077 幼女と灯台下暗しのフェニックス
私が5歳の頃、そのお兄さんは村に引っ越して来た。
その頃の私は今よりも幼くて、そして前世の記憶が無かった。
そんな私を連れて、パパがよくそのお兄さんのお家まで出かけていた。
引っ越してまだ間もないから、色々と大変だろうとお手伝いしに行っていたのだ。
そして、私はその度にそのお兄さんと一緒に遊んでいた。
次第に私はそのお兄さんが大好きになって、たっくんと呼ぶようになった。
だから私は、そのお兄さんの名前を忘れていたのかもしれない。
そのお兄さんの名前は、タイム=ケツァール。
私が住むこの村の住人達は、皆揃って花の名前をつけられる。
だから私は勘違いしていた。
タイムと言う名は、花の名前から取ったのだと。
だけど、今の私ならわかる。
これは時間を表していた名前なのだと。
そして、今だからこそ思い出せる事がある。
ケツァールが、前世の世界で火の鳥のモデルになった鳥の名前だと。
火の鳥は不死鳥、つまりフェニックスとも呼ばれている存在なのだ。
そうして私は理解した。
たっくんは、人の時間を操るフェニックスなのだと。
師匠と呼ばれたたっくんが、ニクスちゃんを見て目を見開いて驚く。
そして、ニクスちゃんを指でさした。
「ど、どうしてニクスが?」
「それはこっちのセリフです。なんで、師匠がこないなとこおるんですか?」
「俺は村の行事のチョコの実狩りで……って、そんな事よりお前こそ、東の国で暮らしてたんじゃ!?」
「あそこは魔族の大軍が押し寄せて来て、危のうて一族みんなで引っ越して来たんです」
「そ、そうだったのか」
私や他の皆は静かに2人の会話に注目していたけど、そこで2人の間にトンちゃんがフワッと飛び出る。
「まあまあ、お2人とも。募る話もあるとは思うッスけど、後にするッスよ」
「風の精霊!? 何で風の精霊がこんな所に?」
トンちゃんを見てたっくんが驚く。
「ボクッスか? ボクは、そこにいるご主人と契約をしたからッスよ」
トンちゃんが手差しで私をさす。
「ジャスミンが……風の精霊と契約? 本当なのか?」
「うん。ついさっきに」
「凄いじゃないかジャスミン。風の精霊は自由気ままが好きな精霊だから、自由が縛られる契約なんか普通はしないんだぞ」
「そうなんだ。……て、それよりもたっくん」
「ん? なんだ?」
「たっくんがフェニックスって本当なの?」
私が真剣な目でジッと見つめると、たっくんは目を逸らして額に汗を流した。
「フェニックス? それは……誰の事かな?」
たっくん。
嘘が下手だね。
もの凄く怪しいよ。
「師匠ごめんなさい。もうバレてしまっとるんですよ」
ニクスちゃんがたっくんに手を合わせて謝罪する。
「まさか、アンタがフェニックスだったなんてね。どうりで、殺す気で蹴り飛ばしても死なないわけだわ」
え?
リリィ、何物騒な事言ってるの?
何度も見て来たけど、あれって殺す気だったの?
「ははは。冗談に聞こえないんだけど?」
たっくんが苦笑して後ずさる。
「まあいいわ。そんな事より、アンタに頼みがあるのよ」
「頼み?」
そこで、リリィが私をチラッと見た。
それで私はリリィの頼みが、私のフェニックスを捜していた理由だと気がついた。
「あ。待って、リリィ。それは後でいいよ」
「え? いいの?」
「うん。たっくんがフェニックスなら、今すぐじゃなくても良いでしょう?」
「それもそうね。なら、私個人の質問をするわ」
リリィの質問?
「いいよ。頼みもだけど、リリィが俺に質問なんて珍しいね」
たっくんがニコッと笑う。
「さっき、ニクスが自分の事を転生者と言って、その後に転生者としての能力と言っていたわ」
あ。
そうだよ。
忘れていたけど、それ私も気になったやつだよ。
さすがだよリリィ。
目の付け所が違うね。
「ニクス。喋りすぎじゃないか?」
「ホンマすみませんって」
ニクスちゃんが手を合わせて謝罪する。
「聞きなさい」
リリィがたっくんの顔に上段回し蹴りを食らわす。
「ぶはぁっ!」
たっくんは上段回し蹴りを食らって、倒れると、顔を抑えながら立ち上がった。
それを、フルーレティさんが羨ましそうな目で見ていたのが見えたけど、私は見なかった事にする。
「まだ私が話している途中よ」
「す、すまん」
「で、それでよ。転生者は皆、能力が使えるものなの?」
「なるほどな。聞きたい事はそれか……」
そう呟くと、たっくんは深く考え込んだ。
すると、フルーレティさんがリリィとたっくんに近づいて、リリィの目の前で跪く。
「お嬢さん。それには私がお答えしよう」
「そう? ならお願いするわ」
わぁ。
凄い綺麗だよ。
リリィって最近は性格がアレで、それが酷過ぎて忘れがちだけど、顔が綺麗系の美少女なんだよね。
だから、イケメン女子のフルーレティさんがリリィにあんな風にすると、リリィが本当のお姫様みたいに見えるよ。
こうやって見ると、本当に絵になる感じだもん。
「それではお話するよ。転生者の、いいや。私達、魔族と転生者の関係を」
そう言って、フルーレティさんは微笑んだ。




