006 幼女は事件のにおいを嗅ぎつける
「結局見つからなかったね」
「そうね。残念だけど、諦めるしかないわよね」
そう言って、リリィは落ち込んでため息をついた。
私とリリィはフラワーサークルに行って、リリィのハンカチを探したのだけど、結局見つける事は出来なかった。
そして、これ以上探していても仕方がないと、諦めて村まで帰ってきた所だった。
村まで帰ると、人だかりが出来ていて、なんだか村が騒がしい事に私達は気がついた。
「何かあったのかな?」
「そうね。どうしたのかしら? 聞いてみましょう?」
「うん」
私とリリィは人だかりのある所まで行くと、その中の1人に声をかけた。
「何かあったの?」
「ああ。ジャスミンにリリィかい? 子供は気にしなくても良い事だから、早くお家へ帰りなさい」
「はい……」
どうやら、私達子供にはあまり知られたくない事の様で、他の大人達に聞いても誰も何も教えてくれなかった。
「何も教えて貰えないと、逆に気になるわよね」
「あはは。たしかに……」
リリィの言った事はもっともだ。
隠されると余計に気になっちゃうもんね。
私はリリィと一緒に、大人達からこそこそと隠れて、聞き耳を立てて盗み聞きをする作戦を決行した。
そうして得た情報がこれ。
「ループスさん家の、ルピナスちゃんのパンツも盗まれたみたいだぞ」
「何だって!? これで何件目なんだ!?」
「もう5件目だ。いったい誰が犯人なんだ?」
うん。
ただの下着泥棒が出たって話題でした。
たしかにこれなら、わざわざ子供に言う事でもないよね。
それどころか、子供には聞かせたくない話題だ。
「許せないわ!」
「え?」
リリィの言葉に振り向くと、騒ぎの原因を知ったリリィが、怒りのあまりに震えている。
「女の子の下着を盗むなんて最低よ! 絶対に捕まえてやるわ!」
「ちょっ、ちょっとリリィ。落ち着いて」
「何言ってるのよジャスミン! これが落ち着いてなんていられるもんですか!」
うーん。
どうしたものか?
……あっ。
でもそうか。
私は前世の記憶が甦って男の思想が混ざっちゃってるから、下着泥棒って聞いても、何だそれだけかって思っちゃってるのかもしれない。
たしかに、普通に考えたら同じ女の子としては、黙ってられないもんね!
「私だって、ルピナスちゃんやジャスミンの脱ぎたてパンツがほしい! そんな羨ましい犯人は、捕まえてやるわ!」
「って、え!? そっち!?」
どうやらリリィは、私の想像を遥かに超えた先にいたようだ。
どうしよう?
私の中のリリィのイメージが崩れていくよ?
これじゃあ、前世の私以上にやばい人だよ。
「ねえねえ、リリィ。色々ツッコミたいところだけど、そもそもな話、別に脱ぎたてを盗んでるわけじゃないと思うんだけど?」
「……どうしてそう思うの?」
「え? どうしてって、洗濯物の中に下着も一緒に入っていて、それを干してたら盗まれたんじゃないの?」
「一理あるわね」
「え? 一理なの? むしろ、それ以外考えられないよ?」
いったい、他にどんな方法があるのだろう?
「とにかく、このまま黙って見過ごすわけにもいかないわよね! ジャスミンッ! 私、殺るわ!」
あれ?
なんか、やるのニュアンスがおかしかったのは気のせいかな?
って、そんな事より。
「でも、こういう事は大人に任せた方が良いと思う」
「何言ってるのよジャスミン! パンツ泥棒は女の子のパンツを盗むのよ!」
「ま、まあ。もし自分のパンツが盗まれたら、気持ち悪いなって思うかもだけど……」
「だったら、被害を受ける前に、子供の私達が捕まえなきゃじゃない! このままじゃ、パンツが危険な目に合うわ!」
「うん?」
パンツが危険な目って何?
と言うか、子供の私達が、そんな変態な人物を相手にする事の方が危険なんじゃ?
「そうと決まれば、善は急げよ!」
いつになく闘志を燃やすリリィは、最早止められそうにない。
本当にいつものリリィは、どこへ行ってしまったんだろう?
でも何故だろう? そんなリリィを見ていると、何だか楽しくなってきた。
もしかしたら、前世の記憶が甦って冴えないおっさんだった自分の性格が、今のリリィのノリに合っているのかもしれない。
そう思った私は、リリィの暴走につきあってみようかなと思った。
せっかく生まれ変わったんだもん。
楽しく生きなきゃ損だもんね!