080 幼女は目的を思い出す
チョコの実狩りから村に帰って来て、数日が経ったある日の事だった。
私はこの日も、いつもと変わらない日常を送っていた。
しかし、私のそんな日常を、一変させるような出来事が起ころうとしていた。
この日、私はリリィと一緒に、オぺ子ちゃんに会いに行く。
今では恒例となっっているオぺ子ちゃん着せ替えタイムの間、恋愛相談を受けるのだ。
それで、リリィが私を迎えに来ると言っていたので、今はその準備中。
私がお出かけの準備を終える頃、トンちゃんが私の周りをクルクルと飛び回り、呆れた様子で口を開いた。
「ご主人。いつになったら、フェニックスに不老不死にしてもらうッスか?」
私はそのトンちゃんの言葉で、まるで雷にうたれるような衝撃を受けた気持ちになった。
「あ」
そう言えば、そうだよね。
すっかり忘れていたよ。
私が驚いて口をポカーンと開けていると、察してくれたようで、トンちゃんは呆れて私を見た。
「ご主人って、結構馬鹿ッスよね」
「だ、だってすぐ会える距離にいると、なんとなく、いつでもいいよね? みたいな気持ちにならない?」
「さすが前世ひきこもりッスね」
「ぐっ……」
ストレスたまったら海に行くくらいには、ひきこもってないもん。
結果はアレだったけど……。
「でも、丁度良かったじゃないッスか。今から僕っ子に会いに行くッスよね?」
「そうだけど。丁度良い?」
私は、ボクッ娘が僕っ子とか言ってるよ。なんて思いながら聞き返す。
ちなみに僕っ子とは、もちろんリリオペの事だ。
「フェニックスは僕っ子に惚れてるんだから、利用すれば良いッスよ。連れて行けばきっとご機嫌になって、不老不死にしてくれるッスよ」
「えー。利用だなんて、なんかやり方が汚くて嫌だなぁ」
「何言ってるッスかご主人。時には手段を選ばないのも、必要な事ッスよ。それに、反応が面白そうッス」
トンちゃんが、小悪魔が悪戯をして楽しんでいる時のような、そんな顔をする。
うわ。
トンちゃん最低だよ。
私がトンちゃんに呆れていると、ママからの「リリィちゃんが来たわよー」と言う声が聞こえてきた。
私は大きな声で返事をして、急いで部屋を出る。
そして、私の横で飛んでついて来るトンちゃんを横目で見て、ニコッと笑って口を開く。
「オぺ子ちゃんを連れて行くのは賛成できないけど、不老不死の事を思い出させてくれてありがとね。トンちゃん」
そうして、リリィと挨拶をしてオぺ子ちゃんとの待ち合わせ場所に向かう途中、トンちゃんがリリィにさっきの話を早速しだす。
すると、リリィは私とは違って好感触な反応を見せた。
「それ良いわね」
「え?」
「流石ハニー。ご主人より話がわかるッス」
「えー」
「ジャスミンは優しすぎるのよ」
「これは優しさと言うより、甘さだと思うッス」
「でもー」
「ジャスミン。こんなの、あまり深く考える事でもないわよ。試しに、タイムの家に連れて行ってみるだけでも、いいのではないかしら?」
「うーん」
「そうね。それなら、いっそオぺ子ちゃんに聞いてみましょう?」
「聞いてみる……?」
「そうよ。それに、協力してもらうのだから、ジャスミンの事も話した方が良いかもしれないわね」
協力……。
協力と言う言葉で私は気がついた。
そっか。
トンちゃんの言い方というか、考え方から始まったお話だから、印象が悪かっただけなんだね。
リリィの言うように、協力してもらうって思えば、そんなに悪くない話なのかも。
「うん。そうしよう。私の話をしてから、それで協力してもらう」
「決まりね」
私が頷くと、リリィが微笑みながら私の頭を優しく撫でた。
待ち合わせ場所に到着すると、リリオペがベンチに腰掛けて本を読んでいた。
待ち合わせに選んだ場所は、芝生のような草が生えた所で、広さはだいたい甲子園球場くらいだろうか?
