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066 幼女も時には悪女となる

「えー何々? 設備に不備があった為、只今露天風呂への出入りを禁止させて頂いてます。か」


 露天風呂への入り口のドアに張り出された張り紙を、たっくんが読み上げる。

 流し合いっこが終わった後、私はたっくんに露天風呂に行こうと誘われて、露天風呂の出入り口まで来ていたのだ。

 そして、私は立ち入り禁止というのがわかっていたけれど、怪しまれないように黙っていた。


 設備に不備……。

 設備に不備かぁ。


 私は周囲を見まわす。


 でも、ここしか他に怪しい所が無いんだよね。

 だから、この設備に不備って言うのは、嘘だと思うんだよなぁ。


 などと私が考えていると、背後から声をかけられる。


「あら? そこは立ち入り禁止よ」


 その声に私とたっくんが振り返って、驚愕する。

 何故なら、私達に声をかけてそこに立っていたのは、青髭割れ顎のガタイが良い筋肉ムキムキのオネエ系っぽいおじさんだったからだ。


 わぁ。

 私こういうタイプの人って、漫画とかでしか見た事なかったよぉ。

 女の子みたいに、胸までタオルで隠してる。

 可愛い。

 乙女だなぁ。


 などと私が考えていると、そのオネエさんが私を見て、どこからかタオルを取り出して「はい」と渡して来た。

 私はそれを、困惑しながら無言で受け取る。

 すると、オネエさんが私に優しく微笑みかける。


「ダメよお嬢ちゃん。女の子なんだから、ちゃんと隠さなきゃ」


「あ、ありがとー」


 私はお礼を言ってタオルを巻く。


「あらやだ。お嬢ちゃん。そこのいい男、じゃなくて、お嬢ちゃんのお兄さんと同じ場所じゃなくて、私と同じように体全体を巻くのよ」


 いけないいけない。

 前世が男だったから、つい前世の癖で腰からタオルを巻いちゃった。

 って、いい男?


 私はオネエさんの視線を確認する。


 あ。

 このオネエさん、凄い乙女の顔してたっくんの事見てる。


 そこで、私は恐ろしい事を思いついてしまった。


「ねえ。たっくん」


「なんだ?」


「せっかく知り合えた仲なんだから、このオネエさんと一緒に他のお風呂入って来たら?」


「は?」


 私の提案に、たっくんは顔を青くさせて固まる。

 そして、オネエさんが目を輝かせてたっくんを見た。


「な、何言ってるんだ? ははは。冗談はよしてくれよ」


「冗談じゃないよ。とても良い考えだと思ってるもん」


「ふふ。お嬢ちゃん良い子ね。そうよね。せっかくなんですもの。一緒に入りましょう?」


「いや。俺は――」


「ほらほら」


 私はたっくんの背中を押して、オネエさんの前に差し出した。


「ジャ、ジャスミン!?」


「行きましょ」


 そして、オネエさんが慌てふためくたっくんの腕を取って、強引に連れ去って行ってしまった。


 ごめんねたっくん。

 でも、わかってほしいの。

 この先に進むには、私は良い子では、いられないの。

 許してなんて言わないよ。

 だから、代わりにありがとうって言うね。

 ありがとうたっくん!

 私、たっくんの事忘れないから!


 そんなわけで、私は露天風呂の扉に手をかける。

 鍵はかかっていないようで、ここまで来るのに時間がかかりはしたものの、扉自体は何の問題もなく開ける事が出来た。

 そして、扉を開けた先の光景を見て、私は自分の目を疑った。


 え?

 どういう事?


 まず最初に飛び込んだのは、大きくて広い露天風呂。

 そして、露天風呂で仲良く談笑している手のひらサイズの小人さんだ。

 小人さんは、漫画やアニメでよく見かけるデフォルメされたキャラクターのように、姿が二頭身だった。

 そして、小人さんの背中には、楕円形だえんけいに近い羽が生えている。


 もしかして、あの小人さんが風の精霊さん?

 と言うか、何でこんなに平和な感じなの?

 私、縄とかで縛られたりとか、そう言うの想像してたんだけど?

 あ。でも、あれ可愛い。


 よく見ると、お風呂に浮き輪を浮かべて、それを使ってお風呂に入っていた。

 私はその姿に目的を忘れて癒されていたけど、精霊さん達と一緒に楽しくお喋りしている人物を見つけて、困惑した。


 あれ? え?

 ニクスちゃん!?

 精霊さん達と談笑してるのって、ニクスちゃんだよね!?

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