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068 幼女が入ったお風呂のお湯の活用法

 私が拾い上げたタオルを巻くと、おデブさんが目を見開く。

 そして、わなわなと震えだした。


「おいおいおいおいガキんちょ」


 そう呟いて、おデブさんが私を指さす。


「風呂に入る時によお! タオルを巻くのは、マナー違反だろうがよお!?」


 おデブさんの勢いよく出た一言で、私の脳裏に衝撃が走る。


 た、たしかに!

 おデブさんの言う通り、お風呂に入る時にタオルを巻くのはダメだよね。

 でも、今タオルを取ってしまったら、おデブさんにいやらしい目で見られちゃう!

 私はどうすれば!?


 私がそんな事を考えて焦っていると、ニクスちゃんが軽蔑の眼差しをおデブさんに向けた。


「うわぁ。ホンマにあいつ最低やわ。ジャス、無視しとき」


「で、でも、おデブさんが言ってる事は正しいよ。公衆のお風呂でのマナーだよ?」


「公衆の面前で女子に脱げ言うてる奴の、どこが正しいん? ただの変態や」


 私はニクスちゃんとおデブさんを交互に見る。


 どっちも正しい事を言ってる。

 だから、どちらかを選ばなきゃいけないよね。

 どちらかを選ばなきゃいけないなら、私は!


 私は覚悟を決めて、体に巻いたタオルを勢いよく取って、すぐに大事な所を手で隠す。


「ジャス!?」


「ぶふぉー!」


 私の行動に、ニクスちゃんが驚き、おデブさんが大量の鼻血を噴き出す。


「なんてーガキんちょだ。手で隠す事によって、エロさがしてやがるじゃあないか!」


 おデブさんが鼻を押さえて、もの凄くいやらしい目で私を見る。


 ひいぃ!

 やっぱりタオルを取るんじゃなかったよ!

 もうなんか、最初に受けた印象の怖さとは、別の怖さがあるよ!


 私はおデブさんの視線に、ついに耐えられなくなり、バシャンと湯船に全身を浸からせてしまった。

 すると、おデブさんが一瞬何とも言えないがっかりした顔を見せて、顔を横に振ってから高らかに笑いだした。


「作戦成功のようだなあ! これでガキんちょお! お前はもう、風呂から出る事があ出来ないぞ!」


 いやいや。

 絶対違うよね?

 今凄く残念そうな顔してたよ?


 そこで、今までのを黙って見ていた風の精霊さん達がざわめきだした。

 白いお髭の精霊さんも、思わず口から驚きの声を上げる。


「な、なんと! 今のは全て作戦だったのですか!? なんと恐ろしい魔族なのですか!?」


 あんな解りやすい嘘に、騙されちゃう精霊さん可愛い。


 私が精霊さん達の可愛さに癒されていると、聞いてもいないのにおデブさんが喋り出す。


「オレッチの名前はエリゴス! そして能力は、対象の風呂を、入ると気持ちが良すぎて二度と出られなくなる風呂にーする能力だあ!」


「あはは。そんなわけ……っえ!?」


 そんなわけがないと、私はお風呂から出ようとした時、その能力の恐ろしさを知る。


「嘘!? 本当に出られない! 体がいう事を聞いてくれないよ!?」


 立て続けに能力っぽい能力を聞いていたから、つい忘れてしまっていたけど、相手は魔族だもん。

 そうだよね。

 オークみたいに、お馬鹿な能力だってあるんだもん。

 今回も、そっち系だったんだね。


「気がついたようだなあ! この能力の恐ろしさに!」


 おデブさんが私を見て、愉快そうに笑いだす。


「オレッチの能力からは、何人なんびとたりとも逃れる事は出来ないぜえ! 何故か知りたいかあ? 教えてやる!」


 おデブさんが、相変わらず何も聞いてないのにベラベラと喋り出す。


「この能力は、この世界とは別の世界にあるいにしえより伝わる伝説の凶器『こたつ』と、同じ効力を持っているのだあ!」


 え? こたつ?

 なつかしいなぁ。

 それ、私持ってたよぉ。

 まさか、この世界でその名前を聞くなんて思わなかったなぁ。


「その効力は、一度入ると人を駄目にしてしまう程に恐ろしく、何人、いいやあ! 数えきれない程の、人間達の犠牲者が出たのだあ!」


 たしかに、こたつって凄いよね。

 わかるなぁ。

 それにしても、何て馬鹿な能力なんだろう?

 たしかに、捕まえておくには持って来いの能力かもしれないけど。


 そこまで聞いていると、ニクスちゃんが私の耳元で囁く。


「しかも、出れへんだけやなくて、飲み物とか食べ物とか持って来てくれるんよ。せやから、至れり尽くせりで、ここから出ようって気が起きへんのよ」


 わあ。凄ぉい。

 もの凄くおもてなしされてたんだね。

 って、これって本当に助けに来た意味はあったのかな?


