007 幼女も歩けば不審者にあたる
パンツ事件を解決する為に、立ち上がった私とリリィは、まずは聞き込みからスタートした。
そして、今は大人達が村中をパトロール中なので、村の中なら安全だろうと、私とリリィは別々に行動を開始した。
私の聞き込み相手は、さっき大人が話していたルピナスちゃんだ。
さて、ここでちょっとした自己紹介。
ルピナスちゃんは私の1つ年下で、狼の耳と尻尾が生えているとってもキュートな獣人の女の子だ。
黄色いまん丸お目目なつぶらな瞳。
モフモフな癖っ気のある黄土色の髪の毛。
身長は私と同じ位で、多分私の方が大きい。
お肌はプニプニしていて、触り心地も抜群だ。
そんなルピナスちゃんのお家まで到着すると、ちょうどルピナスちゃんが両親と一緒に、お家から出て来た所だった。
「あっ。ジャスミンお姉ちゃんだ」
ルピナスちゃんは私に気がついて、尻尾を振って笑顔で駆け寄ってきた。
うひゃー!
超可愛いんですけど!?
ルピナスちゃんの笑顔は、前世の記憶が甦った中身半分おっさんの私には、かなりの破壊力があった。
って、いかんいかん。
ニヤケてないで、聞き込みをしないと!
「ルピナスちゃんにおばさんとおじさんこんにちは。今からどこかお出かけなの?」
「こんにちは。そうよ。今から、この子の下着を買いに行くところなの」
盗まれてしまった分を買いに行くのかな?
「ジャスミンは僕達に何か用かな?」
「えっと……盗まれたルピナスちゃんのパンツは、どこにあったものなのかなって気になっちゃって……」
「ああ。その事か。ジャスミンも知ってたんだね?」
「そうね。ジャスミンちゃんも気をつけないとだから、教えてあげた方が良いわよね」
「うん。そうなの! だから教えて?」
すると、純真無垢なルピナスちゃんが笑顔で答える。
「お外でお水遊びしてたら、無くなってたんだよ」
「え? お外でお水遊び?」
「この子ったら、家の横に穴を掘って、その穴に水を流して裸になって遊んでたのよ」
「凄いね……。ルピナスちゃん」
「?」
ルピナスちゃんが、キョトンと可愛い顔して首を傾げる。
何この子?
家にほしい!
って、いかんいかん。
また気持ちが脱線するところだった。
要するに、自分でプールを作って遊んでたって事でしょ?
前世の男の頃だった私でも、穴掘ってプールを作るなんて、そんなの無理だよ絶対。
って、あれ?裸?
「水遊びの時に、服も下着も全部脱いでたの?」
「うん。お洋服濡れちゃうもん」
「この子ったら、そこら中に脱ぎっぱなしで遊んでたのよ。本当、困った娘だわ」
「僕は最初、風に飛ばされただけなんじゃないかって思ったんだけどね。他にも盗まれたって人がいたから驚いたよ」
「……そうなんだ。そうだったんだね」
あれ?
だったら、あながちリリィの言っていた脱ぎたて盗んだって、間違っていなかったって事?
私は何だか背筋が寒くなる。
「教えてくれてありがとう。ルピナスちゃんまたね。おばさんとおじさんもありがとう」
「ジャスミンお姉ちゃんまたねー」
大きく手を振るルピナスちゃん可愛い。
ルピナスちゃんの可愛さに名残惜しみながら、私は手を振ってその場を移動する。
移動しながらふと思う。
前世の記憶が甦ってから、色々な物の見方が変わったなとは薄々思っていたけれど、本当に結構影響が出ている。
ルピナスちゃんにしてもそうだ。
年下の可愛い子という認識は元々あったにはあったけど、ここまで可愛く感じる事は無かった。
何だか不思議な感じだなー。
などと考えながら、さっき聞いた話を思い出す。
それにしても、ルピナスちゃんは狼の獣人なのに犬っぽくて可愛いなぁ……。
じゃなくて、いかんいかん。そうだけどそうじゃない。
外で水遊び中に盗まれたって言ってたし、洗濯物を狙ったわけじゃなかったけど、どっちにしても外にあった下着が盗まれたって事だよね?
うーん。
とりあえず、一旦リリィと集合する予定の場所に行こう。
そう思った矢先だった。
私は前方不注意で誰かにぶつかってしまった。
「きゃっ」
痛た。
尻餅ついちゃった。
「ごめんね。大丈夫かい?」
ぶつかった相手がそう言って、私に手を差し伸べる。
「あ。こっちこそごめんなさい」
私もそう言って、相手の手を掴もうとしたその時、相手の手と顔を見て体が凍り付いた。
何故ならその相手は――
「――オーク!?」
そう。
何故ならその相手は、どっからどう見ても前世の漫画やアニメやゲームで見た事のあるオークそのものだったからだ。
人より体が大きく巨体で、身長は2メートルあるのではないかと思える程大きい。
口から見える歯はギザギザで、全身は毛深いが髪の毛や眉毛が無く、それでいて目つきが若干鋭く威圧的だ。
私はオークのその姿を見て、恐怖を感じ身動きが取れなくなる。
しかし、私の言葉を聞いたオークも体が一瞬硬直し、差し伸べていた手を引いて大量に汗を流し明後日の方向を見だす。
「ななな何の事かな? お嬢ちゃん。おじさんは、オークじゃないよ? そこら辺にいるただの村人さ」
めちゃくちゃ動揺してる!?
って言うか、もう動揺しすぎて目の焦点があってなくて、逆に怖いんですけど?
でも何だか落ち着くなあ。この反応。
オークの反応に落ち着きを取り戻したおかげで、気持ちが高ぶってきた私は恐怖を忘れて口を開いた。
「この村は60人しか住んでいる人がいない村なのよ。だから、私はこの村の皆の事知ってるけど、貴方の顔は初めて見た! この村の人間じゃない事はわかるんだから!」
それ以前に、何度見てもあからさまに全身からオークって感じだもん。
騙されないんだからね!
この動揺。
そしてこの不審者感。
間違いない!
私は自ら体を起こして立ち上がり、ズバッとオークに指をさす。
「貴方がパンツ泥棒の犯人なんでしょ!?」
私にズバッと指をさされビシッと決められたオークは……って、あれ?
いない?
「あっ!」
見ると、いつの間にかオークが全速力で逃げていた。
「待ちなさ――あれ?」
私は追いかけようとするも、変な違和感に気付く。
この股下あたりのスースーする感じは……。
「え? え? えーっ!?」
はい。
パンツ盗まれました。