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073 幼女のビンタはご褒美です

 空がすっかり暗くなる頃、ようやく気絶をしていたフルーレティさんが目を覚ました。

 フルーレティさんが目を覚ますと、私は経緯を説明して謝罪する。


「本当にごめんなさい!」


 そう言って、私はオークも顔負けな、見事な土下座をする。


 うう。

 私のバカ!

 リリィとスミレちゃんに偉そうな事言っておいて、同じ事するなんて!

 サイテーだよ!


「気にしないで。私も勘違いされる状況を作ってしまったのが、悪かったのだし」


 私は反省の意味も込めて土下座を崩さない。

 すると、リリィ達の声が聞こえてきた。


「そうよ。ジャスミンは何も悪くないわよ」


「そうッスよ。ご主人は当然の事をしただけッス」


「いや~。そんなん言うても、誤解が無いように、話は聞くべきやったと思うで?」


「話なんか聞かなくて良いなのよ。どうせフルーレティ様の話なんか聞いても、時間の無駄なのよ」


「ははは。バティン。本当に君は変わってしまったね? 前は、そんな事を言う子ではなかっただろう?」


「しかし、本当にとどめをささなくて良いの? この魔族がニクスを攫ったのと、この町の風を止める為に、精霊を閉じ込めたのは事実なのよ?」


「いいのよ。ジャスミンが、魔族だからって殺すのはダメだって言ってるんだもの。私はジャスミンの意見に賛成だし、何よりその気持ちを尊重したいわ」


「うんうん。幼女先輩のお願いだから、ノーとは言えないなのよ。それに、魔族と言う理由だけで殺すなんて、今時流行らないなのよ」


「アンタも魔族ッスよって、ここはつっこむ所ッスか?」


「あはは。スルーでええよ」


 私が見事な土下座を披露している中で、皆が思い思いにお喋りをしていた。

 ルピナスちゃんは何も言わず、土下座をし続ける私の頭を、いい子いい子と撫で続けてくれている。

 私はルピナスちゃんの優しさにふれながら、そして土下座をしながら考える。

 何で私は、あの時冷静に物事を考える事が出来なかったのかと。


 フルーレティさんが気絶している間に、ルピナスちゃんから聞いた話をまとめるとこうだ。

 まず、ママと一緒にここの銭湯に来たのだけど、ママがお財布を忘れてしまってホテルまで戻る事になった。

 その時、出かける直前のフルーレティさんに会って、ルピナスちゃんは預けられたそうだ。

 フルーレティさんがニクスちゃんを連れて帰って来てから、サキュバスのお姉さん達も含めて一緒に遊んで、気がついたらお風呂で眠ってしまった。


 そんな感じで、特に何かされたわけでもなく、お世話してもらっただけだったのだ。


 それなのに……うぅ。

 恥ずかしい。

 と言うか、私の脳みそけがれ過ぎだよ!

 ナニと勘違いしたんでしょうかね? だよ!


「お姫様。そろそろ顔を上げてくれないか? それじゃあ、君の可愛い顔が見れないよ」


 その言葉を聞いて、私は顔を上げた。

 すると、フルーレティさんが興奮気味に私を見た。

 その様子に、私は若干引き気味になる。


 ひぃ。

 え? 何?

 ちょっと鼻息荒いよ?


「君のおかげで、私は今まで感じた事の無い快感を覚えたんだ。むしろ感謝したいくらいさ」


 ……うん?


「何言ってんスかコイツ?」


「頭でも打ったんじゃないの?」


 こらっ。

 精霊さんとリリィ、失礼だよ。

 2人が言ってる事には、もの凄く同意するけど。


「私は今まで自分の持つ能力のおかげで、痛みというものを知らなかった」


 何か語り出したよ?

 聞きたくないなぁ。

 絶対ろくでもない内容だもんこれ。


「驚いたよ。君の魔法。あんなに気持ちが良い魔法は、初めてだったんだ」


 気持ちが……良い?


「痛みを知らない私は、癒しの能力でも追い付く事が出来ない程の威力を持つ君の魔法で、初めて痛みというものを実感したんだ」


 へ、へぇ。

 え?

 気持ちが良いは、何処に行ったの?


「そして覚醒したんだ」


「覚醒?」


 私は、思わず言葉を繰り返してしまった。

 すると、フルーレティさんは気分を良くしたようで、目を輝かして両手を広げた。


「そうさ! 私の能力は覚醒して、受けたダメージの痛みを知る事を知ったんだ」


 知らなくて良かったんじゃないかな?


「そして同時に、私は痛みは快感だと言う喜びを覚えたのさ!」


 痛みが快感で喜び!?

 変態だーっ!

 それ、覚えたらダメな奴だよ!


「感謝するよお姫様。君のおかげさ」


 フルーレティさんが爽やかに微笑み、私を見た。

 私は一歩後ずさり、少し距離を置いた。


 うわぁ。

 嫌なもの目覚めさせちゃったよぉ。

 もはや、ただの変態のドエムだよぉ。


「そうだ。申し訳ないと思っているのなら、私をおもいっきりぶってくれないかい?」


 ひぃぃ!

 爽やかな顔して爽やかな声で、何言ってるのこの人ーっ!?

 誰か、この残念なイケメン女子を止めてー!?


 私は助けを求めて、周囲を見る。

 だけど、オネエさんとおデブさんが私から目を逸らす。

 サキュバスのお姉さん達も、若干引き気味で首を揃えて横に振る。

 私は魔族サイドはあてにならないと悟って、一番頼りになるリリィを見る。


 え? リリィ?

 なんでウインクして親指立てて頷いたの?

 状況をよく見てリリィ?

 絶対勘違いしてるよね!?

 たまに私、リリィの事をぶったりしちゃっていたけど、もしかしてリリィ的にはご褒美だったの?

 なんか、今そう言う顔だよ?

 ねえ、リリィ?

 違うよね?


 私がリリィの態度に半泣きになっていると、ルピナスちゃんが私とフルーレティさんの間に入って、私を庇うようにして立った。


「ジャスミンお姉ちゃんを、イジメちゃダメ!」


 ルピナスちゃん!

 やっぱりルピナスちゃんは私の天使だよ!


「そ、そう言うつもりではなかったのだけど、すまない」


 流石だよ!

 ルピナスちゃん!


 ルピナスちゃんのおかげで難を逃れた私は、嬉しくてルピナスちゃんに抱き付いた。

 ルピナスちゃんは抱き付いた私をギュゥッと返してくれて、いい子いい子と頭を撫でてくれた。


 やっぱりルピナスちゃんは、私の可愛い天使だよぉ。

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