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069 幼女はまな板で生えて無い

 おデブさんが倒れると能力の効果が消えて、ニクスちゃんと風の精霊さん達を解放する事に成功した私は、倒れたおデブさんを見つめていた。


「見て見てニクスちゃん。可愛いよ」


「たしかに可愛かわええけど、本体がこれやしな~」


 ニクスちゃんが呆れた様子で返事をする。


「でも、可愛いものは可愛いよ」


 さて、おデブさんの何が可愛いのかと言うと、それは背中の羽とお尻の尻尾である。

 おデブさんは、その巨体のせいで全く前からは見えなかったけど、悪魔の羽と尻尾を生やしていたのだ。

 背中の羽は、大人の手のひらサイズの大きさで可愛い。

 尻尾も、豚さんの尻尾みたいに小さくてくるんとしていて可愛い。

 私はおデブさんの尻尾を、ツンツンとつついて堪能する。


「可愛い」


「あはは~。ところでジャス、ウチ等もジャスのおかげでお風呂から出られる様になったけど、これからどうするん?」


「え? 勿論、一緒に助けに来たリリィとスミレちゃんとアマンダさんと合流して、ここから出ていくつもりだけど」


「やっぱ、そうやんな~」


 何か問題でもあるかのように、ニクスちゃんが人差し指でこめかみを触って「うーん」と唸る。

 どうしたんだろうと思い、私は尻尾をつつくのを止めて、立ち上がった。


「実はな、ウチ見たんよ。昨日、ジャスや村の皆を、この町に連れて来たやろ? その時おった子。名前は何て言うてたっけ?  る、ルゥ……」


「ルピナスちゃん?」


「そうそう。ルピナスちゃんや。ウチ、ここでフルーレティと一緒におったルピナスちゃんを見たんや。間違いないで」


 私は思いもよらない大天使ルピナスちゃんの名前が出て、驚きのあまり数秒の間かたまってしまった。

 そして、ハッとなってニクスちゃんの両肩を掴む。


「どどど、どぉーっ!? どういう事なの!?」


「ウチにも理由はわからんけど、どっかで見たな~思うてたんや」


「こうしちゃいられないよ! すぐに助けに行かなくちゃ!」


 私が急いで走ろうとすると、ニクスちゃんに腕を掴まれる。


「まあ、落ち着きいな。それと、はい。タオル」


「今から着替えるからタオルはいらないよ。それより早く行かなきゃ!」


「行くってどこに? 残念やけど、ウチも何処におるかはわからんよ」


「……うん。そうだよね」


 私は一旦深呼吸をして、心を落ち着かせる。


 そうだよ。

 焦っちゃ駄目だよ私!

 こういう時は冷静にならなきゃ。


 私が落ち着きを取り戻すと、お風呂からあがり、服に着替えた白いお髭の精霊さんが私の目の前に飛んで来た。


「お嬢さん。助けに来てくれたお礼に、力を貸しましょう」


「え?」


「我々が持つ風の加護を契約によって得られれば、何かの役に立つやもしれませぬ」


 風の加護?

 契約?


「ああ。すみませぬ。説明も無しでは、わかり辛いですな」


「う、うん」


「我々風の精霊は、この世界から風の加護を授かっておるのです」


 な、なんだか話のスケールが、急に大きくなってきたよ!?


「そして、我々風の精霊と契約を交わした者も、その恩恵おんけいを受ける事が出来るのです」


「凄いやんジャス。普通は精霊から契約をしようなんて、言わへんのよ」


「そ、そうなの?」


 契約かぁ。

 嬉しいけど、なんか縛るみたいで可哀想な感じがする。

 だって契約って普通、簡単に破棄出来るものじゃないよね?