そこに、ポツンと少し大きめな木があって、ベンチが木の横に並べてあるだけの場所だ。
何もない場所だから、あまり人がこないので、1人で考え事をしたい人には良い場所かもしれない。
「リリオペおはよー」
「おはようジャスミン、リリィ」
「おはよう。料理の本?」
あ。
本当だ。
もしかして。
「ラークに何か作ってあげるの?」
「うん。この間のチョコの実狩りに、一緒に行けなかったでしょ? あれから、ラークが少し元気が無いんだ。だから、何か美味しい物を食べさせてあげられないかなって」
「うん。いいと思う」
「あの馬鹿が元気ない? 落ちてた物でも、拾って食べたんじゃない?」
さすがにそれは……ありそうだなぁ。
ラークだもんね。
て、いやいやいや。
「リリィ。せめて、そういう事は思っていても、リリオペの前で言わないの」
「いいじゃない。リリオペも別に怒ってないのだし。ねえ?」
リリィの言葉で、私はリリオペを見る。
すると、リリオペが笑いを堪えているのに気がついた。
「リリオペ?」
「いや。ごめん。たしかに、ラークならありそうかもって思ったら、何だか可笑しくってさ」
それで私は一つ理解した。
「リリオペは、ラークのそういう所も含めて好きなんだね」
リリオペの顔が赤らんで、私から目を逸らして頷いた。
「うん」
きゃー!
リリオペ可愛い!
私は興奮してリリィの腕を掴んで揺らす。
「リリィ! 早くお着替えしてもらおうよ!」
「うふふ。そうね。そうしましょう」
そう言うと、リリィは持って来たお洋服をリリオペに渡す。
「ありがとう」
リリオペはリリィからお洋服を受け取ると、早速木の後ろに隠れて着替えを始めた。
着替えが終わり、オぺ子ちゃんが出てくると、トンちゃんがオぺ子ちゃんの周りをクルクルと飛び回る。
「見事なもんッスよねー」
「何言ってるのよドゥーウィン。本番はここからよ」
リリィはそう言うと、お洋服を入れていた鞄から化粧品を取り出した。
「オぺ子ちゃんの為に、ママに頼んで習得した私のメイクスキルを見せてあげるわ」
さすがリリィ!
その行動力に脱帽だよ!
「ありがとう」
オぺ子ちゃんが嬉しそうにニコッと笑う。
うっひゃー!
オぺ子ちゃん可愛い!
私が興奮する中、リリィがオぺ子ちゃんのメイクを開始する。
すると、リリィがメイクをしながら口を開いた。
「オぺ子ちゃん。少しお話を聞いてもらえる?」
「え? うん。いいよ」
オぺ子ちゃんの返事を聞くと、リリィが私の顔を一度見た。
それで、私と目が合うと、柔らかく微笑んで小さく頷いた。
そっか。
もう話すんだね。
私はそれで理解して、同じように微笑んで小さく頷く。
すると、リリィがオぺ子ちゃんにメイクをしながら、私の事を話し始めた。
もちろん、私も一緒になって話をする。
私が転生者だという事。
私がフェニックスに会って、何をしようとしているのかを。
そうして、オぺ子ちゃんのメイクが完成すると、同時に私の話も終わる。
私は鏡変わりに水の魔法を使って、オぺ子ちゃんにメイクした姿を見せてあげた。
「わあ。可愛くなってる」
そう言いながら、オぺ子ちゃんはほんのりと頬を赤らめた。
リリィのメイクはナチュラルメイクで、パッと見は化粧をしていないようにも見える。
だけど、男だった頃の私にはわからなかったかもだけど、今ならわかる。
ナチュラルメイクでも、ここまで変わるのかと。
リリィって変態だけど、女子力高いよね。
やっぱり憧れちゃうなぁ。
などと、私がオぺ子ちゃんの可愛さを堪能しながら考えていると、オぺ子ちゃんが私の方を向いて目が合った。
「あまり役には立てないだろうけど、僕で良ければ喜んで協力するよ」
そう言って見せた、オぺ子ちゃんが優しく微笑んだ笑顔は、とてもキラキラして輝いていた。