 その時、おデブさんがどこからかコップを取り出した。


 まさか、私にも飲み物を持って来て、おもてなしをして戦意を喪失させる気なのかな?


「どおれ。そろそろ、幼女のだし汁でも頂くとするか!」


 って、違った。

 ん? 幼女のだし汁?

 今、幼女のだし汁って言った?


 おデブさんが持っていたコップで、私達が入っているお風呂のお湯をすくいあげる。

 そして、私の目線に気がついたおデブさんが、ニンマリと気持ちの悪い笑みを浮かべて、またもや聞いてもいないのに説明しだす。


「まだ気がついていないのか? 精霊たちの浮き輪が、実はおけだという事にい!」


「桶?」


 疑問に思い精霊さん達の浮き輪をよく見る。

 そして、私は気がついた。


 何これ?

 浮き輪にって言うか、透明な桶の上に浮き輪がくっついてる!


「気がついたようだなあ! そうだ! 精霊たちの入っている桶の中に風呂のお湯を入れて、この風呂を堪能させていたのさあ!」


 あ。

 でも、これなら浮き輪から手を離しても安全だね。


「そして、それが指し示す答えは簡単だ! 今、この風呂のお湯には、幼女しか入っていない事になるってえわけだあ!」


 おデブさんが高らかに笑い、コップで掬い上げたお湯を一気に飲み干した。


 うわぁ。

 本当に飲んじゃったよ。

 凄く気持ち悪いよ。


「美味であるぞお!」


 私とニクスちゃんが軽蔑の眼差しで、おデブさんを見る。

 すると、その視線に気がついたおデブさんが、気持ちの悪い笑みを浮かべた。


「安心しろ。オレッチの能力を受けた風呂に入っている間は、のぼせる事が出来ない。つぅまありぃ! 延々と入っていられるから、幼女のだし汁取り放題だ!」


 うん。

 気持ち悪い。

 そもそも、そんな事聞いてないよ。


「しかし、何かぁが足りないなあ」


 頭のネジが足りてないんじゃないかな?


「そうかあ! わかったぞ! オレッチは天才だあ! おいガキんちょ!」


 おデブさんと目が合う。


 え? 私?


「おしっこはしたくないかあ?」


 おしっこ?

 ま、まさか……。


「したいのなら、早くその風呂の中でするがいい! さあ! 早く!」


 ひぃー!

 変態だーっ!

 まさかのまさかだよ!

 このおデブさん、完全にアウトだよ!


「しないよ! それに、お風呂の前におトイレ行ってきたもん!」


「何だってぇえ!?」


 おデブさんが驚愕する中、ニクスちゃんが私を見て、もの凄くドン引きした顔で口を開く。


「なあジャス。ウチ思ったんやけど、ホンマ早うここから出たいわぁ」


 私はニクスちゃんに、ニコッと笑顔を向けて喋る。


「うん。私もそう思うよ」


 よーし。

 あのおデブさん気持ち悪いから、さっさと片付けちゃおうっと。


 そう思った私は、すぐに行動に移す事にした。


 こたつと同じ効力をもつ能力には恐れ入るよ。

 だけど、私には効かないんだよね。

 だって私は……。


 私はお風呂に浸かりながらも、少しずつおデブさんの方へと進み始める。


「残念だけど、この能力は私には効かないよ」 


「何い?」


「私は、前世でこたつを持っていたの」


 一歩。

 また一歩と、少しずつ歩み続ける。


「そして私は幾度となく、抜け出す事の出来ないこの極楽と言う恐怖を味わってきた」


 ついに、お風呂に浸かりながらも、私はおデブさんの目の前まで辿り着いた。


「ある時はバイトに行く時間になった時。またある時は、ネットで注文したギャルゲーが家に届いて玄関に取りに行く時」


 そして私は、勢いよくその場で立ち上がる。


「でも、私は数々の苦難を乗り越えて、こたつの魔の手から抜け出して来たんだよ!」


「ばか……な…………ぁっ」


 その時、おデブさんがズシンとその場でうつ伏せに倒れた。


「って、ええぇぇっ!? 鼻血をすっごい大量に出して、倒れちゃったよ!?」


「ジャス! タオルタオル!」


「あ。そうだった」


 おデブさんを見ると、水たまりならぬ鼻血たまりの中で、凄く幸せそうな笑顔で倒れていた。

 そんなおデブさんを見て、私も思わずニッコリ笑顔。


 うん。

 気持ち悪い。


 どうやら、おデブさんは至近距離から私の裸を見て、昇天してしまったようです。

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