081 幼女に睨まれたヘタレ
「駄目だ。ジャスミンを不老不死にはしない」
たっくんのお家に到着すると、オぺ子ちゃんを見て上機嫌になったたっくんに、私達は家の中に招き入れられた。
間違いなく、たっくんは機嫌が良くなったはずだった。
だけど、私が不老不死にしてほしいと頼んだ結果、たっくんの口から出た返答はこれだった。
そして、いつになく真剣な眼差しで、真っ直ぐ私の目を見て話す。
「ジャスミン。不老不死になるという事が、どういう事なのか君はわかっていない。不老不死とは一種の呪いなんだ」
呪い……。
「いつか絶対に後悔する。俺は、ジャスミンにそんな辛い気持ちに……、悲しい思いをさせたくないんだ」
「たっくん……」
たしかにそうかもしれないと、私は思った。
延々と生き続けるという事は、孤独になるという事だ。
大好きな人も嫌いな人さえも、皆がいつの間にか老いて亡くなっていく。
その中で一人取り残されるのは、きっと私には到底想像も出来ない程に、辛く悲しい事なのだろう。
たっくんは、私の事を心配してくれているんだ。
ごめんねたっくん。
そうだよね。
私、そう言う事とか、全然考えてなかったよ。
バカだなぁ私。
私が自分の考えを改め直していると、リリィがジト目でたっくんを見た。
「アンタ。そんな事言っておいて、どうせ何か理由があって、本当は今それが出来ないだけなんじゃないの?」
「リ、リリィ。たっくんは私の事を思って――」
「ははは。リリィ、何を言ってるんだ? ソンナ事ハ無イゾ?」
ん? あれ?
たっくん?
なんで急に目が泳ぎだしたの?
それに最後の方、ちょっと片言だったよ?
「ぜってーコイツ嘘ついてるッス。凄く怪しいッスよ」
「ははは。おいおい。風の精霊まで俺を疑うのか? 困ったなー」
「タイムさん。嘘ついてるんですか?」
「ぐふぉぅっ! オぺ子ちゃん。そんな目で、俺を見ないでくれ!」
あ。
うん。
これあれだ。
絶対嘘ついてる。
うんうん。
少しでも、私の事を心配してくれたんだ。なんて考えた私が、本当にバカだったパターンだよ。
私とリリィとオぺ子ちゃんとトンちゃんの4人で、たっくんをじぃーっと疑いの眼差しで見つめる。
すると、たっくんは4人の女の子に見つめられて、汗を滝のように流し出した。
まるで、蛇に睨まれた蛙だ。
わあ。
すごーい。
人って、そんなに汗が吹き出るものなんだね。
と、その時、家の外から大声が聞こえてきた。
「ジャスミンここかー!? ここにいるのかー!?」
え?
私を呼んでる?
でも、この声って……。
私は聞き覚えのある声に悪寒が走り、背筋が寒くなった。
「おい! 入るぞ!」
声の主は返事も聞かずに、勝手にたっくんの家へと上がりこむ。
そして、ドカドカと大きな足音をたてて、部屋のドアをノックもせずに開けて入って来た。
「ラーク!?」
オぺ子ちゃんが驚いて、その声の主の名前を呼んだ。
私はもちろん、リリィとトンちゃんまでもが、この無法者を凄く嫌そうな顔で見る。
バカバカと心の中で言ってたら、本当のバカが来ちゃったよ。
「やっぱりここにいたか! ん? 見慣れない奴がいるな!? まあ、そんな事はどうでも良い!」
あ。
どうでも良いとか言うから、オぺ子ちゃんが少しシュンってなったよ。
ホント失礼な奴だよ!
「おい! ジャスミンお前、風の精霊と契約したんだろ!? いつもお前の周りを飛び回ってる、ハエみたいなやつ!」
おいこら。
トンちゃんみたいな可愛い子を捕まえて、ハエとは何だハエとは。
ほら見てよ。
トンちゃんが怒りたいけど関わりたくないから、必死で怒りを抑えてるよ。
「よく来たなー。ラーク。何かあったのか?」
あ。
たっくん最低。
九死に一生を得たみたいな顔してる。
何かあったのか? じゃないよ。
「そうなんだよ! 大変なんだよ! 風の精霊の力でどうにかしてくれよ!?」
うふふ。
まだ何があったのか全くわからないけど、とっても嫌。
私はラークを無視して、たっくんに向き直る。
「それでたっくん。さっきの話なんだけど」
「え? いや。だから」
「おい! 俺を無視すんじゃねーよ!」
「アンタさっきから煩いのよ馬鹿ラーク! ジャスミンは今忙しいのよ!」
「はあ!? 煩いのはお前だろリリィ!? お前なんか、お呼びじゃねーんだよ! あっち行けよブース! 俺はあっちのブスに用があるんだよ!」
「あ゛あんっ! アンタ今、ジャスミンに何て言った!? ぶっ殺すわよ!」
わぁ。
凄い声だねリリィ。
とってもドスが利いているよ?
とても9歳とは思えない素敵な声ね。
私の背後で、リリィとバカが喧嘩を始める。
そんな中、私は冷静に考える。
そして、私はその考えを確認する為に、オぺ子ちゃんに耳打ちをする。
「ねえ。なんだか、ラークがイライラしてる感じに見えるんだけど?」
「うん。そうだね。本当に何かあったのかもしれないよ。いつもは、ここまで強引で失礼な感じじゃないから」
と、私にオぺ子ちゃんも耳打ちをして、質問に答えてくれた。
やっぱりそうだよねぇ。
少なくともいつものラークなら、失礼は失礼でも、人の家に勝手に上がりこんだりとかしないもん。
私はそう考えると、ため息を一つ吐きだして、ラークの方を向いて口を開く。
「ラーク。何があったか聞いてあげる」
「よし! よく言った!」
うーん。
イラッとするなぁ。
「ジャスミン。良いの?」
「うん。リリィ、私の為に怒ってくれてありがとう」
「いいのよそんな事」
私とリリィが話していると、ラークがドカッと近くにあった机の上に腰かける。
「よし! じゃあ話すぞ!」
本当にいつもより、一段と失礼だなぁ。
「今朝の事だ! 俺が今朝、気持ちよく目を覚ますと、なんと枕元に犬の糞が落ちていたんだ!」
はい。
撤収。
凄くくだらないお話でしたね。




