071 幼女は可愛いものに弱い
「おっぱいが大きいけど魔族のお姉さんと、将来有望性の高い女の子ッスか~」
私は、その声を聞いてびくりと体を震わせて驚いた。
そして、いつの間にか私の左肩の上に、さっきの風の精霊さんが座っている事に気がついた。
ドゥーウィンくんだよね?
いつの間に座ってたんだろう?
軽すぎて気がつかなかったよ。
「どうせ仮とは言え契約するなら、こんなちびっ子なんかより、ボクはあの将来有望性の高い女の子と仮契約したいッスね~」
この子おませさんだなぁ。
でも、やっぱり可愛い。
頭なでなでしたいよぉ。
私はそんな事を考えながら、オネエさんの側でしゃがんでいるリリィとスミレちゃんに歩み寄る。
「オネエさん大丈夫そう?」
私が訊ねると、2人は私の顔を見て答える。
「とりあえず気を失ってるだけなのです」
「なんとかね。あ。そう言えば、さっきも少し気になったのだけど」
リリィが、私の肩の上に座っている精霊さんを見て立ち上がる。
「ジャスミン。この子って、もしかして風の精霊なの?」
「うん。そうだよ。ドゥーウィンくんって言うの。助けに来たお礼に、一度だけ力を貸してくれるんだって」
って、さっきも?
本当に、いつからいたんだろう?
全然気がつかなかったよ。
うーん。
まあいいか。
「へ~。そうなの」
リリィが精霊さんの目線に顔を合わせる。
「ありがとう。ジャスミンの事、よろしく頼むわね」
リリィがそう言って、精霊さんを人差し指で撫でる。
すると、精霊さんは機嫌を良くしたのか、その場で立ち上がった。
「ハニー! 任せてッス!」
リリィはニコッと笑うと、ニクスちゃんに「あら? 水着?」と声をかけた。
ハニー?
すでにハニー呼びなんだね。
コミュ力凄いなぁ。
リリィも流石だよね。
ハニー発言を軽くスルーしてるもん。
でも、精霊さんはスルーされてるのに、全然気にしてる感じしない。
うーん。
私が考えすぎなだけとかかな?
私はモヤモヤと、そんな事を考える。
すると、アマンダさんが「こんな物しかないけど」と、バスローブを渡してくれた。
「ありがとー。アマンダさん」
私は受け取ったバスローブを着る。
あ。
ちょっと大きいかも。
でも、長さを調整すれば大丈夫だよね。
「あなたのお友達は凄いわね。こんなに強い魔族を、一撃で気絶させてしまうなんて」
アマンダさんが、絶賛気絶中のオネエさんを見る。
私はアマンダさんの言葉に苦笑して、すぐに真剣な顔になってアマンダさんに質問をする。
「ねえ、アマンダさん。フルーレティが何処にいるかわかった?」
「今は不在だったのだけど、フルーレティが普段いる場所はわかったわ」
「じゃあ、今すぐそこに」
「え? 幼女先輩。ちょっと待って下さいなのです」
「どうしたの?」
「ニクスちゃんも風の精霊も助けたなら、これ以上関わらない方が良いなのですよ! フルーレティ様はマジでヤバいなのです!」
スミレちゃんの言葉を聞いていたアマンダさんも、私に真剣な面持ちで口を開く。
「私も同意見よ。私が思っていたより、ここにいる魔族は強い。これ以上、あなた達は関わってはいけないわ」
ああ。
そっか。
2人とも知らないんだよね。
「ルピナスちゃんが捕まってるみたいなんだよ。だから、私は助けに行かなきゃいけないの」
私の言葉を聞いたスミレちゃんは、さっきまでの慌てっぷりが消えて、静かに闘志を燃やし始めた。
アマンダさんは、スミレちゃんの態度の変わりようを見て驚く。
「お友達なの?」
「うん。大切なお友達だよ」
私がそう答えると、アマンダさんは深くため息を吐いてから苦笑した。
「仕方がないわね。そう言う事なら、今から案内するわ」
「ありがとー」
「私は最初から、フルーレティとか言う魔族に用があったから、行くつもりだったけどね」
「え? リリィ。そうなの?」
「ジャスミンにキスした罪は重いわ」
あ。
ああ……。
あれね。
私はすっかり忘れていたよ。
その時、突然スミレちゃんが脱衣所に向かって走り出す。
「スミレちゃん?」
そして、スミレちゃんが脱衣所で誰かに飛びかかった。
「随分な挨拶じゃないか? バティン。それに、騒がしいと思って来てみたら、プルソンもエリゴスもだらしがないな」
あの人!
