082 幼女の目の前で繰り広げられるバカ
ラークの口から出たその阿保臭い言葉に呆れて、私はたっくんに向き直る。
朝起きたら、枕元に糞があったとか、正直つきあっていられない。
「ぷぷーっ! それ、あんたが寝てる間に、漏らしたんじゃないッスか?」
トンちゃんが笑いながらラークに指をさす。
「こら。トンちゃん。バカが移っちゃうから、話しかけちゃダメだよ」
「はいッス。ご主人~」
「おっま! ふざけんな! 誰が漏らすか! それに、バカって言った方が馬鹿なんだぞ! バーカバーカ!」
ラークは本当にバカだなぁ。
「ね、ねえラーク。昨日の夜、眠る時は何も無かったんだよね?」
あ。
オぺ子ちゃん優しい。
ラークのバカ話を聞いてあげるなんて、もはや天使だよ。
「あ? どこのどいつか知らないが、お前見どころのある女だな! その通りだ! 寝る時は何も無かったんだよ!」
オぺ子ちゃんが女と言われて、少し頬を緩める。
オぺ子ちゃん、可愛い。
良かったね。
「じゃあ、シロは? シロは部屋にいなかったの?」
「いねーよ! アイツは爺ちゃんといつも寝るんだ!」
「シロ? ラークって、ペットを飼っていたの?」
私がシロという言葉に反応し、そう訊ねると、代わりにオぺ子ちゃんが答える。
「うん。お利口で、あまり吠えない室内犬だから、皆は知らないかもだけど」
「そうなんだー」
室内犬のシロちゃんかぁ。
見てみたいかもー。
「おいお前! 何で、お前がシロの事知ってんだよ!? ……まさか!?」
あ。
やばい!?
さすがにラークも気がついちゃった!?
「俺に惚れてんのか!?」
あ。
うん。
そう言えばバカだった。
私も言われたなぁ。
しかも、好きでもないのにフラれたよね。
思い出したら、ムカついてきたよ。
「え!? いや。それは、えと、その、あの……」
オぺ子ちゃんが顔を真っ赤にして、目をグルグルとまわして混乱する。
そうだ!
今回は的を得てるんだ!
これは助け舟を送らないと!
などと考えていると、たっくんが立ち上がって、オぺ子ちゃんとラークの間に入った。
「この子は、リリオペの双子の妹だ。犬の事は、リリオペから聞いたんだろう?」
「え? あ。はい。たぶんそんな感じです」
オぺ子ちゃん、たぶんそんな感じって……。
もう少し頑張って!
言葉が危ういよ!
「まさか、リリオペの双子の妹のオぺ子ちゃんの事を、ラークが知らなかったなんてね」
たっくん……。
もの凄く勝ち誇った顔してる。
ラークにライバル意識出ちゃった顔だ。
大人げないなぁ。
「はあ? オぺ子ちゃん!?」
ラークが、たっくんの背後に隠れるオぺ子ちゃんの顔を覗き込む。
や、ヤバいんじゃないこれ?
ヤバいよねこれ!?
さすがにバカなラークでも、これは絶対わかっちゃうよ!
「たしかに似てる! なんだよ! リリオペに妹がいたのか!?」
あ。
うん。
本当にバカだなぁ。
ラークって。
私、ちょっとだけラークの事好きになったよ。
バカすぎて。
私がそんな事を考えている横で、リリィは可哀想な者を見る目でラークを見て、トンちゃんは必死に笑いを堪えていた。
「あ。そうだ! だったら、リリオペが何処にいるか知らないか!? アイツん家行ったけど、いなかったんだよなー!」
「へ? えーと、し、知らないなぁ」
「しっかりしろよ! 妹だろ!?」
「ちょっと待ってくれ。ラーク、君は知らないかもしれないけど」
たっくんはそう言うと、ラークにオぺ子ちゃん設定を教えていった。
私はそれを、そう言えばそんな設定だったっけ? なんて思いながら聞く。
リリィも私の横で「私、すっかり忘れていたわ」なんて、小声で呟いていた。
そうして、オぺ子ちゃん設定を話し終わると、ラークが号泣してオぺ子ちゃんの肩を掴んだ。
「お前、大変なんだなあ! 強く生きろよ!」
え?
あのラークが泣いてる!
取って付けたような、あの設定に泣いて同情してるよ!?
「う、うん。ありがとう」
その時、トンちゃんが私の耳元で声を潜めて喋る。
「ご主人。僕っ子が僕っ子の居場所を知らない理由にならないって、つっこんじゃ駄目ッスか?」
「うん」
トンちゃん。
話がめんどくさくなるから、それはいらないツッコミだよ。
「ラーク。そう言うわけだから」
「わかってるよ! 俺も漢だ! この事は口にしねえ! リリオペも、困るだろうしな!」
「ふ。ラーク。お前も、いつの間にか漢の顔になったな」
「気付くのがおせーよ!」
ガシッと、たっくんとラークが拳を合わせた。
そして2人は、熱く友情を深めたのだった。
うーん。
何これ?




