もう。
それにしても、ラークの家って、もの凄く大きいんだね。
家の端から端が見えないよ。
「おい! 何ぼさっとしてるんだよ!」
「あ。うん」
シロちゃんに早く会いたいなぁ。
私がウキウキしながらラークの家へと足を踏み入れると、物陰から豆柴が飛び出した。
「お! シロか! 出迎えご苦労! さあ来い!」
ラークが両手を広げる。
やーん可愛い!
シロちゃんって豆柴だったんだ。
ギュっとしたい!
私がシロちゃんを見てときめいていると、両手を広げたラークではなく、シロちゃんが私の胸に飛び込んできた。
きゃー!
凄く可愛いんですけどー!
私はもちろんギュッと受け止めて、抱きしめる。
すると、シロちゃんが私の頬をペロペロと舐めだす。
「シロちゃん。くすぐったいよぉ」
「何でお前に飛び込んでんだよ! おいシロ! 俺はこっちだ!」
「ラ、ラーク。落ち着いて?」
「たしかに賢い犬ね。オぺ子ちゃんの言った通りだわ」
「ボクなら、ハニーのおっぱいに飛び込むッスね」
「もういい! 行くぞ!」
ラークが怒って、足音をわざと大きく響かせて歩き出す。
「ま、待ってよラーク」
「ほんと子供ねアイツ」
「9歳は子供ッスよハニー」
3人がラークに続いて行くので、私もその後ろをシロちゃんを抱きながら歩き出した。
ラークがたっくんのお家に来た時は、本当に最悪だって思ったけど、結果オーライだよ。
シロちゃん可愛いし、もう幸せすぎて、逆にラークに感謝しちゃう。
そんな幸せな気持ちでいっぱいの私に、突然異変が起きる。
あれ?
私は目の前が突然クルクルと周りだし、力が入らなくなる。
そしてシロちゃんを抱いていられなくなり、シロちゃんを離すと、その場で倒れてしまった。
次第に意識が遠のいていくのを感じ、私は目の前を歩くリリィの後ろ姿を見て手を伸ばす。
体が痛い。
リリィ……助けて。
そうして、私は意識を失った。
◇
目を覚ますと、私はモフモフした何かに包まれていた。
なんだろう?
凄いモフモフしてる。
わ。
地面もフカフカだ。
それから、私は周囲を確認する。
どこだろう?
凄く広いお部屋?
と言うか、え?
本当にどこなのここ?
そこは、まるで巨人が住んでいるのではないかと思わせるような、家具の数々が置いてあった。
椅子も机もタンスも本棚も、何もかもが大きい。
あれ?
その時、私は気がついた。
う、嘘でしょ?
そう。
そこは巨人が住んでいるわけでも、家具が大きいわけでもない事に。
そして、私は自分のおかれた状況を確信して叫んだ。
「にゃあああぁぁあっ!?」
と。
私は猫ちゃんになっていました。
ちなみに、三毛猫ちゃんです。