「フルーレティ様。ルピナスちゃんを返してもらうなのよ」
スミレちゃんが飛びかかったのは、なんと捜していたフルーレティだった。
スミレちゃんの一撃はフルーレティに直撃したようで、フルーレティは腹部が炎で燃えていた。
だけど、フルーレティは全く顔を歪めない。
そう言えば、ダメージを癒しに変える能力だっけ?
だから、フルーレティには攻撃が効かないって事なんだ。
「なるほど。知り合いだったのか。でも、あの子は渡さないよ」
フルーレティが余裕の笑みを見せる。
「それにしても、バティン。君への対策で、施設の全てに消臭対策をとってみたけど、やっぱりこの距離ならわかるみたいだね」
「あったりまえなのよ! 匂いマスターなめんななのよ!」
スミレちゃんとフルーレティが言い争う中、アマンダさんがフルーレティに向かって走り出した。
「スミレさん。援護するわ!」
「お願いするなのよ!」
あわわわわ。
何か凄い事になってきたよ!
まるでバトル漫画のようだよ!
あ。そうだ。
「ねえ。精霊さん。……って、あれ? 精霊さん?」
精霊さん、いつの間にかいなくなってる。
どこいっちゃったんだろう?
私は精霊さんの姿を捜す為、キョロキョロと周囲を見る。
「なあなあハニー? ハニーの名前を教えてほしいッス~」
あ。いた。
って言うか、こんな時にリリィにナンパしてるよ精霊さん。
仮契約があの子で大丈夫なのか、だんだん心配になってきたよ。
私は精霊さんをじっと見る。
うん。
可愛い。
心配だけど、可愛いから良っか!
と言うかだよ。
ドゥーウィンくん可愛いから、ついつい憎まれ口も許しちゃうんだよね~。
可愛いは正義だよ!
私はそんなお馬鹿な事を考えながら、リリィ達に駆け寄った。
「ねえ。精霊さん。一回だけ力を貸してくれるんだよね? それなら」
「えぇー。どうしよっかな~。ボクも今忙しいッスからね~」
「お願い!」
私は両手を顔の前で合わせて、顔を少し前に傾けて、お願いのポーズを取る。
精霊さんはそれを見て、口笛を吹いた。
それを見ていたリリィが、クスクスと笑ってから、精霊さんに話しかける。
「ドゥーウィン。ジャスミンのお願いを聞いてあげて? お願い」
「仕方ないッスねー」
流石リリィ!
ありがとー!
私は心の中でリリィに感謝をする。
すると、私の心が通じたのか、リリィが私を見て微笑んだ。
「じゃあ、まず仮契約をするから――」
「フルーレティ様!」
精霊さんが私の方を向いて話し始めたその時、急に大声を上げてサキュバスのお姉さんが現れた。
「緊急事態です! 早くお戻りください!」
緊急事態?
「まさか!?」
フルーレティがサキュバスのお姉さんの言葉に驚いて、スミレちゃんとアマンダさんを軽々と一蹴して、サキュバスのお姉さんの側まで行く。
なんだろう?
凄く慌ててるみたいだけど?
フルーレティとサキュバスのお姉さんは、こそこそと話をすると、私に振り向いて爽やかな笑顔を見せた。
「君とお話をして行きたかったけど、急用が出来てしまった。また会おう」
フルーレティはそう言うと、サキュバスのお姉さんと一緒に立ち去っていってしまった。
そして、2人の姿が見えなくなって、私はハッとなる。
あーっ!
思わず見ていたけど、逃げられちゃったよ!
もう!
私の馬鹿ーっ!
何やってるのよ?
ボーっと見てちゃダメでしょー!
ルピナスちゃんの事、助けなきゃなのにーっ!
私は自分の不甲斐無さに、ポカポカと自分の頭を叩く。
それを見た精霊さんが、私の肩に座ってあくびをした。
「それでちびっ子。仮契約するッスか? しないッスか?」
「するー!」
呆れて私に質問した精霊さんに、私はムキになって答えた。