 イメージとしては、一度契約を交わしたら、もうそれを無しに出来ないって感じだもん。

 私の認識違いならいいけど……。


 私が悩んでいると、白いお髭の精霊さんが私の考えている事を悟ったのか、優しい笑みを浮かべた。


「お優しいお嬢さんだ。では仮契約で、今回だけお助けすると言うのはどうでしょう?」


「そういう事も出来るんだ?」


「はい。その分、恩恵を受けられる量は減りますが、それで良ければ」


「それじゃあ、お願いしちゃおうかな」


「お任せ下され」


 白いお髭の精霊さんは微笑むと、後ろを振り向いてキョロキョロと他の風の精霊さん達を見た。


「おいドゥーウィン。このお嬢さんに手を貸して差し上げなさい」


「えー!? ボクがやるんスかー!? 嫌ッスよー!」


 白いお髭の精霊さんに呼ばれた半そでと短パンの精霊さんが、文句を言って目の前に飛んできた。


 あ。

 男の子かな?

 この子も可愛い。


「それによく見て下さいよ。この子ボクの好みじゃないッス。どうせ契約するなら、ボクはもっとボイーンおっぱいの女の子と契約するッスよ~」


 そう言って、ドゥーウィンと呼ばれた精霊さんが手でくるんとおっぱいを描く。


「こんなまな板娘のちびっ子なんて、お呼びじゃないッスよ~」


 私は、まな板の方が好きだけどなぁ。

 まあ、仕方がないよね。

 スミレちゃんのおっぱいを触って気がついたけど、あの感触は癖になるよ。

 前世の童貞だった頃の私には、とても想像が出来ない威力だったもんね。

 それにしても、なんだか私の中の可愛い精霊さんのイメージが、もの凄く崩れちゃうよ。

 精霊さんも、男の子は男の子なんだね。


 私が現実を知って悲しんでいると、白いお髭の精霊さんがポカンと、ドゥーウィンと呼ばれた精霊さんの頭を小突いた。


「こら。失礼な事を言うでない!」


 なんだか、ラークと村長さんみたい。


 そう思った私は、クスリと笑う。

 それを見た白いお髭の精霊さんが、「お恥ずかしい」と頭をいた。


「こやつはドゥーウィンと申します。性格はアレですが、我々の中で一番上手く風の加護を扱う事が出来るのです。どうか使ってやって下さい」


 白いお髭の精霊さんがドゥーウィンくんの頭を掴んで、ぺこりと一緒にお辞儀をさせる。


「ボクはオッケーなんて言ってないッスよ。こんな毛も生えて無いようなちびっ子と、仮とはいえ契約なんてしたくないッス」


 毛も生えてないようなって……。

 その通りだけど。

 でも、私は生えて無い方が好きだよ。

 うん。


「こら。本当に失礼な奴だな。だいたい、お前さんの方がチビだろう!」


「そう言う長様おささまだって、ボクと変わらないッスよ!」


「ワシの方が1ミリ大きいわい」


「そんなの変わらないのと一緒ッスよ!」


 私は精霊さん2人の抗論を見て苦笑する。


 ラークと村長みたいって思ったけど、やっぱり全然違うね。

 ラークの場合は反論しないもん。

 それにしても、精霊さんは喧嘩してても可愛いなぁ。


 私が呑気な事を考えていたその時だった。

 突然ズドーンと、大きな爆発音の様な音が聞こえた。

 その音に、私だけじゃなくニクスちゃんや精霊さん達も、驚いて周囲をキョロキョロと見る。


 今の何だろう?

 何処から聞こえてきたのかな?


「ジャス。はようここから出た方がええかも。結構近かったで?」


「う、うん。そうだね。とりあえず脱衣所に戻って服を着よう」


 私はそう言って、ニクスちゃんと一緒に露天風呂を後にする。

 そして、露天風呂を出る時に、背後から精霊さん達の抗論が聞こえてきた。


「お前も行かんか!」


「くどいッス! 嫌なもんは嫌ッスよ!」


「もうお前オヤツ抜き」 


「ええ!? それは反則ッスよ! くっそー!」


 オヤツ抜きで反論できなくなるなんて、精霊さん可愛い。

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